72話
「お~い、そろそろ出発するぞ~はよせ~い」
馬に十分な休養と旅の準備を整えた俺たちは、ゴーレムの村からエルフの里へ向けて出発するところだ。御者は相変わらず急かしてくるが、最早ご愛嬌というやつである。
「はいはい、今行きますよ~っと」
ゴーレムの村特産である美味しい穀物をたっぷりと荷台に乗せて、カルミアとサリーの準備が整っているか確認する。
「…うん、二人共特に問題なし」
あれからイミスには、今後どうするか時間を置いている。自分たちパーティーの目的と危険が伴うことは伝えた上で、彼女がどうしたいかを尊重したかったからだ。俺としては少し寂しい思いもあるが、この村で平和に過ごすのもアリだと思う。ゴーレム製作の知識は戦闘だけに使える訳では無い。村を守り、酒場をやりくりする中でも十分に活用可能だ。
一緒に来てくれる場合は、出発のタイミングで入り口で待ち合わせるよう予め伝えているが、未だに来る様子が無い。御者も急かしているし、そろそろ向かおうかな。
諦めて荷台の開いているスペースに乗り込もうとしたとき、村から誰かが走ってくるのが見えた。イミスだ!
「お~い!…お~い!遅くなってごめ~ん!」
イミスは手をふって俺たちに駆け寄ってくる。その隣には見慣れないゴーレムが付き従っていた。
「イミスさん!来てくれるんですね」
「うん!酒場は知り合いのおじさんが引き継いでくれることになったよ。その手伝いと村の防衛用に、さっそくおばあちゃんの魔石をふたつとも使って2セットのゴーレムを作ってみたの。酒場に残すのは、今横にいるこの子とほぼ同じタイプよ。もちろん、爆発はしないから安心して!」
紹介するように横に手をやった。横には俺と同じくらいの身長のゴーレムがいた。そのゴーレムは今までとは一線を画すような知性ある佇まいで挨拶をしてくれた。
「はじめまして…わたくし、イミスマスターに創造されたゴーレム。スカーレットと名乗ることを許されております。以後お見知り置き下さい」
「な、なんト!?」
サリーが分解しようと襲いかかろうとするので、俺は必死に取り押さえながら、ゴーレムの姿を確認する。スカーレットと名乗るゴーレムはよくある人間型のゴーレムだが、流暢に共通語を話している。頭には目も口もしっかり作られていて、手は指先の関節まできっちり曲がるようになっている。胸部は厚く作られており、そこに動力源の魔石が使用されていることがわかる。
「これは…すごいよ。まず共通語を普通に話せることに驚いたよ!」
「ちっちっち…サトル君、驚くのはまだ早いよ。実はこの子、各部位ごとに着脱と変形が可能なの…もちろんウチとの合体も!」
「な、なんだってー!?」
俺とイミスは謎のコンビネーションにより同時に同じセリフを叫んだ。イミスは自慢気に披露を始める。
「まずは着脱!スカーレット、両腕をパージ!」
「はい、マスター!」
両腕を前に出したスカーレットが腕を射出する。すると腕はロケットパンチよろしく勢いよく飛んだ。
「次は腕の変形!トランスフォーム!」
射出された腕は、そのまま姿形を変形させ、ひとつは剣…もうひとつは盾の武具となった!
「最後は合体!スカーレット、いくよ~!」
「はい、マスター!!」
イミスが格好良く空中ジャンプを決めると、スカーレットはすべての肢体をパージしてイミスにフィットするよう装着されていく。頭の部分はヘルメット式の防具に、胴体はイミスの体を守る鎧に、足はブーツに…そして先程トランスフォームした腕は剣と盾になって、イミスのパラディンフォームともいえるスタイルが完成したのだ!
最後に剣を振り下ろして決めポーズをとったイミスはドヤ顔が極まっている…どうやら感想待ちのようだ。
「なるほど…すごく考えられています。まず、平時はゴーレムフォームで雑務とイミスさんの護衛をこなせるようになっており、緊急時にはイミスさんの戦闘能力を引き上げるため、合体ができる。ゴーレムのパーツは個々が装備品扱いになっているため、イミスさんのクラス能力の恩恵を最大まで受けることができる…というわけだね!つまり―」
「サトル!そんなことどうでもいいヨ!合体だヨ!変形もしタ!未知の世界が広がっタ~!!」
「サリサリはよくわかっているね!ウチ、あなたとは気が合いそうな気がするよ!」
俺の感想も虚しく、二人で手をつなぎあって、ウフフキャハハと会話が広がっていく…。どうやら俺の意見の方向は求められていなかったようだった……。
「サトル…」
カルミアがぽんぽんと肩を叩いてくれた。…うん、良いんだ…今から相互理解を深めていける関係を構築すれば良いだけなんだ…全然へーきへーき。はぁ。
「うぉ~~い!とっとと出発するっつってんだろう!」
御者がブチギレて俺を荷台に投げ飛ばす。カルミアはジェントルマン顔負けのレディーファーストで案内されていた。俺の扱いだけひどくない!?
新しい仲間を加えた俺たちは、もう近いであろうエルフの里へ向けて出発したのであった。