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77話


 エルフ料理を堪能した俺たちはサリーの帰りを待ったが、一向に帰ってくる気配がない。体感的に数時間はおしゃべりをして暇を潰したはずだが…依頼内容を聞いて戻ってくるにしては、時間がかかりすぎている。


 「ちょっとサリーの様子を見に行こうか。さすがに心配になってきた」


 「あらあら、もっとゆっくりしていっても良いのに…また来て下さいね」


 「はい!」


 店主のエルフさんに気持ち多めにお支払い。名残惜しいが別れの挨拶をして店を後にする。お昼時もすっかり過ぎ去って陽光が黄金の大樹に差し掛かっていた。…思っていた以上にくつろいでしまったな。


 「…大樹自体がサリーの住処と聞いたけど、サトル…どうするの?」


 「サリサリ、大丈夫なのかな…?」


 「まずは入り口辺りに行って、人が居ないか見てみよう。もし居ればサリーについて聞いてみる」


 俺たちは早足で大樹の根本まで移動する。根の部分まで近づくにつれて木々の香りが強くなり、根も自分たちの身長を軽く超えるほどのサイズがちらほら。ただの根も、ここまでスケールが大きいと感動するな。


 根本では二人の衛兵らしき人物が見張りをしていた。一人が交代の旨を告げると、大樹の上部から地面まで垂れ下がっている木のヒゲを足に巻きつけて引っ張る。すると、ヒゲをつかんだ男が大樹の上方へ引っ張られていく。上部に人は見えないので手動ではなく、大樹の意思か魔法かによって引き上げられているのだろう。不思議だ。木から垂れ下がるヒゲがエレベーター代わりという訳か…俺たちも同じように大樹のヒゲを掴んで引っ張れば、上方へ向かうことができそうだな。…ひとまず衛兵に話しかけてみるか。


 「あの、すみません。実は―」


 俺は衛兵に経緯を簡単に説明し、サリーが何処へ行ったのか、また依頼はどうするかを聞いてみた。


 「なるほど…サリエル様があなた方のパーティーメンバーだったと。事情は分かりました。サリエル様はたしかに花領域という、まぁ、分かりやすく言えば王族の居住スペースへ向かわれましたが、神聖な間であるため、エルフ以外の種族はお通しできないのです」


 やっぱり通せないらしい。そう来るとは思っていたが…こうなると取れる選択肢は侵入するか、排除してしまうかだが、職務を全うしている衛兵が悪い訳では無いので、それは最後の手だ。


 「それなら、サリーに依頼のために同行願うようお伝えいただけますか?あとは依頼内容の確認もしたいところです」


 「はい、それ位であればお安い御用です」


 衛兵はヒゲを使って上方に登っていった。さてさて…どういう手で来ることやら。


 カルミアが大樹の根にもたれかかって両腕を組む。ちょっと不満そうな顔だ。


 「…サトルが言っていた懸念とやらが、当たりそうね」


 「ダインは最初から引き離すつもりだったのかな?ウチがサリサリ連れ戻して来てもいいけど」


 イミスはスカーレットの装備を点検しつつ、物騒な提案をしてきた。うちの女性陣は何故みんな考えがバーサーカーになってしまうのだろうか。クラスはぜんぜん違うのに。


 「事情が分からない以上、乱暴な手や下手な動きは取らない方がいい。仮にもサリーが王族なら、彼女を傷つけたりはしないだろうから、そこは安心しているけどね」


 しばらく待つと、衛兵が戻ってきた。ダインも一緒だ。ダインはたいそう不機嫌な顔である。大股で俺たちの前までやってきて、両手は腰にあてたままため息まじりに言い放つ。


 「はぁ。サトルダヨ、お前たちはまだここにいたのか?」


 「もちろん。サリーは何処です?」


 「サリエル様と呼べ…!親族との再会で色々と忙しいのだ。邪魔をするんじゃない」


 「それは…本当ですか?それに、依頼はどうするのです」


 ダインは目を泳がせるが、咳払いをして話の調子を整えた。


 「…ゴホン、うむ。本当だ。その…サリエル様はミトスツリーを統治する族長の親族だからな。危険な依頼に同行させるわけにもいかない。依頼内容は…軽くギルドで聞いているとは思うが、トリエントとドライアドが凶暴になった理由の調査および原因の究明と解決だ。これは族長直々の依頼である。族長本人が顔を出せないことには残念だが、多忙ゆえ理解してほしい。トリエントとドライアドが出没する場所については後日、別の衛兵から案内させよう。これが正式な依頼書になる」


 ダインは簡単な依頼内容と印が押された紙を俺に渡してきた。印が本物かどうかは分からないが、怪しさ満点だ。ここまで頑なに仲間との合流を阻止されると、サリーと俺達を会わせたくないためにでっち上げた可能性を検討すべきか。俺たちの存在も、恐らく族長の目にも止まらないようにしているな…。


 「同行については本人の自由意志を尊重するべきだとは思うのですが…サリーには会わせてくれないのですか?」


 「サリエル様と呼べ。危険なことはさせられないのだ。面会については検討しよう。これ以上はこの問題を解決できるまで、この話はお預けだ」


 「……分かりました。ただ、解決できれば相応の対応を行っていただきます。それすら無ければ、こちらにも考えがあります」


 ダインは何も言わずにそっぽを向いて大樹の上方へ帰っていってしまう。


 サリーは一言も挨拶なしにパーティーを離れるような人物ではない。状況を確認したいところだが、依頼内容と印が押された紙が本物か確認できない以上、今は大人しく依頼をクリアした方が良さそうだ。十中八九、ダインの嫌がらせだとは思うが…。これで依頼は俺とカルミア、イミスで解決させなきゃいけなくなった。万一、ダインがサリーの意思をないがしろにしていた場合は、遠慮なく強硬手段に出る予定だが、そのためにもある程度の大義名分は必要だろう。


 「……エルフたちの困りごとを解決して、サリーを連れ戻そう」



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