65話
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憎悪に蝕まれた視線が俺たちを突き刺す。俺はカルミアの一歩後ろに下がり、会話を試みた。
「はじめまして、俺はサトルです。ここはゴーレムの村が管理している遺跡だと聞き及んでいます。あなたの『住居』になったこの場所に土足で踏み込んだことはお詫びしますが、俺たちはその先にどうしても進む必要があるのです」
ワイトは俺の顔を見てカタカタと骨を鳴り響かせる
「フハハ…その通りだ。ここは何人も踏み入ることの許されない、我が領地となった。我がいる場所がわが領地。なんの問題もあるまい?故に、如何なる事情があろうともわが領地で好き勝手させるわけにはいかないな!即攻撃されないだけでも、慈悲深いと思うがいい」
「あわわわァ…」
サリーはすっかり怯えきっており、カルミアの後ろに隠れてしまった。アンデッドが苦手なのだろうか?ちょっと意外だ。…ここは俺がみんなを守らなきゃ
「俺たちとしても、あなたと刃を交えることは避けたいと思っています。何か手立てはないものでしょうか?」
「ふむ…この間来た大勢の愚民共に比べれば少しは話せるようだな。良いだろう…この先へ通してやる」
「ありがとうござい―」
「ただし、条件がある。拷問のための贄をよこせ」
カルミアが刀を構え、振り払って鞘から刀を抜く。刀を振り払った反動だけで突風が吹き荒れ、鞘だけが器用にワイトに向かって飛んでいき、ワイトの首元をギリギリのラインですり抜けて壁に突き刺さった。…それもう飛び道具じゃね?威嚇射撃のようなけん制として使えそうな気がする。
「…サトル、もう殺すしかない。拷問なんて、受ける必要はない」
カルミアの力に驚いた様子のワイトは両手をおおきく広げて首をふった。…若干震えている気がするのは気のせいか
「ググ……お、お、おやおや、良いのか?我の要求が満たされない限り、我を倒したとしても、この先の結界は通れないが?我は命をかけて結界を張るが?本当にいいのか?」
ワイトが指をさした先は、俺たちが向かうべき遺跡の奥だ。その先に遺品が配置されているのだろうか…倒したとしても、相手が張った結界をすぐに破ける保証はない。困ったことになったぞ。
「なぜこのような要求を?それに、拷問とは…具体的にどのようなことなのですか?」
「冥土の土産に教えてやろう…我は相手の負の感情を頂くことで力を増すのだ。拷問はそれにうってつけなのだよ。ただ殺すのでは、効率が悪いのだ。特に、心強き者やすぐに動揺しない者であればより好ましい。…感情が壊れた時が最高なのだ!ククク…グハハハ!…おっと、拷問の内容であったな?勝手に決めてしまうのも、面白くはない…いくつか選ばせてやってもいいぞ。火あぶり…水攻め…磔もいいな…、ここで生涯…我の邪悪なる話を聞き続けるというのもある。生かさず殺さず…人の生涯…可能性が潰えていくさまを見るのは至高ともいえる…グググ、グハハハ!」
なんたる邪悪だろうか。どれを選んでも命にかかわる内容で間違いない。やはりカルミアたちに戦ってもらうしかないか…?だがしかし、サリーは怖がっているので、無理やり戦闘には出したくはない。俺とカルミアでどうにかする必要がありそうだ。アンデッドは呪いや毒、未知数の魔法を使うから、そういった対アンデッド魔法に詳しい者を連れていない場合は、戦闘を避けたほうが無難なのだが……俺が頭を悩ませていると、イミスが一歩前に出る。…まさか、おい…やめろ
「イミスっ!やめるんだ。まだ手はあるかもしれない」
「サトル君、大丈夫!ウチにとっておきの考えがある」
ワイトは身を乗り出してうれしそうにこちらの出方をうかがっている…くそう、足元見やがって!
「我への生贄はそこの娘か?」
「ウチはまだやらないといけないことがいっぱいある。だからウチは無理」
「…では、どいつだ?」
「こ…この子よ!」
配膳ゴーレムがよぼよぼとワイトの前に君臨した。配膳ゴーレムは配膳用のアームをガチガチさせてやる気に満ちている…ようにみえる。
「ナニニシマスカ?」
「むむ…!?そいつは何だ。魔法生物か…?」
ワイトはイミスの作った奇怪なゴーレムをゴーレムと思っていないらしく、いぶかしげにゴーレムを覗き見た。ゴーレムもつぶらな瞳でワイトを見つめる…いけるか?
「…そ、そうです!ウチの大切な子です!」
「グハハハ!…自身かわいさのために子を差し出すとは哀れな娘よ…ククク、ふむ」
「ナニニシマスカ?」
「むむ!?進んで拷問を受けるというのか…?お前は、死ぬのが怖くないというのか?我の拷問は死ぬよりも辛いぞ…?」
「ナニニシマスカ?」
「うむ…潔い返事で結構だな。なんでもしてやろう、火あぶり!水攻め!つらいことは全てだ!」
「ナルホド、ドウイデス」
「グハハハ!強がっていられるのも今のうちだ!すぐに泣きわめいて生きていることを後悔することになるだろう…!」
「ナニニシマスカ?」
「慌てるな…まずは、生かさず殺さず…死ぬ直前まで邪悪な話をしてやろう。お前が疲弊しきって、寿命が迫ったころに火あぶりからだ。体をすぐに破壊しては絶望させる前に死んでしまうからな」
「ナルホド、ドウイデス」
奇跡的にも会話が微妙に成り立ってしまい、うまく誤魔化すことができたようだ。…ワイト、それでいいのか?いや、今はこいつの心配をしている場合じゃないな…絶望しないゴーレムの異変に気が付くのも時間の問題だろうから、その間にイミスのおばあさんが遺したという遺品を回収して遺跡を出なくては。
「では、ワイトさん…俺たちは先に進んでもよろしいでしょうか?」
「良いだろう…約束は約束だからな。ただし、用が済んだらすぐに帰ることだ…」
俺たちは何処か抜けているワイトと配膳ゴーレムを放置して奥まで進むことにした。カルミアはワイトを睨みつけて、鞘を壁から引き抜いて俺の元に戻ってきた…よし、ここからは時間の勝負だ。
「ククク…お前の親とその仲間たちは、何のためらいもなく遺跡の奥まで進んだぞ…?今はどんな気持ちだ?悲しいか?つらいか?お前が絶望するまで我は話をやめないぞ…?」
「ナルホド、ドウイデス」
配膳ゴーレムは、運ぶものがないため近くにあったしゃれこうべを持ち上げてグルグル回りはじめる。
「ククク、お前もそうなるのだ。強がりはいつまで続くかな?…今から遠い過去…我が別荘に愚かにも侵入してきた冒険者の死に様を話してやろう。生贄の前で泣きわめく新婚の冒険者たちの話だ…あれはそう、五百年も前に―」
ただの酒場の配膳ゴーレムに話かけ続けるワイト。しゃれこうべをグルグルさせながら同じ相槌をうち続けるゴーレム。まだまだワイトが気がつく様子はない。