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71話


 やや頼りない魔道具の光源に照らされたやや小さな部屋。そこは酒の香りが漂っており、うら悲しい大人な怪しさと相まって、独特な雰囲気を醸し出している。背丈ほどある大樽を背に、カウンターの前に立って鉄のジョッキを綺麗に磨く男が、ハーフオークの男へ目をやった。ハーフオークはメニューを確認することなく注文する。


 「マスター…ヒドロヒドラのカクテルを頼む」


 マスターと呼ばれた男は黙って頷き、カウンター越しにオーダーを承る。そのままでは火を吹くような辛さを持つヒドロヒドラ草を絶妙な調整で処理して加えたあと、この店オリジナルの酒と混ぜ合わせシェイクする。十分に撹拌された飲料を、飲みやすいジョッキに移し替え、少しだけ酸味のあるトロピキスと言うフルーツを添えたマスターは、目の前に座る客へそっと差し出した。


 ヒドロヒドラの辛味成分で少しだけ赤みを含む透明感のある飲料を、ハーフオークは躊躇わずに、しかしながら味わいつつ飲み、十分な間を置いて口を開く。


 「さすがだ…マスター」


 マスターは眉をクイっと引き上げ、満更でもなさそうにグラスを磨き始めた。―ここはシールドウェストでも、知る人ぞ知る名店。要人から後ろ暗い人たちまで幅広く利用する情報交換の場である。ハーフオークの男は、とある人物を待っていた。その人物はサトルと呼ばれるヒューマンを追っているようで、その情報がほしいということだった。


 冒険者を生業としているこの男からすれば、サトルの情報など簡単に耳に入ってしまうのだ。というのも、冒険者登録をして日が浅いにも関わらず、パーティー結成から依頼達成率100%で、数々の魔物を討伐してみせたサトル一行は、シールドウェストの冒険者たちの間ではちょっとした有名人になりつつある。冒険者ギルドで暇を潰していれば、やれ大型モンスターを討伐したのだとか、やれ次はどこへ向かうらしいだとか、俺たちもパーティーに入れてくれないだろうかとか、そんな会話ばかり聴こえてくるのだ。


 シールドウェスト領主が広く募集していた蛮族王の遠征メンバー試験に犠牲なくクリアし、大型モンスターを討伐し、困っている人を助け、冒険者として実力をメキメキと上げていく彼らの一挙手一投足は、冒険者のみならず、南の地で不正に領地を支配し続ける蛮族王討伐を願う市民からも期待の冒険者として知られつつある。このハーフオークは、そんな彼らを好ましく思っていない。


 ハーフオークの貧乏ゆすりが激しくなる。奴はまだ来ないのか?そう言わんばかりにソワソワしながら店内を見回す。すると、店の入り口である下り階段から誰かがやってきた。その男は小柄で、いちいち芝居かかった歩き方をしていた。ニヤついた顔でハーフオークの顔を何度も確認しつつ横に座ってメニューを舐め回すように見ると、注文をとった。ちなみにメニューの向きは逆に持っているので、メニューを見ていないのは明らかだった。


 「マスター、いつもの」


 マスターは困った顔をしてジョッキを磨いていた手が止まる。


 「ウヒョヒョ…いつもの。マスター、いつもの」


 マスターは喋ったら負けというほど頑なに首をふって、無理だという意思表示をするが、やがて観念したかのようにため息まじりに発言した。


 「はぁ…お客さん、初めての来店ですよね」


 「ウヒョ!?そうでしたか…じゃあ……いつもの」


 「…」


 マスターは首をふって、乱暴にミルクをジョッキに注ぎ、ドンとカウンター越しに置いて、そっぽを向いてしまった。怒らせた張本人はまるで気にする様子もなく、ミルクをテイスティングしている。ハーフオークは意を決して話をしてみる。


 「おい…お前が、その…サトルの情報を集めているという奴か?」


 「えぇ、その通り」


 「奴は、最寄りのエルフが住まう里とやらに行ったぞ。中に入れてもらえるかは疑問だがな」


 「ウヒョヒョ…やれやれ。それくらいは、他の冒険者からも聞いているので知っていますとも。他に情報が無いのであれば貴方には、なぜ出向いたかまで調べてほしいのです。できるかなぁ~?」


 「冒険者ギルドの資料を漁らないといけないな。これはリスクがあるから高くつくぞ?」


 「やっていただけると!いやはや素晴らしい!金ならたんまりとありますとも。できれば明日までに…お願いしますよ…?」


 「おい…いくらなんでも―」


 「出来なければ…お前を罪人として突き出す…領主の補佐を務めるわたくしめにはそれくらい容易い…わかるよな?ウヒョヒョヒョ~!!」


 「わかった!わかったよ!明日までに、エルフの里に向った奴の目的を探し出す!それでいいな?」


 「分かればよろしいのです…ではお願いしますよ……ウヒョヒョ」


 「ッチ…割を食う仕事だったかよ」


 ハーフオークは銀貨を数枚、マスターが見える位置に置いてその場を後にする。


 「次こそは…必ずあの本と力を我がアイリス様へ献上してみせますとも」


 サトルたちの行く末に、またもや怪しい影が迫ろうとしているのであった!



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