57話 番外編
もう一話同時に投稿します
私は【メイガス】と言われるクラスを称える村で生まれた。
戦いが全てを決める村で、男も女も幼い頃から立派な剣士になるよう教育されてきた。
「違う!何度言ったら分かるんだ!」
教育係と呼ばれる男に何度も叩き伏せられた。その度に体に痛みが走り、逃げ出したい気持ちが私を支配する。なぜこんなことをしないといけないのか?何故私には出来ないのか?
「う~む、やはりカルミアは魔力が発現しないようです」
「他の子はもう秘術集積が使えるというに…才能が無いのでは?」
「姉のサザンカは既に村の大人と戦える能力を持っています…」
何度も諦めずに努力を積み重ねるが、時が経つほど周りとの差は顕著になっていく。時間は残酷なまでに私を置き去りにした。私が孤立するのも時間の問題だった。
冒険者に登録できる年齢になり、成人を迎えたある日。族長から大事な話があるということで、私は族長の家に向かった。村を一望できる場所にあり、中々入れる場所ではない。
私はこれまでの訓練で、紛い物ながらもメイガスの技を何度か発現できるようになった。もしかしたら村の剣士として依頼を任せて貰えるかもしれない。
「カルミアよ…お前は本日を以て村から出ていってもらうことになった」
「…何故、ですか」
「族長は先日、お前の姉であるサザンカが受け継いだ。そのサザンカから、直々のお達しが下されたのだ。この家もサザンカの物となる」
「…私は村の役に立てるよう努力をしてきて―」
「話は以上だ。明日までに村から出るように…メイガスの民は強くあらねばなるまい。結果が全てだ。悪く思わないでくれ」
少しの希望も私には許されないのか。戦いしか知らない私はこれからどうすればいいのか?その戦いも満足に出来ないというのに。
そんな時、シールドウェストの領主が戦いに自信がある傭兵を探しているという話を小耳に挟んだ。私は決して強い訳ではないが、村のみんなに見返したかった。そんなことしても、何の意味も無いのは分かっている。でも、悔しかった。動かずにはいられなかった。
領主の邸宅には腕に自信がある者が沢山集まっていた。でも、どう見ても戦い慣れてないような男もいた。その男の目に自信はなく、キョロキョロと辺りを見回している。私の目に似ている…何かを成し遂げたい目。
気がつけば、その男に話しかけていた。この場所にも、私の居場所は無いと思っていた…でもそれは違った。
今まで戦いしか知らなかった私は、その男の非常識極まりない行為に驚かされた。
弱い者は死ぬ。戦場では当たり前のことだ。私を見捨てればいくらでも活路は見いだせた場で、自分の命をかけて私を守った。何の価値もない、戦いが弱い私を守っても、どうしようもない場所で。どうしようもない場面で!!どうしようもない私を!!!
ここで命を落としても良いと、自暴自棄になっていた。でも今は違う。
悔しい。悔しい。悔しい。強くなりたい…一瞬でも良い。今はこの者を助けなければいけない。命は命で返す。今は絶対に死ねない。そう思った…
気がつけば私は敵を斬り伏せていた。
今まであった栓が抜けたように体中に魔力に似た何かが巡っているのが分かる。そして、なぜだかとてもあたたかい光。体がどう動けば良いか教えてくれる。
そうか…私は、この者から命を貰って、そして私が私でいられるものをもらった。
理屈は分からない。でも、何をしなくちゃいけないかは明確に分かる。
私は守るんだ。私を信じて命をかけてくれた彼を。
私は守るんだ。本当の強さを知る彼の、サトルの目指すべき道を。
あの時から変わらないその目が好きだから。