表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/478

73話


 御者によれば、ジロスキエント・ミトスツリーというエルフの里は、ハイエルフの一族が代々に渡って神聖な木の集落を管理、統治している場所だそうだ。ヒューマンとの関わりがある里ではあるが、里の中に人を招くことは、こういった機会に恵まれないとあまり無いらしい。大変幻想的で綺麗な空間だという話だが、その機密性からか、出入り出来る者の中で里の詳細を表に出す者は少ない。これは、里を守っている結界魔法や、防衛系魔法の流出を防ぐ目的があるとかないとか…。


 里の者は大概がエルフだが、エルフの血をより濃く先祖返りさせた者はハイエルフと自称する。肌色は白くブロンドの髪、スタイルは良く耳が尖っており、通常のエルフよりも高い魔力と高度な魔法操作ができる種族ではあるが、その優秀さからか選民意識とプライドが無駄に高いという欠点を持っている。個性もそれぞれであるため、もちろん例外もいる。


 「おまえら~見えてきたぞ~、ここからは足だからもう降りる準備しとけよ~」


 街道から少し外れて、木が生い茂る境目に馬たちを休ませる場所があり、ご丁寧にエルフの里はこちらという立て札がかかっていた。ここからは歩く必要があるのだろう。


 「10日後から毎日夕方くらいに顔出すから、出発したいときはここに立ってな!積んである荷物もシールドウェストのギルドに運んでおくからな」


 「はい、御者さん。ありがとうございました。」


 最低限の挨拶だけ済ませると、御者は馬の世話を始めた。ここからは俺たちだけで進む。ギルドの紹介状によれば、森を立て札にそって進むだけで見張りのエルフと遭遇できるとのこと。そこからは里に入れてもらえるように伝える手筈だ。


 「う~…ウ~ン」


 森に入るとサリーがうめき出す。いつものサリーらしくない上、しきりに周りを気にしている姿がなんだか挙動不審に感じるなぁ…。そう言えば、ここに来る前から乗り気じゃなかったっけ。


 「サリー、大丈夫かい?何ならゴーレムの村で休んでても良いんだぞ」


 「だ、ダイジョブだヨ!?サトルたちと離れるほうがイヤだもン!」


 「そ…そうかい?あまり無理しないでくれよ」


 しばらく森を進むと緑が密集してきて、光があまり入ってこなくなってきた。光合成の縄張り争いというべき弊害か、視界が悪い…。


 「みんな、視界が悪くなってきた。足元に気をつけてくれ。ふぅ…火を使わない光源があれば良いが…何があるか分からない以上は魔法を温存したいし…」


 地面は暗くて根だらけで、普通に歩くだけでも疲れてしまう。イミスはカルミアの手を借りつつ、ゆっくり歩いている。サリーはなんだか平気そうというか、歩き慣れている感じだ。


 「ねぇねぇ、サトル~。光ってるものがあればいいのカナ?」


 サリーはそう言うと、近くに自生していた巨大なキノコのような植物に触れる。少しだけ魔力を流すと、反応して美しい蛍光色に発光した。まるで連鎖反応のように、他のキノコも、赤や青、黄色、緑…様々な蛍光色となり発光する。先程までの暗さが嘘のように周りを照らし、少しだけ薄くらい雰囲気と見事にマッチしており、とても幻想的だった。道中に、こんなにも発光するキノコが自生しているとは気が付かなかった…。


 キノコが光り出すと、それに答えるように小さな光る妖精たちが現れて、辺りを楽しそうに飛び回り始めた。妖精が通り過ぎた軌跡は虹色の跡になって、空中にアートを描いていく。


 「うわ~!サリサリすご!?」


 「きれいね…」


 「すごいね!これはキノコ…だよね?しかも妖精まで…」


 「ウン!エルフの里周辺に自生するキノコだヨ!マニタリマナトゥロゥー」


 「え?マニ…なんだって?」


 「アハハ!共通語じゃちょっと表現が難しいかなァ?このキノコの名前だよォ~」


 サリーの道案内とキノコの明かりを頼りに移動を再開する。このキノコはマニタリマナトゥローと言う植物らしく、魔力を与えると発光する特徴を持つそうだ。一度魔力を与えれば長く明かりを照らすことから、主に光源として利用されているらしい。魔力につられて、よく妖精のフェアリーが顔を出すらしいが、ここまで多くの数が出現するのは珍しいのだとか。…俺は歩きながら、スターフィールドのルールブックを開いて確認する。


 フェアリーは妖精の一種で、人間に美しい蝶の羽が生えたような姿をしている。普段は不可視の魔法を身にまとっており、ヒューマンの目では見ることが困難な生物である。小指から猫ほどの大きさを持ち、個体差が激しく、強い魔力量を持つ者ほどそれに応じて体が大きくなる傾向があるのが特徴だ。人をあまり信用することがなく、交渉する場合、懐柔の手は基本的に悪手であり頭の良い合理的な人間を嫌う傾向が強い。いたずらが大好きで好奇心が旺盛な者が多いのでその手合いであれば、良い関係を作れるだろう。最も、フェアリーをまとめる長的な存在はしっかり者が多いので、その限りではない。魔力を生命の糧としているため、質の良い魔力に集まるらしい。


 たくさんのフェアリーがお出迎えしてくれたのは、おそらく…それはサリーの魔力量が尋常ではないレベルに達しているからだろう。本人にあまり自覚は無さそうだが、出会った頃とは比較にならない膨大な魔力は、こういった些細な放出でも周りにとても大きい影響を与える。ハイエルフとやらも容易く超えるだろうな…。


 サリーが自信満々に案内をしているなか、一人の哨戒らしき人物と鉢合わせした。そいつは持っていた槍先をこちらに向けて、警戒している。


 「何者だ!ここは我がエルフの領土だぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ