74話
「何者だ!ここは我がエルフの領土だぞ!」
典型的なエルフ…といった出で立ちだ。男性だが長髪、金髪で目つきが鋭い。槍を持ち、鎧は軽装でモンスターの鱗を鋲で貼り付け補強されている。所々に自然の恵みを意識したデザインは自然と共に生きる者ならではといったところ。
ここは友好的に行こう…元々、助けるつもりで来たのだから、こんな所で流血沙汰など失敗以前の問題となってしまうのだから。
「……脅かしてしまい、申し訳ございません。俺たちはシールドウェスト所属の冒険者で、こちらの里から依頼を受けてやってきました」
哨戒のエルフは、やや警戒しつつも槍を戻してくれた。…良かった、戦闘は回避できたようだ。
「む、確かにそういった者が近々来るかもしれないと連絡は受けている。身分を確認できるものは?」
「これで信用してもらえるかな?そこの茶髪の女の子は最近仲間になったので、証明できるものはないけど、あと全員分はあるから確認してほしい」
俺はイミスを除くメンバー全員分のギルド証と紹介状を手渡した。
「確認する。しばし待て」
エルフは紹介状を読み終わったあと、ギルド証を見て手が止まった。
「む!サリーと書かれている者の顔をよく見たい。どこだ?」
サリーは口笛をふいて後ろを向いていた。…いくらなんでも怪しすぎだろう。
「ピュ~ピュ~…」
「あそこで口笛してる奴です」
「そこの御方…恐れ入りますが、お顔を拝見させて頂くことは?」
何故か畏まった様子で哨戒はサリーに話しかける。口笛ふいてる奴なんだからもっと適当に尋問していいぞ!
「う…!はぁ、参ったなァ。わかっタよォ~」
サリーは振り向いて哨戒の顔を見る。哨戒エルフはみるみるうちに顔を青ざめ、膝をついた。
「や…やはり。大変失礼しました。サリエル様。無事にお戻り下さいましたこと、感謝申し上げます……」
「ん?なんで兵士さんがサリーの名前を知っているのでしょうか?もしかしてお知り合いの方ですか?それにお戻りって、サリーの家はこの付近なのかい?」
俺は疑問に思ったことを質問してみたが、哨戒エルフの顔は真っ赤になり、わなわなと怒り出す。青くなったり赤くなったり忙しいエルフだ。
「き、貴様!サリエル様になんたる口の聞きかたか!無礼にもほどがあるぞ!」
「え?ご…ごめんなさい?」
「見張りのエルフさん、アタシは大丈夫。サトルはアタシの大事なパートナーだヨ」
「ぐ…それは…本当でしょうか?」
「ウン!ホントーホントー!」
サリーは俺の腕に巻き付くように抱きついてきた。それはそれで嬉しいのだが、哨戒エルフのお顔が大変賑やかなことになっているので、その辺りにしておいたほうが良いだろう。あとサリーが持っているダサダサの杖の装飾品がぶつかってきて地味に痛い。…いつまで持っているんだろうそれ。
「サリエル様!おやめください!そのようなヒューマンなどと…」
「そのようなヒューマンじゃなイ!サトルだヨ!」
「そのようなサトルダヨとご一緒になられては、あの御方が悲しみますよ!」
「そんなことないモン!サトルはみんなを笑顔にするんだかラ!」
しばらく二人で言い合いを続ける。…察すると、サリーはこのエルフの里出身で、実は高名な家柄なのかもしれない。これは、依頼を受けるだけという流れは…難しいな。とりあえず里に行って依頼を受けなければ話も進まないだろう。
「あの、依頼があるので里までご案内いただきたいのですが…」
「…フン。貴様、サリエル様からの信頼を勝ち取ったからといっていい気になるなよ。どこの風の葉とも知れない奴とサリエル様がパートナーなどと…絶対に許されないことなのだからな!」
哨戒エルフはビシっと俺に向けて指を指して、振り向き大股で歩いて行く。ついてきても良いということだろうか。思っていた歓迎とはちょっと違ったが、話が前に進みそうで良かった。…それより
「サリー、初耳だよ…一体どういうこと?もしかしてサリーは、とっても偉い人だったの?」
「ウーン…偉い人、というか何というか…アタシの家系はミトスツリーを守っているかラ…みんな有難がって、偉いって勝手に思われているというカ…」
「なるほど…御者さんの話と合致するね。ということは、サリーはハイエルフなのかい?」
「アタシはハーフエルフで間違いなイ。アタシのフルネームは、サリエル・ジロスキエント・ミトスツリー…サトルたちがサリーって呼んでくれるほうが好きかナ」
なんだか色々と訳ありのようだ。本人もあまり話したがらないから、今すぐ聞ける内容はここまでにしておこう。重要な話は本人がいつか、話せるときが一番のベストだと思うから。
「事情があるのは、分かったよ。でも、困ったことがあったらいつでも言ってほしい。俺たちは仲間なんだから」
「…ウン!サトル~!」
サリーがまた巻き付いてきた。はいはいとなだめながらも、哨戒エルフについていく。話している間にだいぶ距離が遠くなってしまったので、哨戒エルフは地団駄を踏んで怒っているのが分かった。ハイスピードでこちらへ向って来る。サリーが巻き付いているのが見えたのも原因のひとつだろう。やれやれだ!
「おい!サトルダヨ!置いていくぞ!?あとサリエル様から離れろヒューマンの臭いが感染ったらどうしてくれるんだええ!?」
「わ、分かりましたよ。あと俺はサトルです。ほら、サリー…歩きづらいから一旦はなれなさい」
「ブーブー」
サリーはブーイングかましつつも、きちんと言う事を聞いてくれた。さて、難しい依頼になるぞ。