66話
「サトル君!配膳ゴーレムが時間を稼いでる間に早く進もう!」
「あぁ、わかっている」
俺たちはワイトのいる空間から抜け、遺跡の奥まで進み始めた。侵入者対策か…はたまた試練のためか、トラップが設置されている可能性があるため、早歩き程度の進行速度を維持。…こういうときにローグ系がいれば進行速度は段違いなのだが、ないものねだりをしても意味はないため、歩を進める。
しばらく進むと、円状の模様がかかれた壁画が俺たちの行く手を阻む。壁の模様には、三つの生き物が、それぞれ分割され独立して描かれているのがわかる。生き物は鳥、虫、ねずみだ。
「これは…?」
「ウ~ン、この模様…少しだけど魔力を感じるヨ?」
「イミス、これはどうやって突破すればいい?さっきみたいにスイッチでもあるのか?」
イミスは焦った様子で壁の模様を調べているが、見ている限りじゃからくりの仕組みはわからない様子だ
「どうしよう、ウチもここまで進んだのは初めてだから…この壁の生き物が何か関係しているように思うのだけれど…」
サリーが壁を興味深そうにさわりまくっており、壁に意識がいきすぎて足元がお留守になったのか、鳥の模様が描かれた壁画のをつかんだ勢いで地面に倒れた!
「キャ!へブしっ!…イテテテ」
「サリー、大丈夫かい?」
サリーに手を貸して起こしてあげた。いつもおっちょこちょいだから、心配になってくるな…
「うん…ありがト…ってあれ?壁の模様が変わったヨ?」
サリーが触っていた壁画が一部変化しており、鳥、鳥、虫になっていた。さっきは鳥、虫、ねずみだったはずだ。…もしかして!
「もしかして、この壁画、横にスライドしたら動く仕組みなのかもしれない」
「なるほど、ウチがやってみる!」
イミスが虫の壁画をスライドさせると分割した壁画の絵はすべて鳥になった。…しかしなにも起きない。何かの法則に則って、それぞれ独立した絵を動かす必要がありそうだ。
「絵を全て同じに揃えるということでは…ないのか?それなら…」
俺は一番上を鳥に、そして間をねずみに、一番下を虫に合わせてみた。すると、カチっという音が鳴り響き、分割した絵が目まぐるしく動いて、一つの絵へと変化した。その絵には、鳥がねずみを食べ、ねずみが虫を食べている様子が描かれている。これは、この世界での食物連鎖の一部を現した絵だったのだ…!絵は暫くするとカチカチと音を立てて取手が出てきて両開きの扉となる。これで、先へ進めるようになった。
「絵が完成して、扉になった…」
「さっすがサトル!すご~ィ!」
「…サトル、頼れる」
謎が解けたときの達成感は良いもんだ。カルミアとハイタッチ!そしてサリーは俺の背中に飛び乗った!そんな様子をイミスが笑って見ている。遺跡の謎解きは冒険の醍醐味であり、仲間と分かち合えればそれは素晴らしいことなのだ。大きな絵と成った壁画は沈み始めて、奥につながる道が出来上がった。俺は背中にへばりついたサリーを、ゆっくりおろしてあげる。
「さて、そろそろ目的地も近いんじゃないか?」
「うん…気を引き締めていこ。ウチも頑張るから」
* * *
一方その頃、ワイトは…
「そこで、我は先と同じように拷問方法を選ばせたのだ。最愛の人が選ばねばならない状況はさぞかし苦痛だっただろう。ククク…その時の決め台詞はなんだったと思う?」
「ナニニシマスカ?」
「グハハハ!その通りだ!何にするのか!と迫るように選ばせたのだ!!お前、生贄にしてはわかっておる。悪に染まっているその思考…殺すのが惜しくなってくるぞ!…相手はもちろん狼狽の極みに至った。そこで、我はさらに問うたのだ」
「ナルホド、ドウイデス」
「そう、お前はこの状況に同意するしかない。そう問うた。最愛の人を自身の手にかける選択をするしかないのだと…その時、扉の向こうから更に人がやってきたのだ。援軍のつもりだったのだろうが我は――」
…盛り上がっていた
* * *
遺跡をさらに進むと、たくさんの石柱が並ぶ空間までやってきた。石柱の間に丁寧にひかれた石畳に続く先には一人?いや、なにかがいる…。
「…サトル、気をつけて…あれは人じゃない」
「えェ!?まだなんかいるノ!?この遺跡は一体どうなっているのヨ…」
「…ワイトはイレギュラーだろう。むしろこの先にいるあいつこそ、きっとイミスのおばあさんがイミスを試すために用意した最後の試練に違いないよ」
石柱は等間隔に並んでおり、遮蔽物として使える。場は円状の空間になっているため、戦いを意識したつくりのフィールドとなっていることは明確だ。壁にはさまざまな武器が立て付けられており、ゴーレムを打ち破る手段がご丁寧にも用意されていることがわかる。…おばあさんは、厳しい鬼になりきれなかったようだね…。きっとイミスがここにきてくれると、そう信じていたのだろうか。イミスも周りを見渡しては、それを感じ取ったのだろう。少し俯き、決意したように顔をあげる。
「ウチ、ぜったいにあいつを倒して見せる」
「あぁ、俺たちも協力するよ!」
「サトル君…気持ちは嬉しいよ。でも、これは…ウチの試練。ウチが一人でやらなきゃ意味がない気がするの。ここまで沢山助けてもらった。だから、サトル君たちはそこで見ていてほしい」
「でも、どうやって戦うっていうんだ?」
「この石柱を使うわ」
イミスは石柱に手を当てて、自信満々に胸を張った。