渋谷カナ
3話 渋谷カナ
「ウィッチ・パラダイスから……」
「はい、ソフィア佐伯さんの助手で、渋谷カナといいます」
「ソフィアさんは?」
「もうすぐ着くと思います。わたしは、自宅から直に来たもので、早く来てしまいました」
「おい森尾、なんだこのチンチクリンは」
「あの、言おうとしてたのですが、その、あまりおかしな事がおこるので、そういうのが詳しい友人に相談したら、見に来てくれると」
「それが、あのチンチクリン?」
「あの、チン・チクリンではなく渋谷カナです……」
「チン・チクリン……。笑わせてくれるなお嬢ちゃん」
「べつに笑わせるつもりは……。でも、ココおかしいです。なんだか異世界地味てます」
「ああ。ここでは、今、異世界を舞台にした劇を作ってるからな。そう感じられるのも当然かな。うれしい事を言ってくれる」
「あ、そういうコトでは、なく。この場所に異界の気配が……だいたいの事は聞いて来ました。ここで怪異が起こるのもわかります」
裏原宿 「ウィッチ・パラダイス」三階事務所。
「お疲れ様です」
事務所の奥部屋は二階の占い部屋の占い師が使うロッカールームがある。
仕事を終えた占い師はここへ着替えに入る。
今、事務所に来たのは2番の部屋の「Mr.B」という黒い覆面をかぶった頭から下まで黒装束の占い師だ。
ダボダボの覆面の額のあたりにある白地のBという文字が目立つ。
彼は占星術や姓名判断、霊感占いを得意としている。
「おぉベンちゃん、お疲れ」
「あ、オーナー。いらっしゃてたんですか」
Mr.Bは覆面を取り汗をふきながら。
「ベンちゃん、最近は副業の方。繁盛してるそうだけど。あ、こっちが副業?」
「いや、どちらも本業です」
「イイ相棒見つけたんだってね。評判だよ」
「まあ、まえのおばさんよりはずっとイイです。オーナーの方も、けっこう手びろく」
「あ、僕の方はね、それこそ副業っていうか、あ、商売じゃないから金にならないんだよ趣味に近い」
「聞きましたよ、あのオケラ座の盗難事件。首突っ込んでるって」
「ああ、それはソフィちゃんが勝手に」
「なんだか面白そうな事件ですよね」
「まあね、面白いで済めばいいけど」
「弁天寺さん、3番の電話に」
「え、誰から?」
「二階堂さんです」
「はい、俺だ。こっちには電話するなと」
《だって、いくらかけてもケータイ出ないじゃない》
「仕事中だからしょうがないだろ。で?」
《仕事代、振り込まれてないよ。サイフ、すっからかんなんだ》
「仕事忙しくてな、忘れてた。でも、金遣い荒いなぁおまえ。前の分もう遣ったのか」
「ベンちゃん、金払い悪いと逃げられちゃうよ」
「わっ、オーナー。盗み聞きですか!」
「そんなぁ。彼女の声が大きいから聞こえちゃたんだよ。もしもし。二階堂ちゃん。ベンちゃんの払いが悪い時は、いつでもやめてイイからね。オジさんが雇ってあげるから」
《???……だ〜れ》
「気にするなエレ。わかった、すぐに振り込む」
ガチャ
「オーナー。やめてくださいよぉ」
「二階堂……エレちゃんっていうの。イイ声してるね子だね。いくつ?」
「油断すると、ホントに持ってかれちゃうからなぁ」
ガチャ
「マジ、遅くなっちゃたわ。あ、オーナーだ」
「お疲れ、ソフィちゃん」
「オーナー、クルマ貸して!」
「何処行くの?」
「埼玉にあるオケラ座の稽古場です」
「お疲れさまですソフィアさん。電車の方が早いですよ。この時間は」
「あ、Bさん。でもね駅から遠い辺ぴなトコにあるから」
「ハイ、キィ」
オーナーからキィを受け取ったソフィア佐伯は、ロッカールームに入りコートを来てすぐに出てきた。
「クルマは地下の駐車場だよ。あわてない、あわてない。気をつけて」
「ありがとうございます!」
つづく