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56話


「いくぞ!出来損ないの我が妹よ!」


 先に動いたのはサザンカだった。炎に包まれた剣をカルミアに何度も叩きつけるように、激しい連撃を繰り出す。カルミアは冷静に刀でさばき続ける。サザンカの出す一撃一撃が速すぎて俺の目で追うのがやっとだ。この攻撃は、初めてカルミアと出会ったとき、カルミアがメイガスの能力で身体を強化して出していた技の威力に匹敵する。…この攻撃を受け続けていれば、強者でも数合持てば良い方だろう。……以前のカルミアであれば。


 サザンカの剣に纏った激しい炎が剣戟の中カルミアを強襲するが、カルミアはその度に刀で払い風圧だけで無効化してしまう。これを防御の合間に行っているのだから、末恐ろしい。


 カルミアは上段構えを取り、相手へ向かって垂直に斬り込んだ。サザンカはそれを見てバックステップを行い、すぐさま反撃にうつる。すると、カルミアは切り下ろしたリーチの長い刀を斬り返して反撃する。斬り返しの速度は目で追えないほど早く、サザンカが反応できずにミスリルの防具に傷がつく。…勝負あったかな?


ドワーフの審判は、何故か何も言わずに試合を続けさせている。…あぁ、コレはヤってますわ。


 勝負があったと思っていたカルミアは少し油断していたので、サザンカの強襲をまともに直撃してしまいそうになる。しかし、強襲を宙返りで回避。続く連撃も後方回転跳びを何度も行って回避した。


「何…!?なぜだ…なぜ入らない!」


 怒涛の攻撃も一切の有効打が入らず、サザンカは焦り始めた。カルミアは続く攻撃も黙って攻撃を受け続ける。まるで以前の自分と比べて、何処まで成長しているかを確かめるように…。


 サザンカの攻撃に合わせるように、四方八方から矢がカルミアへ飛んできた。カルミアに油断はなく、素早く刀を地面に突き刺して、刀の柄を握ってポールダンスの様に飛来する矢を【迅雷脚】で打ち返す。【迅雷脚】の効力で付近へ強力な雷撃が放たれてサザンカの追撃を防止した。


…審判は虚空を見つめてドワーフ焼きを食べている。…おい審判!


「…それだけ?」


「ふん…それならば、これでどうだ…【秘術集積・エンハンススピード】【神速の強襲】」


 っお?スタンスを変えてきた。どちらも魔法剣士のメイガスが持つ技や魔法のひとつだ。【秘術集積・エンハンススピード】は【秘術集積・フレイミング・バースト】と同じタイプで、自身にエンチャントして効果を発揮する魔法だ。【秘術集積】と名のつく魔法の効果は強力だが、秘術集積を上書きして発動するため、フレイミングバーストとエンハンススピードは同時に発動できないデメリットを持つ。【神速の強襲】はメイガスが持つ切り札のひとつだ。効果は単純で、自身の速度を知力分上げることができる。大体のヒューマンは知力が10前後あるため、倍程になる。単純故、強力な技能である。


「ふうぅ…はぁ!」


 カルミアはサザンカがエンチャントを終えるまで待っており、サザンカが攻撃を再開する。先程はギリギリ目で追えるレベルの剣戟だったが、もう互いの姿がどこにあるかくらいしか分からなくなった。本当に一時ではあるが、速度が推定20近くになったことでカルミアの速度に匹敵する動きを得たのだ。…少し前のカルミアの速度だが。だってカルミアはもう速度28もあるから……。


「何故だ…なぜだなぜだ!?お前は弱かったはずだ!魔力もなく、メイガスにも成れない出来損ないだったはずだ!それが、この世界の理のはずだ!!」


 サザンカの連撃が続くが、その勢いは次第に弱くなっていき、結局一太刀入れることもできずに膝をついてしまった。呼吸は激しく、消耗しているのがわかる。メイガスのエンチャントは強力だが、代償なしに発現させ続けることはできない。高レベルであれば話は変わるが、どの技も数分程度しか維持することが出来ない短期決戦型だ。例に漏れずサザンカもそのタイプだったのだ。


「…確かに、私は何も成せなかった…サトルと出会うまでは。これが今の…私!はぁぁぁ…」


 カルミアの体は激しい雷に包まれて、辺りに雷鳴が響き渡る。構えた刀に雷撃が集束していき青白い刀は雷を纏った。いつも以上に雷は激しく音をたてており、打ち込む前から辺りに雷撃が飛散しまくっている。確かめるように刀を見つめて握り直す。


「…うん、全力で力を込めても壊れない。ガルダインは良い仕事をした」


「何故…魔力を…?い、いやこの感じは気の力!?モンクにしか使えないはずだ!しかも剣を…何故だ!?」


サザンカは激しく動揺するが、カルミアはお構いなしといったように【電光石火の構え】をとる。


「姉さま…過去の私とは、もう、さよならです。……雷切三連!!」


 カルミアが構えから踏み込むと、地面は陥没しカルミアの姿が消えて無くなる。突風が吹き荒れて、会場を灯していた松明が全て消えて戦いの様子が見えなくなってしまう。次の瞬間、激しい雷光が辺りを照らし、雷鳴が立て続けに響き渡り爆発が起きた。


 暗くてよく見えないが、煙が晴れるとそこには、呆然と立ちすくむサザンカの姿があり、サザンカが持っていた魔法の剣が綺麗に三つになって地面に散らばっているのが分かる。剣からはまだ電撃が走っており、攻撃の壮絶さを物語っていた。スタッフのドワーフたちが慌てて光を灯し始め、会場全体がよく見えるようになってから、カルミアは刀を鞘に納める。そして、バラバラになったミスリル剣を拾い集めて、審判の前に綺麗に並べて言った。


「…審判、判定は?」


戦いの様子をずっと見ていた審判も、サザンカ同様に目を丸くして呆然としており、カルミアに声をかけられて我に帰ったようだ。こうなっては誤魔化せない。


「う…は、はんてい!勝者はカルミア。そして…竜魔吸石の装備が優勝となります!」


二人の健闘を称えるように、模擬戦の会場は一気に盛り上がりを見せた。サザンカはうわ言のように何かをずっと呟いている。カルミアが勝つのは分かっていたが、これはちょっとサザンカが気の毒だな…


 ブローンアンヴィルを救ったうえに、圧倒的な強さで優勝まで決めたカルミアは、特例として授賞式に参列することとなった。例年通りでいけば、製作者のドワーフと武器の受賞で閉会となるが、カルミアの強さにドワーフ王がとても感激したらしく、皆の前で表彰される運びとなったのだ。…引き抜きとか無いよね?


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