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63話


 翌朝。鳥の歌で皆より少し早く目を覚ました俺は、顔を洗いに井戸まで向かう。酒場から外に出ると、まだ外は一日の始まりを告げたばかりの空。田舎特有の優しい畑の匂いが眠気覚ましに丁度良い。


 「井戸はどこかな…と。あった!」


  井戸から汲み上げた水は澄みきっており、味も雑味がほとんどなく美味しい。…なるほど、ここの作物が美味しく育つ訳だ。まず水からこんなにも違うのだから。


 水を汲み上げてカルミアとサリーの分を用意していると、酒場の庭で誰かが作業していることに気がついた。そこでは、イミスが黙々とゴーレムの制作を行っていた。昨日配膳を担当してくれたゴーレムは既に自壊したのか派手に壊れており、イミスのそばに転がっている。ゴーレムいじりに集中しているせいか、俺が後ろまで来ても全く気がつく様子がない。服や顔も汚れまみれだがその顔は輝きに満ちていた。…少し声をかけてみようかな?


 「おばあちゃん…ウチ、絶対に完成させてみせるからね…」


 「…おはようございます。こんな朝早くからゴーレムを作っていたのですか?」


 「あ…おはよう、サトル君…。うん、遺跡には私もついていくって決めてるから、今のうちに酒場を回してくれるゴーレムを作っていたの」


 「…何か手伝えることはありますか?」


 「手伝ってくれるの!?ありがとう!じゃあ、そこの部品を取ってくれる?」


 イミスと俺は早朝から皆が起きるまで、一緒にゴーレムを組み立てることにした。イミスのゴーレム製作能力は素人から見ても分かるほど洗練されており、部品一つひとつを迷いなく選別しては組み上げていく。俺は指示された部品を運んだり、水分補給のための水を渡したりして手伝っている。


 「サトル君のおかげで、みんなが起きるまでに作り上げることができそうだよ。ありがとうね!」


 「いえいえ…イミスは、ゴーレムが好きなんですね」


 イミスは手を少しとめて、振り返って俺を見る。その目は潤んでいるが決意に満ちていた。


 「うん……この村で生まれた人はね、何故かは分からないけど、生まれながらにして皆【ゴーレム使い】の素質を持つの。ウチの家系は特にその資質を強く持っていて、お父さんもお母さんも立派な人だったわ」


 だった―ということは、もう既におなくなりになっている可能性が高い。広い酒場をゴーレムと共に、一人で切り盛りしているところを見ると…


 「…」


 「…お父さんとお母さんがいなくなってからは、小さいウチをおばあちゃんが一人で育ててくれて、ずっと立派な【ゴーレム使い】になりなさい。皆を守れるような存在になりなさいって、そればっかりが口癖で…。その時のウチは、ゴーレムなんて興味が無かったし、言う事も聞かなかった。おばあちゃんも歳だったから、無理がたたってどんどん衰弱しちゃって…遺跡に形見を置いてきたと日記に書き残して、それからは……」


 イミスは顔を伏せ、手に持ったスパナを強く握りしめている。俺はなんて声をかけるべきか悩んだが、結局なにも言えなかった。暫く沈黙の時間が続いたが、気を取り直したイミスは笑顔で顔を上げる。


 「だから、嬉しかったよ?見ず知らずのウチのために、遺跡にまで向かうと決めてくれて…」


 「イミスさん……うん、俺たちにできることは何でもするよ。とにかく遺跡に向かって、その形見とやらを取りに行こう。それが何であれ、イミスさんの気持ちの整理に役立つなら、俺は嬉しい」


 「サトル君…分かった!ありがとうね!」


 本気でぶつかってくれているから、俺もイミスに対する余所余所しい態度はやめることにした。俺たちにとっては簡単な調査でも、イミスにとっては人生をかけた大冒険になるだろう。だからこそ、しっかり守ってやらなきゃな!


 空はすっかり朝焼けから青空に移り変わる。カルミアやサリーが起きてきて、俺が予め準備しておいた水を部屋まで持っていった。カルミアは俺とイミスが話し込んでいるのを横目に立ち止まり、肩をすかして意味有りげな笑顔で酒場に入っていく。…ナンパじゃないのよ!?


 「そ、そろそろ出発準備をしよう。遺跡は近いとはいえ、準備を怠ってはいけないからね」


 「うん!ねぇねぇ、役に立つか分からないけど、ウチの配膳ゴーレムを一体持っていこうよ!戦闘はからっきしだけど、荷物持ちくらいはできるよ!」


 「それは助かるよ、またサリーが壊さなきゃいいけどな…」


 「大丈夫!ウチ、昨日の失敗を反省して改良できないか試してみたんだけど、少しだけ丈夫にすることができたの。こんなことって初めてよ!あと、音声パターンをひとつ追加することができたわよ!」


 「それはすごい!ゴーレムはロマンだからね。是非極めてほしい」


 今まで停滞していたゴーレム製作能力が向上した理由は分からないが、成長出来たなら良いことだろう。思案していると配膳ゴーレム改良型が俺の横に到着する。重い荷物を持つことを想定しているのか、脚部が二足歩行から、出来の悪いキャタピラ式のような車体タイプに変更されていた。


 「ナニニシマスカ? ナルホド、ドウイシマス ナニニシマスカ? ナルホド、ドウイシマス」


 「…本当に大丈夫なのだろうか?」


 「ナルホド、ドウイシマス」



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