61話
「え、エェ~!?依頼でミトスツリーまでぇェ~!?うェ~…」
移動中の馬車で驚愕したサリーは、笑顔だが口がヒクヒクしており何だかものすご~く嫌そうな顔だ。
「うん。指名依頼でね。ジロスキエント・ミトスツリーというエルフの里は、シールドウェストからちょっと離れてて、北東まで馬を走らせる必要があるらしいよ」
「…それじゃあ、今は補給のためにゴーレムの村に向かっているってところかしら」
「カルミアさん、大正解!距離があるから、各村で補給を済ます必要があるんだけど、その村のひとつが、ゴーレムの村って場所なんだ。どちらも独自の文化が浸透しているらしくてね!今から楽しみだよね」
フフンと自慢気な表情のカルミアは、俺と楽しくおしゃべりを続けるが、会話に一切入ってこなくなったサリーの様子が心配だ。どう見ても元気がない。新しいことや変わった物が大好きなサリーがここまで乗り気じゃないのは不思議だな?
「…サリー、どうしたの?」
「カルミアちゃん…。いいえ、何でもないわヨ…ワタシゲンキ、ワタシハゲンキ…ハハヒヒ」
何時ものカタコト言葉が更にも増してカタコトになっており、ニコニコ顔も何となくぎこちない。エルフの村っていうことだから、会いたくない知り合いでもいるのだろうか。
「お客さん、ゴーレムの村が見えてきたよ」
いつも俺たちを乗せてくれるせっかちな御者さんが前方を指さす。そこには穏やかでのんびりしている様子の村が見えてきた。一面の畑には穀物と思わしき作物が元気よく伸び伸びと育っており、農民が作物の様子を見る姿や、元気な子供たちが駆け回っているのが分かる。広い畑にどこまでも伸びたあぜ道は、素朴だがあたたかく懐かしい気分にさせてくれる。
村の酒場前に大きな馬場末があり、御者がそこに馬を入れると、酒場の中から何かが出てくる。
「イラッシャイ イラッシャイ」
人形のクレイゴーレムだ!頭、手足がついておりヒューマンをモデルにしたタイプで間違い無い。しかも共通語を話すなんて…制作難度の高いゴーレムだ。誰かがクリエイトして使役しているものかと思われる。御者さんも村を歩く人たちも気にした様子がないところを見ると、ここでは日常なのかもしれない…なるほど、これがゴーレムの村たる所以だな!
「キャハ!何これおもしろォ~!!」
サリーが馬車から勢いよく飛び降りて、丁寧にお辞儀をしているゴーレムにじゃれつき始める。ゴーレムはサリーを気にする様子もなくお辞儀を続ける。
「イ…イラッシャイ…イラッシャイ、イ…ラ」「これが魔導回路かなァ?魔石と連結していル!でも、こんな少量の魔石で言葉まで話すなんて、どうなっているんダロ??ねぇねぇサトル、見て!手が取れたヨ♪アハハハ!」
見て!手が取れたよ♪じゃねえええ!何ナチュラルに壊しているんだぁ!?イタズラはやめろおお!戻せぇぇ!!使役者に見つかったら弁償だけで済めば良いが、絶対怒られるやつだろお!?
「サ、サリーさん…その手を戻して…」
「うん、わかっタ!…アレレ?くっつかないヨ?…頭の上ならくっつくケド…まいっか!頭の上にあったほうがステキだよネ!そ~レ!」
出迎えをしてくれたクレイゴーレムは、頭に手がくっついた形になってしまい、何とも前衛的なデザインに変化してしまった!芸術的ゴーレムの頭にくっついた手は、何らかの誤作動を起こしたようで、ゴーレム全体がグルグルと回り、意味不明な発言を繰り返す。
「イラッシャイ イラ…イラシャイシャイシャイ、イライライライライライラ」
「アハハ!すごいすごい!イライライライラ♪」
グルグル回るクレイゴーレムとサリー…もう他人のフリしていいかな? 見事におかしくなったクレイゴーレムと元々おかしいサリーが出来の悪いダンスを踊っていると、クレイゴーレムの方に限界が来たのか、そのまま爆発してしまった。サリーは炭だらけの格好になったが放っておこう…爆発音で、酒場から何だかんだと人が出てくる…もうめちゃくちゃだよ。
「何?何があったの!?」
人をかき分けてやってきたのは、エプロンにトレイを持った姿の少女だった。小麦色の肌、日に焼けたような茶髪で長髪をひとつにまとめており、動きやすい格好をしている。
「お騒がせしてすみません。お出迎えしてくれたゴーレムさんが、その…爆発してしまいました」
爆発したゴーレムは、無惨にもサリーの足元に転がっており、ピクリとも動かなくなってしまっている。サリーはその残骸を興味深そうにつまんだり持ち上げて調べたりしていた。
「それは…失礼しました。ウチが作ったゴーレムで間違い無いです。ここではなんですし、お詫びもしたいので酒場までどうぞ!」
サリーの暴走によってひとつの小さな人形が爆発するという痛ましい事件を、どうするべきか思考しつつ酒場に入ることができた。ふぅ…それにしても申し訳ないことをした。
酒場は落ち着きを取り戻して、野次馬もエールを飲みつつ食事を再開し始める。シールドウェストほどではないが、広く活気がある。カウンターには新鮮な果物や穀物が無造作に置いてあり、食べようと思えば手を伸ばせばそのまま食べられそうだ。キッチンがよく見える構造になっており、そこでは先程の少女と、別のゴーレムが手際よく料理を作っていた。しばらく座って待っていると、料理が運ばれてきた。
「これ、村で採れた自慢の穀物で作ったの。良かったら食べて」