68話
「…君の可能性を、魅せてくれ!!」
「ウチに何が…これは?」
「大丈夫!イミス、俺を信じて!」
「うん…!」
ルールブックは激しい光の奔流を巻き起こし、俺とイミスの体を包み込む。イミスは包み込む光りを受け入れ、世界が停滞する―灰の世界が完成した。この感じ、久しぶりだな…。この状況は時間が停止しているので、イミスのビルドをどうするかじっくり考えることができるのだ。
状況を整理してみよう。まずはイミスのクラスとチェンジ可能なクラスの表示だ。クラスによるステータス補正があるため、レベルとステータス値は一度置いて考える。
*イミス の現在のクラス 【ゴーレム使い(仮)】*
*イミスがチェンジ可能なクラスは下記の通りです*
*
アーケイニスト
アーティラリスト
アーマラー
アルケミスト
インクィジター
ウィザード
ヴィジランテ
ウィッチ
ウォープリースト
オカルティスト
オラクル
ゴーレム使い
スピリチュアリスト
ソーサラー
バトル・スミス
パラディン
メイガス
ローグ
*
イミスは農村育ちとは思えないほど才能豊かで、魔法系のクラスから戦士系のクラスまで選択可能だった。カルミアが近接特化、サリーが魔術、錬金特化なら万能型といえる成長タイプの様だ。イミスの得意分野は言わずもがなゴーレムだ。今までの経験を活かしてゴーレム製作を全面に武器にできるクラスとマルチクラス化させる方法を検討するのがベストだと思う。クラスに仮がついているということは『クラス適性持ち』だからであろう。仮の時点であそこまで高い能力を発揮するのは、イミスが並々ならぬ努力を重ねたためだと思われる。
俺は、イミスのメインクラスに【アーマラー】を選択する。このクラスは魔法的なゴーレムや武具を創り出すことに特化したクラスだ。どちらもゴーレムを使う戦い方を得意とするが【ゴーレム使い】との大きな違いとして【アーマラー】は人形より装備ギミックに寄ったゴーレムに特化するクラスとなる。人の形に拘らないその汎用性は無限の可能性を持っている。もちろん普通のゴーレムも作れる。
クリエイト系のクラスはおしなべて戦闘能力に課題があるので、もう一つのクラスは戦闘能力に特化したものであり、かつゴーレムが守らずとも身を守れるものが望ましい。自前で身を守ることができれば、ゴーレムの動きは全て攻撃に回せる上、ゴーレムを装備式にして戦う場合でも身体的能力の問題をクリアし相乗的な効果も期待できる。…それなら
*イミスのメインクラスに【アーマラー】サブクラスに【パラディン】が選択されました*
*マルチクラスにより メインクラスとサブクラスの特徴が融合されます*
*新クラスの誕生により【アーマラー】の名称は【パラゴンゴーレムナイト】に変更されました*
*クラスチェンジの特典によりイミスのステータスが回復します*
イミスのサブクラスはパラディンを選択した。各クラスの中でもトップクラスのヒットポイントと防御力を誇り、対悪属性に無類の強さを持つのが特徴だ。戦う相手は大抵が悪属性なので、ほとんどの敵対勢力に有効打を打てるというメリットがある。更に、オーラというパラディン特有のスキルが使えるようになる。これは、自身を中心とした一定範囲に対して有利なバフを付与するというスキルだ。ゴーレムもその対象に入るため、相乗効果を狙ったビルドとなっている。
「…やり直しはできない。最善の手は打った…どうかうまくいってくれ!」
俺は手の平に意識を集中する。すると光源が俺の手に集まり、黄金のペンが生成された。ペンを使って、イミスのキャラクターシートに書き込んでいく。輝く文字が幻想的に浮かび上がってはシートに収まっていく。
「……イミス!クラスチェンジだ!」
俺が叫ぶと灰の世界が壊れていく。停止した世界が動き出してガーディアンが俺に渾身の一撃を入れるが、俺の体は光の防壁に守られ、ガーディアンは攻撃が弾かれた反動で後さずりをした。イミスを横目で見ると、両手を見つめて何かを確かめているようだ。
「イミス、いけるかい?」
「…うん。サトル君がくれたんだよね、この力…ウチには分かるよ。戦い方も、ゴーレムの生み出し方も、自然と頭に入ってくる…それじゃ、反撃といこうかな!」
イミスが立ち上がってガーディアンを力強く見据えつつ、頭の無くなったロックゴーレムまで近づいて優しく手でさする。
「乱暴に扱ってごめんね…ウチ、もっと強くなるから…後少し、力を貸して。…[シンティクシィ・ノーマルフォームチェンジ]!!」
イミスがゴーレムに呪文を唱えると、頭を飛ばされて全く動かなかったゴーレムが立ち上がり、胴体と手足を分離させ空宙に浮遊した。すると、驚くべきことにロックゴーレムの手足がイミスの手足に合体していく!合体中に腕はより腕らしく、足はより足らしく形成され…最後に胴体がイミスを守るように装着され、イミスとゴーレムのハイブリッドが完成した。ロックゴーレムだからなのだが、非常に飾り気がないというか…無骨なメカを装着した少女、という印象を受ける。まぁ石だが…。
「ノーマルフォームチェンジ完了…試練は、必ず突破する!」
「オシオキモードゾッコウデス!」
ガーディアンはイミスの挑発に呼応するように剣を拾って突進した。イミスへ斬りかかろうとするが、ゴーレムと合体したイミスに生半可な攻撃は通らない。ゴーレムの剛腕を、まるで自分の腕のように使ってガーディアンの縦斬りを阻止。そのままもう片方の手で相手を撃ち抜く!
「タァ!」
ゴーレムの破壊力抜群な正拳突き。ガーディアンは壁まで吹き飛ばされ叩きつけられる。超威力で壁に大きな窪みをつくった!反動で振動し続ける拳をうならせて、深く息を吸う。
「フゥ…まだまだ!畳み掛けるよ!オプショナル・アタックフェーズ[勇気のオーラ]」
パラディンの技のひとつ[勇気のオーラ]だ。自身を対象とした小規模範囲の味方攻撃力アップと、恐怖への耐性をつけるという技だ。オーラを放ったイミスは赤い波動をまとい、両手両足のゴーレムもそれに応えるように赤い波動を放つ。よく見ると波動は手足それぞれから放たれていることがわかる。…もしかして、これ、手足それぞれが一体のユニットという扱いになっているのか!?もし、その予想が正しければ攻撃力上昇量は五倍…なんてこったぁ!?
「くらえ!これが、サトル君をいじめた分だぁぁ~!!」
「ピピピ…回避、不能…」
更に深く腰を落として力を溜めたイミス。赤き光をまとわせ突進。ゴーレムから繰り出される最大威力の地獄突きを、ガーディアンに放った。
拳がガーディアンへ直撃した瞬間、赤い閃光と激しい爆発が生み出される。素早くバックステップで距離を取ったイミスの攻撃は止まない。
「まだまだぁ!」
「イミスさん!?それはオーバーキルではぁ!?」
イミスは転がっている槍を拾って、遠投の構えをとった。
「正義の一撃!喰らいなさい!」
槍は轟音疾風と共に赤い爆発地点に着弾し、更に壁の岩が四散する。爆発はガーディアンだったものを派手に散らして強い風が俺たちを襲った。
「っく…!なんて威力だ。イミス~!大丈夫かぁ!」
あまりの連続攻撃によって黒煙が辺りに充満するなか、ゴーレムを装備したイミスの背中が見える。…どうやら、やり遂げたようだ。
「おばあちゃん、ウチやったよ…」
そこには、派手に飛散したシールドガーディアンの残骸が散らばっていたのだ。