67話
「この石柱を使うわ」
「…もしかして、ここでゴーレムを作るのか?」
「うん、制限時間がある訳じゃないけど、ワイトのこともあるから、なるべく早く作るね…クリエイト・ゴーレム…」
イミスは石柱に手を当てて、魔法を唱える。石柱はイミスの手から発する魔力を伝って分解されて細かな部品となり地面に散らばった。イミスは部品を拾って、黙々と作業を開始する。その間も奥で仁王立ちしている人?のようなモンスターは動く気配がない。ある程度近づくと戦うタイプなのかもしれない。イミスが組み立てている間、様子を見てみることにした。
「ゴーレム…か?」
それは、騎士のような形容のゴーレムだった。木製だが鉄鎧を着けているのが特徴的だ。剣と大盾を所持しており、盾は背中、剣は地面に突き刺してある。仁王立ちの姿がいかにもといった雰囲気で強そうだ。こいつは『シールド・ガーディアン』だ。シールド・ガーディアンはゴーレムの亜種で、特徴としてはゴーレム同様に食事や睡眠を必要としない点がある。一般的なゴーレムと違い、クリエイターの覚えている魔法をひとつだけ埋め込むこともできる。これは設定された任意のタイミングで発動させることができ、大抵は、自爆系の魔法が埋め込まれているので大変危険である。今回は試練が目的だから、イミスのおばあさんがそのような殺意マシマシの魔法を設定することはないだろう。ガーディアンタイプのモンスターは、アミュレットなどの装飾品系の媒体へ、所持者の言う事を聞くよう設定することもできるので、要人警護等に売買する者もいるらしい。防御力が高いので、イミス一人では厳しい戦いになりそうだが…
イミスは驚くべき速度でゴーレムを組み上げている。気のせいだろうか、出会ってから日に日に作業スピードが目に見えて上がっている気がする。このペースでいけばすぐにでも出来上がるだろう。今は見守るしかない。
「イミス…大丈夫かい?」
「えぇ、自分でも驚いているの。ウチ、こんなに簡単にできるようになった。サトル君といると、なんだか不思議と力が湧いてくる気がする……できた、起動するわよ」
イミスが手をかざすと石柱で作られたロックゴーレムが動き出す。全長が二メートルほどあり、がっしりとした石柱らしい作りで頼りになりそうだ。ロックゴーレムはいつでもいけるぞといった具合に両腕でマッスルポーズをとった。やる気満々のようだ!カルミアもサリーも驚いた表情で拍手を送った。
「オオォゥ~!?これはすごいネ!分解したイ!」
「うん…すごい…斬りがいがありそう」
「アハハ…みんなありがとう…でも、これの起動時間は一日もない急ごしらえ。魔力の燃費も最悪だから短期決戦でしか使えないかもだけど…さぁ、いくわよ~!」
イミスと急ごしらえのロックゴーレムが揃ってシールド・ガーディアンの前に立つ。それまでびくともしなかったガーディアンの両目が光り、地面に刺さっている剣を抜いて盾を取り出した。戦闘態勢だ!
「おばあちゃん…見ててね。行って!ロックゴーレム!」
ゴゴゴと音をたて、ロックゴーレムが鈍重にガーディアンへ迫る。そして、ガーディアンに向け巨石の拳を振りかざす。ガーディアンはこれを受け止めず冷静に回避した。拳はそのまま壁に突き刺さり、大きな轟音を響かせ壁を破壊した。これをまともに受けたらぺしゃんこだな!だから回避したのかもしれない。
「おばあちゃんのゴーレム、動きがなめらかで捉え辛いよ…意地悪なんだから。ロックゴーレム!そのまま攻撃を続けて!」
ロックゴーレムはイミスの指示通り、ガーディアンへ向けて連続パンチを繰り出し続ける。ガーディアンはそれを楽々と躱し、ときには大盾で力の方向をうまくそらして上手に攻撃を回避し続ける。ゴーレムの攻撃力は凄いが、動きが遅すぎて有効打がうてないのか…?
ゴーレムの連続パンチでガーディアンを壁まで追い詰めたところで、ゴーレムが大ぶりのパンチを繰り出す。しかし、ガーディアンはギリギリまでひきつけた後でジャンプして回避。ゴーレムのパンチは勢い余って、壁にめり込んだ。ガーディアンはジャンプの着地と同時に、ゴーレムの腕の上に飛び乗った!
「しまった!ゴーレム!すぐに腕を払って!」
ゴーレムは壁に埋まった拳を外そうとするが、深く埋まっているようでもたついてしまっている。その隙を許すほどガーディアンは甘くないようで、持っている剣でゴーレムの頭を吹き飛ばしてしまった!
「サトル…助けないとまずい。次の標的がイミスになっている」
ゴーレムがそのままの姿勢で動かなくなってしまっており、イミスが必死に指示を叫んでいるが反応がない。ゴーレムが使い物にならない状況を見極めたガーディアンは、次の標的をイミスに切り替える。剣は地面に突き刺して素手での戦いに切り替えたようだ。なるほど、イミスがターゲットになった場合は非殺傷で戦うように作られているのか。イミスは後さずり、何か使えるものがないか探している。
「ガーディアンが不殺モードに切り替えたから、イミスさんは死なないと思うけど…このままでは、まずいな…」
イミスは壁に立てかけてあった剣や槍を投げたりして牽制するが、お世辞にも戦いと呼べるものではない。ゴーレム使いは本体が弱いという避けようのない弱点がある。こうなっては試練の突破は難しい。
こんな状況で放っておけるほど、俺は冷静にはなれなかった。壁まで追い詰められたイミスは震えており、怖がっているのは明確だ。ガーディアンが今まさに、イミスへ殴りかかろうとしている時、俺の足は勝手に動いていた。試練の邪魔をしてしまうが、あとで怒られてもいい!イミスが殴られるのなんて見たくない!
「イミス!危ない!」
「…サトル!?」「フゥ!やるネェ~」
イミスの前に出て、とてもとても丈夫にできた分厚いルールブックでガーディアンの繰り出すパンチをガードした。手が痺れるほどの反動が来るが、構いやしない。
「イミス…大丈夫かい?」
「サトル…くん……」
「ごめん、約束破っちゃった…」
ガーディアンの目が怪しく光り、ピピピと異音をがなり立てる
「ピピピ…試練の妨害をカクニン。想定パターンの2をキドウ。オシオキモードカイシ!」
今までが手加減だったと言わんばかりに、急にガーディアンの動きが激しくなった。パンチは俺に向けて何度も叩きつけるように繰り出し、俺はそれを必死に防ぐ。
「な…なんだ!?動きが急に激しくなったぞ!?」
「サトル君!もういいよ!もう…ウチ、諦めるから!だからもう逃げて!」
確かに…ここで諦めればまた挑戦する機会はあるかもしれない。でも、今ここで俺が引いたらダメだ。彼女にとってはこの戦いは今後を左右する大事なものだ。痛いくらいは何ともない。
「俺は…平気さ…ぐ!」
カルミアが動こうとするが、サリーがそれを制した。
「カルミアちゃん、ちょっとだけ待ってあげテ…[メイジ・アーマー]」
「………はぁ、分かった…」
メイジ・アーマーのおかげで俺の耐久力が飛躍的に上がる。それでもガーディアンの連続攻撃は激しさを増して、ルールブックでもさすがに防ぎきれず、俺は何度もパンチの直撃を受ける。それでも、絶対にイミスの前からどいてやるつもりはない。イミスには、こんなに痛い思いをさせたくないからな。
ガーディアンの攻撃は次第に苛烈さを増していく。
「ぐへ…はぐ!…グハァ!?」
ガーディアンめ…良いボディーブローをもっていやがる。…攻撃して破壊すれば良いだろうが、そうしてしまうと、イミスは二度と試練の挑戦ができなくなる。それは俺の望むところではない。怖がっているイミスを少しでも励ますことができれば…君の力になれれば…!
「イミス…おばあさん、きっと…頑張っている…君を、見てるから、だから、諦めずに…もう少しだけ…ぐ…一緒に、頑張ろう…!」
「さ、サトル君…!」
ルールブックが光りだす。
俺は、頑張る君には笑っていてほしい。だから
* イミス のクラスチェンジが可能になりました *
「だから…君の可能性を、魅せてくれ!!」