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58話

番外編と同時投稿してます


 表彰台にはブローンアンヴィルで一番の鍛冶屋が立っている。もちろんその場にガルダインは居ない。カルミアが使用した刀を両手に持ち、王からのお言葉を賜っているところだ。素晴らしい戦いを見せてくれたということで、鍛冶ドワーフの横にはカルミアがいる。


「うむ、受け取ってよいぞ」


ミスリルで出来た、体ほどのサイズがある儀式用ハンマーを贈呈する。王から側近のドワーフへ、側近のドワーフから直接手渡しで渡された。手に持った武器は一旦控えているドワーフに渡される。今回、ブローンアンヴィルは町が出来てから初めての優勝ということで、町長も感動で涙している。


「…この槌と火の神にかけて」


「うむ。この槌と火の神にかけて…よいぞ」


町の鍛冶屋ドワが儀式用ハンマーを恭しく受け取って、ヒゲを握りしめた。すると、王と町長も同様に自身のヒゲを握りしめ復唱する。…面白いな、儀式上では何かの意味があるのだろう。


 しかし、勝ったから良かったものの、試合中に妨害工作をしてきた一派は何だったのだろうか?由緒正しい式典なら尚更こういうことに抵抗がありそうなものだが…。誰かは知らないが、ブローンアンヴィルが勝つことや、カルミアが勝利することに何か不都合があったのだろうか。サザンカという子が、弓矢が飛んできたことに驚かなかったことも気になる。ミスリル鉱石の町と癒着していると考える辺りが妥当だが…どの道カルミアが勝っただろうけどね。


「むむ…我らが王よ、どうかされましたか?」


 側近は王がモジモジしていることに気がついて王へ声をかける。王が側近へ耳打ちすると、側近はうんうんと大きく頷いている。


「…よいぞよいぞ」


「えぇ…はい。わかりました。オッホン…そこの剣士カルミアよ。ありがた~いお話がある。我ら王は、お前を近衛兵にしてやっても良いと仰せだ」


「うむ。してやってもよいぞ」


 なんだそりゃ!?と思って俺も前へ出るが、よく見ると王がモジモジしながら照れていたので、強く言いづらい…。赤面したヒゲジジイに一体どれほどの需要があるのだろうか。そして、俺はなぜそんなヒゲジジイの需要を真剣に考えているのだろうか。まぁいいや…聞かれたのはカルミアなので彼女に任せる。


モジモジして返答を待っている王をじっと鋭い眼光で見つめるカルミア。王のモジモジは徐々に震えに変わり、ソワソワし始めた。…忙しい王だな。


「…イヤ」


 カルミアは一言だけでバッサリ斬って、返答は済んだといった態度で俺のそばまでやってきた。…カルミアさん、一応…王様なのだから、もうちょっと言葉を選ぼうよ…。


「う…うむ。嫌がってても、よいぞ…」


 聞く人によっては危険な言葉になりかねない言葉を呟いた王は、そのまま気絶してしまった。


「お、我らが王よ~!!」


ドワーフの側近たちはドワーフの王を近くの天幕まで運び、会場から消えてしまう。なんとも言えない雰囲気になったが、誰も咎めて来ないところを見ると、王は何時もあんな感じなのだろう。うん、そう思っておこう!



 王が謎の気絶をしてしまったことによって、会場はそのまま閉幕となった。スタッフのドワーフたちが片付けしている様子を眺めつつ、屋台のおっちゃんから余り物を頂いたので、カルミアと食べている。もちろんヒゲが生えないものである。片付けの手伝いを申し出たが、英雄たちに雑用はさせられないと、断られてしまったので、会場の外れで虫のさざめきに耳を傾けてゆっくりしているところだ。


「カルミアさん、デモンストレーションお疲れ様」


「…うん。お疲れ様」


カルミアは普段、他の人には見せない笑顔でエールのコップを打ち合わせてくれた。…普段からこんな笑顔であれば、ドワーフの王も怖がって気絶することも無かったし、めちゃくちゃ可愛いのになぁ…。


「その刀、普通のより長いよね?どうしてそうなったの?」


「…これ?カタナって面白い呼び方ね。これはガルダインが。お前の力なら長かろうが、重かろうが問題ないだろうって、切れ味と威力を追求したらこうなったんだって…」


「確かに、普通の人なら両手で持ち上げるだけで精一杯だね…カルミアならその問題はクリアできる」


 カルミアのそばに置かれた刀は鞘に収まっているが、見た目と迫力は野太刀のそれで、長さに至ってはカルミアの身長に迫るほど。そのため、普段は背中に背負う形で携帯する。戦闘や非常時などに鞘から抜く際は、両手で持った状態で振り抜いて、その勢いで鞘をぶん投げて抜刀する必要がある。もしくはカルミアの圧倒的な膂力によって左手で鞘を勢いで飛ばすか…そこだけがネックだな。


 どうやって長い刀を有効活用して戦うのか、一緒に考えたり提案したりして、楽しい雑談を繰り広げていると、白銀の髪をした女の子がカルミアの前までやってきた。…カルミアの姉と名乗るサザンカだ。


「我が妹よ…」


「…なに?」


「先の戦い、納得がいかんのだ…」


「…」


「お前が使った武器は、貴重な竜魔吸石を使った物だったと聞いた。…だから、私はまだ完全な負けを認めたくはない。族長としての意地もある」


「…そう」


「そこで、どうだろうか?またお前をメイガスの民として迎え入れよう。そうすれば、今回の負けはメイガスの民の敗北とはならないし、竜魔吸石の装備が敗因となって塗られたドロにも、目を瞑ることも出来よう」


「…フフ」


「なんだ?何がおかしい」


「姉さま…私はもうメイガスではないし、剣となるべき相手はもう決めているの…だから、その提案には何の価値もない」


「なんだと!お前はここまで強くなったのだ。村では全て思うがままだぞ!我らが血を裏切るのか?」


「…何度言っても、結果は同じよ」


「っく…誘いを断ったこと、後悔するぞ」


 サザンカの押し売りを見事バッサリと断ったカルミア。サザンカはプリプリと怒りながら帰っていった。その背中を見送るカルミアの顔は終始変わらず、俺と共に行動するという固い決意が見て取れる。


 カルミアの思いにどれほど応えられるかは、まだ分からないが彼女が信じてくれる限り、また俺も信じて、迫りくる困難に立ち向かおう。さて、ドワーフの町も…そろそろ出発する頃合いかもな。



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