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86話


 里の入り口付近は既に戦場の有様だった。兵たちが防壁の魔法を薄く広く展開するが、命を何とも思わないゴブリンたちの特攻に動揺して遅れを取っている。


 「サリヴォル様。第二魔法障壁のバリケード、突破されました!ゴブリン共、体に何らかの強力な爆発物を巻き付けて突っ込んできます!」


 「こっちで負傷者が出たぞ![ファイア・ボール]!ッチ、体が小さくて当たりづれぇ!」


 「第三防壁まで少しずつ下がるぞ。前線を崩されないように防壁は魔力の余裕があるかぎり張るんだ![ファイア・ボール][ファイア・ボール][ファイア・ボール]」


 二つの杖でダブルキャストしつつ、火の魔法で迎撃を試みる。二匹のゴブリンたちは武器を捨てて全力で回避し、一匹に着弾。体に巻き付けた爆発物が誘爆したせいで付近の木々を巻き込んで破壊していく。


 「なんだ、こいつらは…普通のゴブリンではないぞ」


 ゴブリンたちが人を襲う理由は、通常では食料や生活品を強奪するためだ。結果として人の命を奪うことはよくあるが、こいつらは目的が明らかに違う。まるで――


 「サリヴォル様!危険です!」


 ゴブリンたちの異様な行動に思案していたせいで、一瞬の隙をつかれてしまう。オークが横から迫ってきて、まさに棍棒を振り下ろそうとしていたのだ。


 「ブモオオオオ!」


 「[メイジ・アーマー]!」


 サリヴォルの体は淡く輝き、何重にも重ねられた盾の如き障壁がサリヴォルの眼の前に展開した。棍棒にも爆発物が巻き付けられており、激しい爆発が起きる。思わず手をかざして目をつぶってしまうサリヴォルだが、自身に何のダメージも入っていないことに驚いた。


 「ブ!ウブォオオ…」


 爆発により、棍棒はオークの腕ごと吹き飛ばされており、オークの半身は火傷だらけだった。しかし、まだ目には殺意がこもっており、一矢報いるつもりかサリヴォルに手を伸ばす。


 「さらにィ![イリュージョン・ストライク]!」


 サリーが杖を掲げると、杖の収束点が土色に輝く。魔力が解き放たれるとオークの足元を含めて、至るところから巨大な地の槍が天に向って穿った。回避に失敗したゴブリン十体程度と瀕死のオーク一体を無慈悲に突き刺して爆散させたのだ。


 「今日は地属性だネ!」


 「戦術級の…無詠唱範囲魔法だと……」


 「フッフッフッ…ドヤ?」


 サリーが杖の竜を撫でながらサリヴォルへ使えるだろうアピールをするが、サリヴォルは口をヘの字にさせたままサリーに近づいて怒る。


 「樹から出るなとあれほど言っただろう!ここは戦場だぞ!ちょっとしたことでも死ぬかもしれないんだぞ!!」


 「…!助けてあげたのにナニソレ!オヤジのバカ!」


 「ハイエルフの子たる者がそのような言葉を使うんじゃないと何時も言っているだろう!」


 「今はそんなこと言ってる場合じゃないでショ!アタシだって戦えるんだかラ!!」


 「お前に手助けを頼んだ覚えはない!危ないから下がっていろ!」


 「なんですってェ~!」


 「なんだと…」


 戦場のど真ん中で親子喧嘩を繰り広げるが、ゴブリンたちは無遠慮に突撃爆散を繰り返し、防壁を削っては付近の木々を荒らしていく。これにはたまらず、サリーの部屋で番をしていた護衛兵も進言を憚らない。


 「サリヴォル様、サリエル様…戦場です。負傷者も出ています。どうかそこまでにして下さい」


 「ア…ゴメンナサイ…」


 「う…うぬ……」


 「…分かっていただけたようで、良かったです。ささ、第二防壁も限界です。最後の第四防壁までお下がり下さい。多少の被害は出るでしょうが、建物はまた作り直せば良いのです」


 第三、第四防壁は既に里の中となるため、多少ではあるが建物への被害が出るだろう。ゴブリン共は自身の命など気にもとめずに建物に突っ込んでは破壊していくのは自明。ゴブリンやオークの総数は半分に減っているため、鎮圧も時間の問題ではあるが―


 「でモ!第三防壁の範囲は里の中でその中にはチャーオスのお店もあるんだヨ!?まだ新築なのに、苦労してたって言ってたのニ、可哀想だヨ!」


 「人の命には、かえられません。どうかご容赦を…」


 「それハ…そうだけド……サトルたちが居てくれたらきっと―」


 サリーが杖を握りしめて辺りを見回す。爆発の影響で、至るところから火の手と煙が上がっていた。被害が大きくなるにつれて、サリー自身の胸が痛く辛くなってくる。こんなときでも思い浮かべるのは彼の顔だ。彼たちならきっと


 「サリィ~!!すまない!遅くなった!」


 「…おまたせ!」


 「ウチもいるよ!」


 町の方から現れたのは、サリーが今一番聞きたかった声だ。サトルが近づくにつれて、サリーは自身の力が溢れてくるような、不思議な感覚を覚えた。しかし、今はそれよりも


 「サトルゥ~~~!!!皆ぁ!会いたかったよォ~!」


 サリーは両手を広げて走ってきた。俺も両手を広げて歓迎する。サリーが抱きついてくるが、今日ばかりは素直に受け止めてあげた。サリヴォルはぬあぁと声をあげつつ衝撃をうけたような姿勢をとって、サトルに近づこうとするが護衛兵が止めている。


 「サリーさん、寂しい思いをさせてしまってごめんね」


 「グべぇぇぇエ…へっグ…ザドル~ゥ」


 サリーは変な声をあげて泣いている…これが無ければ完璧な美女なのに…


 「さて、サリーさんを泣かせた相手共を成敗してしまいましょう。みんな、準備は良いかい?四人編成バトルだ!」


 「…うん!」


 「もちろん!スカーレット!」「はい、マスター」


 「ザドルゥ~~~」


 くっつき虫と化したサリーを携えて俺たちは前線に出る。



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