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94話


 「あの、生徒たちが失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした…私の教育が行き届いていないばかりに……」


 先生らしき人物はペコリと頭を下げる。俺もそれにつられるように頭を下げてしまう。


 「あ、いえいえ…こちらこそ、突然お邪魔してしまって」


 「いえいえそんな…」


 「いえいえいえ」


 このままだと二人のイエイエ星人を生産してしまうことになりかねないので、このあたりで切り上げる。


 「あの、ところで依頼と仰っていましたが…」


 「はい、俺の名前はサトルです。実は――」


 依頼内容と簡単な経緯について先生に話してあげると、ひとまずは安心してくれたようだ。


 「あぁ、こちらが出した依頼で間違いないです。こんなにも早く来て下さるとは思ってもみませんでしたので…本当に失礼しました。私は、生徒たちの教育と、ヘラヘクス様の教えを広めている『ドメーヌ』と申します」


 ドメーヌと名乗った女性は一般的なヒューマンだ。齢は三十を超えるだろうか、長い髪に見え隠れしている優しそうな目尻には少しばかりの疲れが見える。


 「かなりお疲れのようですね」


 「えぇ、先程サトルさんにちょっかいをかけていた少年が、ここのリーダー的な存在の『グラン』でして…それはそれはもう、毎日イタズラや問題ばかり起こすちょっと困った子なんです。生まれつき魔力量や身体能力が秀でていたみたいなので……彼みたいな子が選ばれるのかしら…?」


 あのガキンチョか…!。今は、俺たちを気にもとめず、教室の中で机の上に乗って遊んでいるな。…仮にあの子の能力が優れているとして、俺の力でクラスを授けて、それで良い結果を生むことができるのだろうか。国や町にお仕えする騎士や、皆を守れる冒険者になるのであれば、精神面も重要視するべきだろう。ここは、俺のパーティーメンバーも連れてきて決めた方がいいな。


 「すぐに決める必要は無いので、パーティーメンバーと相談してみます。あと、外で授業を受けている子たちは…?」


 廊下の外からは広場がよく見えるので、今でも子供たちが球技のようなことをして遊んでいる。人数はこっちの半分くらいか。地球のどれとも該当しないスポーツだろう。ちょっと気になるが…


 「あの子たちも、いつもは私が面倒を見ています。たまに領主様のお屋敷から、騎士様がいらして直接トレーニングを行って下さっています。座学の成績上位者は騎士候補として、冒険者とは別のカリキュラムを組む必要があるので、授業を分けて対応しています」


 ドメーヌが手に持っている資料を見せてくれる。手渡された資料は二つあり、そのうちの一つの資料には、この町の紋章が描かれている。恐らくこれが、専用のカリキュラムだな。内容をパラパラとめくると、小難しい座学が大半だった。他は実技内容の概要と、それを実施するための大まかなスケジュールが記載されていることが分かる。俺は本をドメーヌにお返しした。


 「少し見た限りでは騎士の学習内容は、どちらかというと戦闘よりも学に特化しているようですね」


 「騎士様は、外に出て魔物や盗賊を討伐するよりも、貴族様の相手や、町中の問題ごとやその後処理を片付ける事務作業を含めたお仕事がどうしても多くなってしまうので、それに比例して授業も難しくなってしまいますね。もちろん強盗たちをやっつけられる武力と基礎体力は、しっかり身につけていただきますが」


 それなら今やっているスポーツも、基礎体力作りの一環なんだろう。名前だけを見れば、冒険者よりも騎士の方が強そうだが、騎士というのは名称だけで、俺が実際に与えるようなクラスの『騎士』とは全くの別物と考えた方が良さそうだな。


 今回の依頼では、戦闘技能に特化したパーティーをひとつ作り上げて成果とする必要があるから、騎士よりも、このガキンチョ一味どもに労力と時間を割く必要がありそうだ。実に残念ながらね!


 念のため、騎士の子供たちに挨拶をして今日は引き上げよう。先生を引き連れて、広場に向かう。せっかくなのでスポーツ観戦させてもらおう。


 三十メートルほどのスペースを使って、魔力で出来た手のひらサイズの球を、二つのチームで取り合っているようだ。広場の両サイド端に、空中投影された魔法陣が三つ浮かんでいる。


 魔法陣はそれぞれ赤、青、緑に着色されており、それぞれのチームが緑、青、赤の順番に魔力球を魔法陣に投げつけている。緑に入ったら一点、青に入ったらニ点、赤に入ったら三点入るようだ。この順番で魔力球が魔法陣を通過すると、陣の上に丸のマークが浮かび上がる。赤まで通るとリセットされて、マークが消えた。他にも順番を間違えるとマークは消えるみたいだ。


 体格の良い男が、赤に入れずに丸マークがついた青にシュートするが、何故か入ったのは一点だけだった。三つの魔法陣の丸マークはリセットされる。


 「あれ?青だからニ点入るのでは?」


 「ウフフ…サトルさんは、『ゴニア』をご存知ないのですか?結構有名な遊びだと思いますが」


 「はは…あまりこういうのは知らなくて…教えてください!先生!」


 「ウフ…面白い人ですね。ゴニアでは―」


 ドメーヌが言うには、ゴニアでは順番が大事らしく、緑、青、赤の順番で球を魔法陣へと通過させないとマークがリセットされ、本来の点数は入らない仕組みらしい。順番を遵守すれば当然高得点が入るが、守備位置が特定しやすくブロックされやすい。しかし、他の陣だけを狙っていては一点づつしか入らない。という駆け引きを楽しむスポーツのようだ。…うーむ、難しい。しかし教育目的だけに使うのは、勿体ないくらい面白そうでもある。


 一セットマッチが終わったようなので、ここでドメーヌが騎士候補の生徒たちへ招集をかけた



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