59話
「そうかい、もう行くのか」
「はい、ブルーノーさんたちには案内から討伐まで、本当にお世話になりました」
表彰から翌日、まだ日の出のころに俺たちは町の入り口でブルーノーたちと別れの挨拶を交わしていた。ブルーノーの背中には青白くも雄々しい斧が顔を覗かせており、頼れる男らしさに磨きがかかっている。ちなみに、鍛冶大会ではブルーノーが作ってもらった斧は、最後の審査リストまで残ったのだが、カルミアが作ってもらった刀とどちらを提出するかで審議された結果、実際にデモンストレーションで戦う本人の意向を組む流れになったのだ。……サリーの杖は言うまでもなく最初の審査で落ちている。
「それはこちらのセリフだ。友よ…」
「ブルーノーさんたちは、まだここに残るのですか?」
「あぁ、サトルが討伐したボスの残党共がまだ鉱脈にチラホラいるらしいからな。自警団に任せても良いかもしれないが、ワシらの訓練にも丁度良い…友から得た、この斧の斬れ味も試したいからのぉ」
「互いに頑張りましょう」
「あぁ、また会おう」
キュルル、グレッグ、リックたちもそれぞれに、カルミアやサリーと挨拶をして互いの健闘を祈る。俺たちは同じ目的を持つパーティーだから、また一緒に戦うこともあるだろう。
「シールドウェスト行き、乗り合い馬車。そろそろ出しますよ~!」
御者が俺たちを横目に、早く乗ってくれと催促してくるので、俺たちは急いで乗り込む。御者はすぐに馬を走らせ、手をふってくれているブルーノーたちが小さくなっていく。…なんか寂しいな。この町では得難い装備を新調できたし、ボス討伐の経験も出来た。人助けがキッカケではあったが、ドワーフたちとも仲良くなることができて良かった。また来ることができるだろうか?また彼らとエールを飲み明かすことができるだろうか?
「…サトル、シールドウェストに一旦帰るの?」
「あぁ。今朝、変な鳥が手紙を運んできたんだ。中身を見てみると、シールドウェストのギルドからだった」
「どんな内容だったノ?」
サリーが聞いてくるが、その目と手は予選落ちした杖に注がれている。どう見ても、見た目がよろしくない装飾を磨いている。いつまで持ってるんだろう……。そしてとぐろの装飾品部分を磨いても意味がないように思えるのだが、そこだけを重点的に磨いているのは何故だろう。
「あ、そうだった。えぇっと…指名依頼が入っているため所属ギルドまで、至急帰還されたし…だよ」
「…私達も、指名依頼がよく入るようになったわね」
「でも、一番気になる依頼内容が書かれていないネ」
「確かに…どんな内容なんだろう?」
俺たちは馬車に揺られながら束の間の休息を取るのであった。
* * *
「はっはぁ~~ん…なるほどなるほど!失敗ですか~!しっぱいですか~!?ウヒョヒョヒョ」
ブローンアンヴィルの薄暗い裏道で、怪しげな小人が無駄にキレのあるコサックなダンスを踊っている。…そう、タルッコである。
「はぁ、すんません。ですが、仕事は仕事なので…お金は頂きますよ」
タルッコの奇怪な動きの一切を無視したミスリル鉱石町出身のドワーフは、金をせびり始める。
「ウヒョ?まったくもってナンセンス!わたくし良い仕事にはお金はケチりませんが、ア~ナタがたは、サトルやサトルにくっつきむしの剣士に何ができましたか!?な~んにもできませんでした!ドワーフの筋肉は頭にまで詰まってしまったのでしょうか…わたくし、予想外でございます!ウヒョヒョヒョ」
ドワーフたちの堪忍袋の緒が切れて、斧を壁に投げつける。斧は壁に強く刺さり、壁はその衝撃で陥没した。
「おう、黙って聞いてりゃ言ってくれるじゃねぇかノームのちびすけ」「第一、同胞の町を救った者の妨害なんて乗り気じゃなかったしな」「恩あるサザンカ姉御の願いと、てめぇの大金があって、ようやく受けてやったんだぞ」
「ウ…ウヒョヒョ…どうやら、旗色が悪くなってしまったようですねぇ!これにてサトルのくっつきむし女剣士を事故死させよう大作戦は失敗です!という訳で……」
タルッコがニヤリと怪しい笑みを浮かべて戦闘の構えをとる。只者ではないような見事な構え。ドワーフたちも冷や汗をかいて、それぞれが得意な武器を手に構え直す。タルッコは懐から手を伸ばし、何かを取り出す。…魔法の杖か、すばしっこいノームが得意とする短剣か。
「ウ~ヒョヒョヒョヒョ!!」
懐から取り出したのは大きな音が鳴るただのオモチャと、少しばかりのけむり玉だった。
「実家に帰らせて頂きます!文字通り!」
「しまった!逃がすな!追え、追えぇ~~!」
芸術的なトンズラをかましたタルッコは、ドワーフたちの追跡を撒いて姿を消す。まだまだタルッコの作戦は終わらないのだ!