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76話


 エルフが営む飲食店というのはとても興味があった。店の中に入るとまず驚いたのは香りだった。何かのハーブだろうか?それを弱火で炙り続けたような香りがする。飲食店といえば肉や魚や酒の匂いが漂うものだと思っていたから、何処かの高級ホテルに入ったかのような場違い感を一瞬だけ感じてしまった。


 「…すごく落ち着く良い香り」


 「ウチもこの匂い好きかも。スカーレットもこんな匂い出せたら良いのに!」


 「わたくしは匂いを感じませんので……そういった機能にはお応えできません」


 カルミアは目を閉じて漂う香りを楽しんでいる。スカーレットは相変わらず執事のようにイミスに付き従っているだけで特に何かを感じている様子はない。さすがに良い魔石を使っても嗅覚は再現出来なかったか。


 「あらあら…うちの香を気に入ってくれたのかしら?」


 片付け途中だったのだろうか、木のテーブルの上に無造作に置かれた食べ残しを回収しながら、女性のエルフは答えてくれた。


 「騒がしくしてしまいすみません。すぐに席に座りますので」


 「あらあら、良いのよ!今は誰もいませんし、たいしたものは出せませんが、ゆっくりしていって下さいな」


 女性のエルフは笑顔で皿を手際よく片付け、四人用の席に案内してメニューを置いてくれる。


 「エルフの文字は読めるかしら?」


 長い髪の毛を耳にかけながら、少し前かがみになって顔色を伺うように心配して聞いてくれた。何だか色気があるエルフだな!?ダインとはえらい違いでビックリする。皆が皆こんなエルフなら俺はこの里に迷わずに住んでいただろう!今からでもそうするべきか!?


 「…サトル、鼻の下を伸ばすな」


 向かいに座ったカルミアが俺のスネを軽く蹴ってきたが、俺には効果抜群の痛みだった


 「ヘグッハァ!?……え、えっと、少しなら読めます…ック!」


 あまりの痛みで変な声が出たが、俺は平然としているフリを装いつつメニューを見る。サリーから教わった単語学習の成果が火を噴くぜ。 メニューにはどうやら豆類を中心とした料理と、魚料理がおすすめと書かれているようだ。多分。メニューの一番最初にデカデカと書かれているから、きっと看板商品的なアレなんだろう。多分。


 「ええっと、この豆…料理をお願いします。あと三人でつまめる、この魚料理もお願いします」


 「まぁ、エルフの文字が読めるなんて偉いです。とっても勉強したんですねぇ。サービスしちゃおうかしら?うふふ」


 楽しげな雰囲気で厨房へ向かう姿を自然と目で追ってしまった。このエルフ、母性を感じる…この二つが組み合わさると危険だ。殆どの男はこれでダメになってしまうだろう。頑張ったわねぇ~とか言って頭を撫でてほしいようなほしくないような衝動に駆られそうになる。これはいけない。だが俺にはまだ理性があった。正面から、雷撃の様な鋭い突き刺すような視線を感じていなければエルフの母性によって即死だったかもしれん。むしろ今から俺は即死するのだろうか。カルミア次第である。


 「サトル…バカなこと考えてないで、これからのこと考えないと」


 「あ、あぁ…そうだな。ふぅ……状況をまとめようか。まず、サリーは族長とやらのところに連れて行かれた。俺たちは来客ではあるが、待機を命じられている。依頼内容はサリーが聞いてくるだろうが、俺はここに懸念がある」


 「…どういうこと?」


 「サリーはサリエル様と呼ばれていたから、ここでは偉い人になるんだと思う。サリーの本名がこの村の命名と絡んでいる以上、王族と考えるのが妥当だ。ダインさんの性格やエルフたちの立場を考えると、命の危険がある仕事を、王族が行うことは良しとしないだろう」


 「…サリエル・ジロスキエント。出会った頃に教えてもらっていたけど、すっかり忘れていたわね」


 「ウチ達でやるしかないってこと?」


 「高い確率でそうなると思う。それだけなら良いんだけど…」


 「…まだなにかあるの?」


 「あぁ、ただこれは推測だからまだ言葉に出すべきではないかもしれない。まずはサリーの帰りを待とう。それ次第で、俺たちが取る行動を決めようと思うけど、二人はそれでいいかい?」


 二人は笑顔で頷いてくれた。依頼ひとつ遂行するだけでもかなりアウェイな状況でやりづらいことこの上ないが、俺には頼れる仲間がいる。ただ笑顔でそばに居てくれることがこんなにも心の支えとなるのかと、実感するばかりだ。


 しばらくすると、料理が運ばれてきた。香ばしい豆とハーブの香りが店中にたちこめて俺たちの胃袋を刺激する。豆料理は無駄にしつこい匂いでもないし、嫌味な匂いでもない。自然と食欲が掻き立てられるような、ハーブの香りだ。食欲がない暑い日には元気が出そうで、沢山食べられそうだな。


 魚料理は香草がたっぷり詰め込まれていて、臭みがしっかりと消されているのが分かる。見たことのない木の実と、魚の横にあるフェザースティックのような飾りつけがオシャレだ。


 「うふふ、お待たせいたしました~!おかわりは無料にしておくので、お腹いっぱいになるまで食べていって下さいな~。この飾りは、大樹の恵みを得られるよう願掛けをするものなんですよ~。飾り木は食べられないので注意してくださいね~」


 食事にまで装飾にこだわるエルフ料理、ステキだなぁ。黄金の大樹を模したというフェザースティックもどきからは何とも落ち着く香りがして、心が洗われるようだった。




 

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