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62話


 「これ、村で採れた自慢の穀物で作ったの。良かったら食べて」


 テーブルへ置かれた料理は、お米に近い穀物だった。おかずに漬物のような塩辛い野菜もセットだ。肉や魚などの豪華な料理に比べれば質素だが、食べてみるとこれまた旨い。噛めば噛むほど味が出て、お米のような穀物と食べると味がいい塩梅になって絶品だった。


 「なにこれ旨い」「…うん、美味しい」「最高だネ!」


 「ふふっ気に入ってくれたみたいだね?」


 「あぁ、すごく美味しいよ!」


 料理を運んでくれた女の子はホッとしたようにトレイを胸に抱きしめて微笑んでいる。俺が食べる姿をじっと見つめており、とても食べ辛い…美人なので尚更である。そこで救いの手が来た。別のお客さんが女の子の名前を呼ぶ。


 「おーい、イミス。こっちにエールのおかわり持ってきてくれぇ…ヒック」


 「は~い。今行きま~す!もう、何杯飲むのよ~…ごめんね!またあとで」


 俺に料理を持ってきてくれたイミスと呼ばれた女の子は、一言断りを入れて仕事に戻る。酒場内では相変わらずゴーレムが料理や配膳を手伝っている。見たところ挨拶をしてくれたクレイゴーレムと同じタイプのものだろう。ゴーレムは作る者の技量によって全く異なり、伝説的なゴーレムになると人間同様の知性と教養を備え持つが、作り手が並であれば言葉を話すこともなく、ただ主人に盲従するのみである。どんな素材で作ることもできる汎用性があり、戦闘も雑用も万能にこなせるため、これが使えるクラスは強クラスの一つと言われていた。


それらを踏まえて考えると、あのイミスという子はゴーレム使いで、ここの村の酒場を一人で切り盛りしているといったところだろうか。言葉も話せるうえにある程度の高度な行動を可能にしている点から、能力のほどは高いと思われる。


 俺たちが食事を楽しみつつ人がある程度捌け、店の席に余裕が出てきたころ、イミスが俺たちに話しかけてきた。


 「改めて、先程はゴーレムの爆発に巻き込んじゃってごめんなさい。あれ、ウチが作ったものなの。まだ未完成で、ちょっとしたことでよく爆発しちゃうんだよねぇ…アハハ」


 「いえいえ、こちらこそ…元はと言えば、そこのサリーがイタズラしたのが原因ですので…むしろこちらがごめんなさい…ほら、サリーも謝りなさい!」


 「え~…ゴーレムくんとコミュニケーションとってただけだもン…ブーブー!」


 俺は無駄な抵抗を繰り返すサリーの頭をテーブルに打ち付けて一緒に謝罪した。


 「そうだったのね。でも、ウチのゴーレムは未完成で、すぐに壊れてしまうの。だから気にしないで」


 「…未完成ですか?言葉も使えるし、高度な動きも出来ているようですが…」


 「うん、未完成なの。一日経過すると魔石を残して必ず自壊するし、この配膳ゴーレムなんてね…」


 配膳ゴーレムが俺たちのテーブルにやってくる。


 「ナニニシマスカ?」


 ん?注文を聞いてくれているのかな?

 

 「じゃあエールをあと三つ下さい」


 「ナニニシマスカ?」


 「エールをあと三つ下さい」


 「ナニニシマスカ?」


 「…」


 配膳ゴーレムは同じセリフを呟き続け、厨房に戻りエールを三つ分入れ俺たちのテーブルに戻ってきた。そして手際よくエールを三つ置いてくれた。


 「ナニニシマスカ?」


 「なるほど」


 「分かってくれたかな?この子はこれしか言えないの。常連さんなら分かってくれるんだけどね…ウチは全く新しい完全なゴーレムを作りたい。できれば爆発もしないゴーレムを」


 「う~ん…馬を休ませるだろうから、あと数日はお邪魔させてもらうし、その間で何か出来ることはないかな?俺たち、こう見えてもCランクの冒険者なんだ。ここには依頼の途中で寄ったんだよ」


 冒険者のランクを伝え、バッジ付きのギルドカードを見せると、困ったイミスの顔は、パァっと明るくなりテーブルを両手で叩く。


 「本当に!?それじゃあ、ずっと諦めていたあそこにも行けるかもしれない!」


 「あそことは…?」


 「うん。実はこの村の近くの遺跡に、ウチのご先祖様の形見が置かれているのだけれど…それが、ゴーレムに最適な魔石らしいの。その魔石を使ったゴーレムなら、今よりもずっとスゴイものが作れるに違いないの!おばあちゃんが遺した日記には、本物の強者のみが取れるんだって書いてあったから間違い無いわ!」


 「それなら、みんなで取ってきたら良いと思いますが、試さなかったのですか?」


 「一度はそうしたよ…でも、遺跡の中で大きなゴーレムが行く手を阻んで先に進めなかったの…」


 「なるほど…それを俺たちが倒せば良いって話ですね?」


 「そうなの!……どうかな?」


  イミスは俺の手を取って、上目遣いでお願いしてくる。どうと言われてもね…?そして手を取るのはカルミアが不機嫌になってしまうので止めていただきたい。俺はまだ生きていたいのだ。俺は手を優しくほどいて、ちょっとだけ考える素振りをしてみる。


 「うーん。カルミアさん、サリーさん…どう思う?」


 カルミアは少し不機嫌だがお返事はしてくれた。


 「む…サトルがどうしてもって言うなら……別にいいけど」


 「アタシは賛成!ゴーレム見たいかラ!」


 問題は無さそうなので、この願いを受けることにした。ゴーレム以外でも良いアイテムが見つかる可能性だってあるのだから、行くだけ行ってみても良いだろう。俺たちはイミスの酒場にある二階に泊まり、翌朝出発することにした。




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