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90話


 里で宴を楽しんだ俺たちは、里の入り口までチャーオスにお見送りしてもらって、森の入り口付近でそのまま一泊した。移動手段の頼みの綱である御者は、定期的に戻ってくると言っていたので、狩りでもしながら気長に待とうと思っていたが、早朝にはいつもの御者が迎えに来てくれていた。どうやらゴーレムの村で酒を呑んでいると、ギルドの鳥がシールドウェストに向かって飛んでいる所を見たようで、わざわざ見に来てくれたのだとか。…この御者は恐ろしくせっかちだが、エスパー並な仕事が出来る奴だった!


 「サトルさん…あの、本当にありがとうございました。貴方の案内役ができてわた…ぼくはとても嬉しかった!母の家も、貴方たちのおかげで無事だった!」


 出発ギリギリまでチャーオスがお見送りをしてくれる。御者との待ち合わせ場所で一泊する際にも、帰ってもいいよと伝えたが、最後までお見送りしてくれると言っていたので、こうして御者が来るまで話し相手になってもらっていたのだ。


 「こちらこそ、本当にありがとう。君のお母様にも、よろしく伝えてほしい。本当にあの料理は美味しかった…」


 「う…うん!ね、ちょっとまって…!コレ…う、受け取って!」


 チャーオスが懐から木彫りの魚を差し出してきた。


 「これは?」


 「こ、これは…お守り…かな?」


 木彫りの魚は、お世辞にも売り物になるような上品質な出来とは言えなかったが、至る所に細かな調整を加えた彫りがあり、時間をかけて心を込めて作ってくれたことが分かる。上ビレにはヒモを通せるよう小さな穴が空いており、首から下げるのにはちょうど良さそうなサイズ感だ。


 「ありがとう。大事にするね」


 チャーオスへ手を差し出すと、彼は顔を真っ赤にしてあたふたした。


 「よよよ、良かった!喜んでくれて!?よろしくお願いします!」


 訳の分からないことを言って両手で俺の手を掴み、頭を下げる。


 「う、うん??改めてよろしく?あ~そういえば――」


 そんなやり取りをしていると後ろから御者が現れた。…しまった!彼はせっかちなんだ!


 「うぉ~い!はよせ~い!せい!」


 御者は、俺を持ち上げてそのまま馬車の荷物置き場にドカンとぶん投げる。恐ろしい力の持ち主だ!


 「うぉ!?やっぱりこうなるの~!?」


 …なんだろう、この気持ち。大事な話の途中だった気がするんだが…まぁ何日も定期的に見に来てくれた御者からしたら、そりゃ早くシールドウェストに戻りたいだろうが。だが言わせてほしい。


 「せっかちな奴め!」


 チャーオスは握手の姿勢でそのままポカンとしていたが、ッハと我に返って俺に何かを伝えようとしてくる。


 「さ、サトルさん!わた…いやぼくは…いえ、わた―しは…」


 「よーし出発するぞおおお!じゃあなぁ!エルフのお方!」


 御者は馬にビシンとムチを鳴らし、勢いよく馬車を出発させる。


 「えぇ~…」


 チャーオスはあっという間に遠くなる馬車を見つめることしか出来なかった。だが、その顔は晴れやかなものだった。


 「サトルさん…またいつか」


 チャーオスの秘密と、その気持ち。自分の口からサトルに伝えることは出来なかった。でも、それでも良かった。またいつか会える。それだけで……。


 ――馬車の荷物置き場で揺られる俺たちは、超ハイスピードでシールドウェストに向かっている。あのカルミアタクシーに匹敵する勢いだ。カルミアタクシーとは、手押し車に俺を乗せてカルミアがダッシュするだけだが、非常に早い。それと良い勝負ができるなんて、とても良い馬だ。


 僻地から町に向かう道は、段々と整備された場となってきたので、ようやく馬車の揺れも妥協ラインまで収まった。考える余裕が出てきたので、俺はチャーオスから貰った木彫りの魚を取り出してじっくりと観察する。


 魚の目は飛び出していて、口も開いている。う~ん…死ぬほど驚いたみたいな顔にしか見えない。これがお守りか。迫力のある顔だから魔除けにはなるのかもしれない。でも夢に出てきそうだ…


 「…サトル、その不気味な木彫りは何?」


 カルミアが怪しんだ目をして俺の持つ木彫りの魚を見ていた。


 「あぁ、チャーオスがくれたんだよ。お守りだってさ」


 サリーがお守りを見て驚く


 「ア!アァ!?それ、ツガイギョ!」


 「ん?サリー、知っているのか?」


 「うん!エルフの里の風習で、好きな人に送るんだヨ!ツガイギョは生涯パートナーと生きる魚だから、それにあやかってるんだっテ!オヤジも持ってるよォ~」


 「ふ~ん…でもチャーオスって男だよね?俺はそんな趣味無いしな。単純に好意でくれたんだろ」


 「エ?サトル、チャーオスは女性だヨ」


 「え?」


 「気が付かなかったノ?」


 「え…うん。だってぼくって言ってたし、ほら…名前も男の子っぽいし…」


 「ウチ、サトルって鈍いよねって思う」


 「…それには心底同意するわ」


 エルフの顔は美形が多く、中性的で分かりづらい者もいる。また彼女に会ったら、何と言えば良いのか…底しれぬ気まずさが身を蝕む前に、俺は大きなため息をついて、彼女たちの攻める視線から逃れるように外の景色を見る。シールドウェストまでもう少しだろうか?



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