64話
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俺たちは村近くにあるという遺跡の入り口までやってきていた。遺跡は森に隠れるように木々と融合しており、所々に石の肌を覗かせている。入口はぽっかりと開いており、見つけさえすれば誰でも入れるような場所だった。
「イミス、ここが例の遺跡で間違いないかい?」
「うん、おばあちゃんの形見も、ここにあるはずよ。おばあちゃんとしては【ゴーレム使い】のウチ一人で挑んで欲しかったのかもしれないけどね…」
イミスのおばあさんは才ある【ゴーレム使い】だったと聞いた。しかし、村総出でも攻略できない難度にするのは、何か思惑があったのだろうか?普通であれば、一人でも頑張れば攻略できる範囲になるはずだ。おばあさんが想定していなかったなにかがこの先で起こっている可能性も考えたほうが良いだろう。
ぽっかり開いた遺跡に踏み込むと、遺跡の通路が光りだして壁掛けランプのような光源が発光した。
「うわァ!ねぇサトル!勝手に光ったヨ!?どうなっているんだロ?」
「うん…正直驚いた。イミス、これもゴーレムなのかい?」
「…形はクレイゴーレムとは違うけど、間違いなくゴーレムの魔法技術を応用したもの…かも」
才能ある【ゴーレム使い】は主人の目的や言い付けの内容を理解して、己の役割を忠実に果たそうとする。そこに意識のようなものがあるかははっきりと分かっていないが、応用すれば機械顔負けの性能を発揮してくれる。この自動発光するランプもその技術を応用したのだろう。これをおばあさん一人で作ったのだとしたら、恐ろしい技術の持ち主だ。
しばらく道なりに進むと、行き止まりになっている広場に到着する。広場には古くなったツボとちいさなネズミが逃げ隠れするくらいで変わったところはないように見える。すると、イミスは小さな壁の出っ張りを叩きはじめた。
「ここに、秘密の通路につながる道があるの…えい!」
すると、行き止まりの壁がドミノ倒しのように崩れていき、地下へ続く階段がたちまちできあがった。イミスが手招きして地下へ向かっていくので俺たちはそのままついていく…遺跡ならではというか、こういうギミックってワクワクするよなぁ~
地下を降りると、大きく開けた空間が見えてきた。そこで、先導していたイミスが手をあげて俺たちに止まれの合図をする。
「ここよ…この先に、村総出でもかなわなかった敵がいるの」
「…どんな敵?」
「骸骨のくせにしゃべる。そして杖をもっていたわ!村の男が無理やり通ろうとしたら魔法で攻撃してきたのよ…そこからは逃げるしか選択肢がないほどの戦闘能力を見せつけられた…」
知識のあるアンデッドで魔法が使えるとなると…ワイトだな。ワイトは地下墓地や墳墓に発生するアンデッドの一種で、生きている者に対して強い悪意を持つことで有名なモンスターだ。普通のスケルトンより上位の魔物で、そのほとんどが媒体となる杖を持ち魔法を使う。魔法の種類は状態異常系に特化してる場合が多く、絡め手を好む戦いをする。明るい場所や希望に満ち溢れる者を特に嫌い、遭遇した場合は…仲良くなるのは難しいと考えたほうがいい。物理的な手段で倒す場合、骨が粉になるまで木っ端微塵にするしかないだろう。対アンデッド用の魔法を使うことができれば、話はもっと簡単なのだが、俺のパーティにアンデッドに対して効果のある魔法を持っている人はいない。…可能な限り戦闘は避けるべきだろう。
「イミス…その、君のおばあさんはアンデッドとも交友があったのかい…?」
「そ、そんなわけないでしょ!?おばあちゃんはいつだって正義の味方だったのよ!」
「そうなると…君のおばあさんが意図した試練では無さそうだ」
「そっか……よく考えてみれば、あんなところにアンデッドがいるなんておかしいよね…あのときは魔法で攻撃してきたことと、ウチら逃げることで頭がいっぱいだったから、そこまで考えて無かったよ」
「事情を話してくれる人?アンデッドなら良いが…」
俺たちは十分に警戒しながら、アンデッドがいる空間に入り込む。その空間は遺跡とは思えないほど天井が高く、一部から光が差し込んでいた。その光を避けるように至る所に布が張り巡らされており、本来明るい空間だったであろう場所は、薄暗く不気味な空間となってしまっている。ここを住処にしているのだろうか。辺りを警戒しながら索敵していると、カルミアが刀の柄を握り、片手で俺を制す。
「…また、性懲りもなく我の空間に踏み入ったのか。…定命の者よ」
その姿は禍々しくも知性を宿した佇まい…間違いなくワイトで確定だ。頭蓋骨の目から怪しげな二つの人魂を灯し、恨みのこもった形相に見える。古びて朽ちかけた王冠と汚れてボロボロになったローブをまとっていて、長い年月をその姿で過ごしてきたことは容易に想像がつく。…あんな邪悪なもの、イミスのおばあさんが用意した試練などではないだろう。