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70話


 試練を終えた俺たちは少し休憩を挟んだのち戦いの場から先に進んで、祭壇のような場所へたどり着いた。祭壇には二つの大きな緋色の球体が配置されている。球体は透明度が高く、特徴からして多量の魔力を帯びていることが分かる。


 「あれハ…魔石かナ?」


 「それにしても大きいな…ゴブリンの魔石なんか指の関節くらいしかないのに。イミスさん、あれがおばあさんが遺し、託したいものだったんじゃないかな?」


 「うん…これ以上先に進む道も無いし…そうかもね。でもすごい、こんな大きい魔石は初めて見たよ」


 祀るように配置されている魔石のひとつをそっと手にとって確認するイミス。ボーリングの球ほどある魔石は両手でも重そうだ。クリエイト主の魔力に依存せず、離れて長期間駆動し続けるゴーレムを作るためには、相当量の魔石が必要だ。これほどの魔石があれば、完璧なゴーレムとやらも作れるかもしれない。


 「おばあさんは、試練の後にイミスさんがより高みを目指してゴーレムを製作するってことが、分かっていたようだね」


 「何もかもお見通しか…ふふふ。ちょっと悔しいな。ウチはまだまだおばあちゃんには叶わないわ」


 「サトル…そろそろ帰りましょう。ワイトを誤魔化すのにも、そろそろ限界があるかもしれない」


 「…あぁ、そうだね。イミスさん、申し訳ないけどそろそろ…」


 「うん……また、来るよ。元気でね、おばあちゃん」


 特大の魔石を回収し、誰も居ない祭壇に挨拶を終え、この場を後にする。


 来た道を辿り、ワイトがいる空間まで戻ってきたが、ワイトと配膳ゴーレムは未だに会話を繰り広げており、大変盛り上がっていた。横から通り過ぎる俺たちに気がつく様子もなく、熱心に生贄が何たるかについて語り続けている。


 「イミスさん、配膳ゴーレムの寿命ってあとどれくらいある?」


 「あと、半日持てば良い方だと思うよ…」


 「それなら、このまま通り抜けてしまおう」


 皆が頷き俺に続く。ワイトには申し訳ないが、これも互いの犠牲を出さないために必要なことだ。それでも遺跡から出てきて俺たちと戦うというなら、致し方ないとは思うが。


 その後、無事に遺跡を出て村まで帰った俺たちは村の人たちを集め、遺跡で起こったことの経緯を説明した。すると、イミスの試練突破を祝して簡単なお祝いを行うことになった。皆イミスが試練を達成したことを、まるで自分のことかのように喜び称えていた。俺たちもまた、頑張ったイミスを労う。皆に声をかけられるイミスの顔は明るく、とても嬉しそうだった。火を囲いながら美味しい穀物を食べるのも、素晴らしい贅沢だと思う。財宝や強い武器は手に入らなかったが、こんなにステキな笑顔を見られるなら、それだけで良かったと思えるからな。


――その夜遺跡では。


* * *


 「うむ…そうだろう。だから骨は何でも良いという訳ではない。無くした骨をゴブリンの骨で埋め合わせしようとした奴が許せなかった。だからといってサイクロプスの骨を持ってくることはないだろう…そもそも考えてもみてほしい。ワイトである我のどこに巨人の骨をつけるスペースがあるのか?それはもうサイクロプスの骨が本体みたいになってしまうんじゃないのか?そう思わぬか?」


 ワイトのひどく退屈な昔話も積み重なるが、感情がないゴーレムにとってはさして問題ではない。しかし……


 「ドウ…ドドドド…」


 配膳ゴーレムの起動時間は限界を迎えようとしており、言葉も怪しくなっている。


 「む?どうしたというのだ?」


 「ドウイドウイナニニドウイマスマスシマス」


 配膳ゴーレムの体は赤くオーバーヒートしてクルクル回転する。さすがにおかしいと異変に気がつくワイトではあるが、もう遅い。


 「わ、我が友が!ぬ、ぬわーーーっ!?」


 激しい爆発が配膳ゴーレムから発生し、ワイトごと派手に吹き飛んだ。爆発は酒場の前で発生したものとは比べ物にならない規模の大きさと威力で、ワイトが光よけのために壁にかけていた布も同時に全て爆発の餌食となった。


 「グ…グオ…そんなに、我の話が…面白かったのか…爆発するほど、命燃やすほど…そうか。しかし…惜しい者を失った。今は…傷の回復と、住居の修理と…友の喪に服そう。ググ…我が友よ……」


 体の半分が焼け焦げたワイトは瀕死になりながらも、ゴーレムが爆発してしまったことを悔やんだ。ワイトは、生まれて初めて悪態を突かれることなく、接してくれたその存在に親しみを覚えていたのだ。―ゴーレムだが。


 瀕死の中、ゴーレムの残骸を一箇所に集めたワイトは、自身の住処に墓を建てた。その墓には『友ここに眠る』と刻まれていたのだった。


* * *


 「…ん?今なんか爆発音がしたような?」


 「サトル…どうかしたの?」


 村の皆と酒場でお祝いをしている中、カルミアが俺の追加分のエールと食べ物を用意してくれたようだ。


 「…いや、気のせいだと思う」


 カルミアが俺の隣に座り、料理とエールを置いてくれた。サリーとイミスはすっかり酒がまわってしまったようで、村の皆と吟遊詩人の奏でる音を楽しみながら踊っている。


 「イミス…喜んでるね」


 「あぁ、本当に良かった」


 「…」


 「もし彼女が旅に同行するなら、まだレベルが低いから、成長するまでは後方で頑張ってもらおう…ってどうしたの?」


 「…私も、手」


 「て?手がどうしたの?」


 「…つないでほしい」


 「う、うん」


 酒場の光源として中央にある大きな火種がカルミアの顔を染めている。その顔はいつもより少しだけ赤く染まっているような気がした。



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