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78話


 黄金の大樹のはるか上部、雲にでも触れそうだと思えそうなほど高い場所。花領域の片隅でサリーは一室に閉じ込められていた。


 「こら出せェ~!!」


 サリーは部屋の入り口をガシガシと蹴飛ばすが、頑丈な大樹で出来たドアはびくともしない。サリーが今いる花領域と呼ばれる場所は、普段はハイエルフが生活する場となっている。大樹のスケールがあまりにも巨大であるため、大樹の中であっても広々とした空間が存在し、大樹側からまるで共生を促すかのように人の住めるスペースが出来上がっている。最低限の手だけ加えた空間は、上部に行けば行くほど高位のエルフが住まうことを許されるため、上部空間に住めるというのはそれだけでエルフにとってステータスだったりする。しかし、そんなものお構いなしにサリーは部屋から脱出を試みたり蹴飛ばしたりしているのだ。


 さすがというべきか、エルフの里では対魔法対策が完璧に施されている。各里にある巨大な大樹は、あらゆる魔力を吸収してしまうという特徴を持っていた。もちろん大樹に近づけば近づくほどその効果は増大する。これは大樹がエルフの魔力を糧としている説があるが、解明には至っていない。いかにサトルのクラスチェンジで人外で膨大な魔力を持つことになったサリーも、大自然の力にはまだまだ及ばないのだ。大樹の中ならば尚更である。


 「サリエル様、どうか怒りをお沈め下さい。大樹が嘆きます」


 入り口を見張る兵がサリーの怒りを鎮めようと試みてはいるが、今のところは火に油を注ぐような結果しか

生んでいない。


 「そう思うならココから出してヨ!卑怯者!バカ~!」


 兵があたふたしてサリーを閉じ込めている扉を見つめていると、ゆっくりとした足取りで誰かがやってきた。


 「やれやれ、家出してようやく戻ってきたかと思えば…これか」


 「っは!サリヴォル様!」


 兵が佇まいを正し、槍を垂直に立てて扉への道を開ける。サリヴォルと呼ばれた男は両腕を後ろに、白いフードつきローブをまとってサリーの監禁部屋前まで来た。


 「サリエル…成人を迎えたのだ。いい加減、反抗期は卒業したらどうなんだ。皆をまとめるハイエルフとしての矜持を少しは持て」


 「その声はオヤジ?アタシはハーフエルフだシ!今はサトルと冒険者するのが楽しいノ!それに沢山の人を笑顔で喜ばせることも出来ル!」


 「その母親譲りのエセエルフ訛り、そしてその笑顔とやらの口癖もいい加減やめろ。もう母は居ないのだ。冒険者など下らん。いい加減お前は、ハーフエルフの立場としてハイエルフを支える安定した安全な仕事にだな―」


 返答は扉を蹴る音で遮られた。


 「オヤジは何もわかってないヨ!もう話すことは無いかラ!」


 「…ふぅ。今日は、ここまでにしておく」


 疲れた顔で部屋を後にするサリヴォル。彼は正真正銘の純血統ハイエルフだ。髪はサリエルと同じ青だが、真っ青なほど色濃く色白の肌を際立たせる。少し歳を重ねたような顔つきだが、鋭い目は獲物を狙う森のハンターを思わせ、高い身長と筋肉質な体からはエルフとは思えない力強さを感じる。そんな姿も、少し背を丸くするだけで、落ち込んでいるのがすぐに分かってしまうものだ。兵はサリヴォルを見送り、サリーへ語りかける。


 「お父様、落ち込んでおられましたが…」


 「いいよ、あんなオヤジなんテ…何にも分かってないんだかラ……。お母さンのことだって、きっと愛してなかったんだヨ。あんなこと言ってサ…。はぁ、サトル…心配しているかナ?」


 「下の兵の話によると、サリエル様抜きの三名で依頼を受けたのだとか噂になっております」


 「はぁ、迷惑かけちゃったかナ。状況も何一つ説明できていないシ」


 「手柄を立てて、武力ではなく説得による交渉で、サリエル様との冒険を続けることを認めて貰うおつもりがあるのではないでしょうか。そうでないと、ダインと出会った時点で依頼は破棄するはずです。暴れもしないことを考えると、それしかないですね。あの者はヒューマンが嫌いでしょう。それに見栄もよく張りますから…」


 「なんでオヤジは助けに来たサトルたちをこんな失礼な目に合わせるノ!?何も悪いことしてないシ!ダインの好き勝手させちゃっテ!」


 「お父様としても、サリエル様に悪い虫がつくのは好ましくないのでしょうな。もちろん依頼の救援に応えてくれたこと自体は感謝していらっしゃるかとは思います。そうでなければ、里にすら入れません」


 「なにそれ!アホらしイ!やっぱりオヤジはわけ分かんないヨ!」


 「ははは…」


 汗を拭う兵だが、口が裂けても似た者同士だなぁなんて言わないと腹に決める。監禁が解かれたときに魔法でもぶっ放されたら死んでしまうからだ。


 「う~む、しかし…」


 彼女は家出の間で別人のように変わった。ちょっとした薬しか作れなかった彼女は計り知れない魔力を身にまとっている。エルフは本能的にそれを察知できるので、この場が魔法が使えない場で良かったと心の底から感じていた。あのサトルという奴が、彼女に何をしたのか?どんな影響を与えたのか、それは父である彼が一番警戒しているところだろう。エルフにとって、彼はどういう隣人となるのだろうか。



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