75話
哨戒エルフの案内のもと、俺たちは里の入り口まで到着できた。森の中でも人が通れる道はある程度整っていたので、案内が必要な程迷うことは無かったかと思うが、サリエル様をお守りするのだと言って聞かなかったのだ。里の入り口は大樹で出来上がった自然の門で閉ざされている。
「皆!サリエル様がお戻りだー!!」
哨戒エルフが叫ぶと、入り口を閉ざす大樹の根が俺たちの進む道をメキメキと開けてくれる。すると、里へと続く道が完成した。魔法による効果ではあると思うが、大樹の根で入り口を開け閉めするという考えに至らなかったので驚いた。こういった数々の仕掛けが、今のエルフの秘匿性を作り上げているのだろう。ヒューマンとは違って、生活の一部に大地の恵みを取り入れる彼らは、自然と共に生きるという考えが根本にあるということを改めて感じさせてくれる。
シールドウェストから最も近いエルフの里のひとつ。その中でも最大勢力である、ジロスキエント・ミトスツリーは「里」と言うには、些か大きすぎる場所だった。大樹の門が開くと、黄金の葉を持つ大樹が里の中央に鎮座しているのが遠くからでもはっきりと分かる。あの黄金の大樹こそがハイエルフが管理しているもので間違いなさそうだ。大樹の全長は首を上にあげるのが痛くなるほど高い。黄金の葉は絶え間なく里全体に降り注いでおり、葉が地面に落ちると同時に魔力の粒となって空へ消えていく。
住宅は
「ここが…エルフの里」
「そうだ、非常時や交易以外で里外部の者を招くことはあまりない。サトルダヨ、感謝することだ」
「はい、あと俺はサトルです」
「今からサリエル様がお戻りになったことを族長に伝えねばならん。しかしながら、お前らはエルフでもハイエルフでもない他人だ。よそ者を神聖なるミトスツリーまで連れて行くことはできないからな。宿でも取って待っていろ。サリエル様はご同行願います!」
ミトスツリーとは恐らく黄金の葉をつけた里中央にある大樹のことだろう。ハイエルフが管理しているところと、今までの対応を考えるとサリーはそこの関係者ってところだな。
「えー、ヤダヤダ!サトルたちと一緒じゃないと行かないもんネ!」
サリーはべーっと舌を出して挑発する。哨戒エルフはお手上げのようで、どうするべきか手を出したり引っ込めたりしている。少し口出しするべきか…
「あのー哨戒のエルフさん」
「なんだ、サトルダヨ。俺にはダインという名前があるぞ」
「ダインさん。俺たちはエルフの皆さんが困っているという話を聞いて、助けるために遠方からここまで旅をしてきました。規則があるようで難しいことは理解しているのですが、もう少し融通して頂いても良いのではないでしょうか?」
「ぐ…し、しかしだな。族長に会わずとも依頼内容を聞くだけなら、サリエル様だけでも良いだろう。お前たちヒューマンは何時だって問題ばかり呼び込むから信用ができん。助けに来たというのも建前かもしれんだろう。族長に危害を加えないという確証がないからな」
「初対面であり信用ができず、憶測で語るのは簡単です。ですが…命を張る以上は、このような対応には納得が出来ないのです」
「お前が納得出来なくても一向に構わん!仕事をこなせば、その分の報酬を与える。働きに応じた報酬を与えるのが我々の誠意だ。何の問題も無いだろう」
思っていた以上に、このエルフは選民意識が強く頑固だ。正直、依頼者と直接顔を合わせなくとも問題解決に向けた動きは可能だろう。俺としては、命を張って助ける以上は、最低限の敬意を払ってほしいと考えていた。ただ、ビジネスと割り切ってしまえば、報酬を払えば問題ないという考え方も間違ってはいないと思う。…超腹立つけどね。過去にヒューマンと確執があるなら尚更だろう。色々な種族があり、様々な生活スタイルがある以上は、これ以上気持ちの部分を言い合っても平行線を辿ってしまうだろうな。
「ダインさんのお考えは、分かりました…今はそれを受け入れようと思います。サリー、申し訳ないけど俺たちの代表として、話を聞いてきて欲しい。大丈夫かい?」
「ブーブー!だからこの里嫌いなんだよネ!」
サリーはブーブー言いつつもダインと一緒に黄金の大樹に向かっていった。俺たちは手持ち無沙汰になったので、近くの飲食店に入って、サリーの帰りを待つことにした。食事でもしてれば帰ってくるだろう。エルフの飲食店には何があるのか、実はちょっと楽しみだったりする。
黄金の大樹に対して円を描くように建物があるのだが、そのどれもが細かな部分まで意匠を凝らしたデザインになっていて、外観は草木の絵が彫られている。塗装は無く、彫刻刀で描いた絵のように彫りの深さだけで草木のイメージを見事に再現していた。外観がやや装飾過多な気もするが、全体的に白を基調とした建物が綺麗で、黒色はどの建物にも一切使われていないのが特徴だ。
飲食店は分かりやすくフォークと皿のマークの看板が描かれているので、分かりやすい。ここはシールドウェストと似ている部分だな。
「カルミアさん、イミスさん。こちらの店に入ってみませんか?」
「…うん、良いよ」
「は~い!…サリサリ大丈夫かなぁ~?ウチ、心配だなぁ」
「今は彼女の帰りを待つしかないさ。美味しい食事で気分転換しよう」