二階堂エレ
2話 二階堂エレ
あたしは、幼い頃ピアノを習っていた。
先生は可也谷真央先生という中年の女性。教えてくれたのはピアノの弾き方だけじゃなかった。
先生はあたしと会うなり。
「感じるだけ。見えるの?」と。
あたしには「力」が、あった。
先生はそれをみぬいた。そして、その「力」の使い方も教えてくれた。
再び弁天寺という男と会ったのは、初めてライブハウスで会ってから三日後。
あたしは、ねぼうして午前十時に登校。
駅に向った。
駅のホームで。
「おはよう二階堂さん、お早い登校で」
ナニそのひにく。
「あんたストーカー。気持ち悪いんだよ、あたしが、早く学校に行こうが遅く行こうが、あんたには関係ないじゃない!」
「元気いいね。いいことだ。ねぇエレちゃん。アルバイトしない?」
「あたしはバイトはしませんし、気安くエレとか、呼ばないで」
こいつ、スカウトとか言ってたけど。
裏オプかエンコー。売春組織のじゃ。
「アンタ、女子高生を水商売にあっせんしたりしたら捕まるよ。ま、知っててやってんだろうけど」
「水商売。勘違いしなさんな。俺はそっちの業界には縁はない。知り合いのマンションなんだけどさ」
「やっば、そっち系。エロいバイトは、しません! 近づくと蹴るよ」
「どういう誤解だ。知り合いのマンションにな、悪い霊がいるんだ。キミの能力を活かしてみないかと」
「悪い霊、能力……」
劇団オケラ座の稽古場。
亀と鷲を合わせたような奇怪な顔の生物が真っ赤なマントをひるがえし言った。
「クッカカカ、姫は今日から私のものだ。お前には私の子を産んでもらうよ」
「王様、それでは話が違います」
猫顔で猫耳、長い金髪ヘアの上に王冠を乗せた姫が逃げようとするのを、つかみ止める亀鷲顔。
「なんてわたしは不幸なのかしら大いなる女神サルメィアよ力を下さい。イレウボ・ノ・イアッ!」
するとブタのような太ったキャラクターが姫の前に現れ、立ち。
両手を上げたと思ったら。
ブタの体が布きれのようになって、パッと消えた。残されたのはブタキャラに入っていた着ぐるみ役者の痩せた男だった。
「うわぁ! なんで僕はこんな所に」
「カット! カット! そいつは、こっちが聞きたい寺島! なにやってんだ。お前の出番はまだ、さきだろう」
「あ、監督ぅ僕、さっきまで控室に……」
「おい、寺島。着ぐるみはどうした?」
「ええ、どうしたってさっきまで着てましたよね僕」
「着てました。今、目の前で布きれのようになって消えました。私、確かに見ました監督」
「ああ、俺も見た。誰だ妙なマジック使ったのは? まったくよぉ最近こんな事ばかりだ。だれだ、名乗り出ろ、今ならげんこつ一発くらいでゆるしてやるから」
「監督ぅココには、あんなこと出来る奴、居ませんよ」
「ああ、カトーおまえなんか知ってるのかぁ。知ってるなら言え!」
監督の腕がボクの首に。
「ててて苦しいです監督。そんな奴、居ないから」
「誰か俺に恨みでもあるんじゃねーか」
「やめて下さい監督。パワハラですよ」
「森尾ぉおまえは、あのマジックどう思う?」
今日は、朝から監督の機嫌が悪い。マペットや着ぐるみが何体も消えてるからだ。
唯一監督の暴走をおさえられるのが助監督の森尾菜々さんだ。
監督が森尾さんに惚れているのはスタッフ全員が知っている。
「アレは手品やなんか仕掛けて出来るものとは……思えませんけど」
「おまえもか、みんな今回の公演は、呪われてるとかなんだとか、なんだソレは。せっかくまわってきた俺の晴れ舞台をいったい誰がなんのために邪魔してるんだ。俺が、ついに演出出来るこの企画をだ。邪魔する奴、俺に恨みがある奴は誰だ。出てこい!」
「しばらくお稽古休憩!」
森尾さんの一声で、稽古は休憩に。
森尾さんは持参した水筒からコーヒーを出し紙コップに入れて監督に渡した。
「加藤岡くん、どう」
「ありがとうございます。森尾さんのコーヒー美味しいです」
「そう。入れる時に愛情いっぱい入れてるだけよ。豆は安物よ」
ガランガラン
なんだバケツの転がる音が。劇用の小道具のカネのバケツだ。
「イタタタ」
「誰だ! おまえ、見かけない奴だな」
稽古場の入り口のところに女の子が。
バケツで転んだらしく立ちあがった子は、子供ではなく大人? 少女ぽいけど可愛らしい感じの大学生くらいの娘だ。
二十五のボクよりは若いだろう。
「あ、すみません。お稽古の邪魔しちゃいました? わたし、裏原のウィッチ・パラダイスから来ました」
つづく