54話
大会当日。賑やかな町はさらにボルテージを上げて、町全体が熱気に溢れていた。所々には賑やかしの飾り付けが散りばめられていて、いつも以上に出店が並んでいる。ドワーフ以外の種族もちらほらいて、全体的には冒険者の数が多い。戦うことを生業にする者が多いのは、この日のためにブローンアンヴィルでめぼしい装備がないか目当てで、買い物や観光に来ているからだろう。
町の中央で、既に武具の品評会が開催されており、一次審査を通った武具は、見世物として自警団ドワーフたちが実際に着用して模擬戦を行っている。実力が拮抗している者同士で戦い、防具に傷をつけるか武器を使用不可にした時点で勝敗が決まる。戦いの会場は町の入り口付近でスペースをとって行われており、誰でも自由に見学ができるため、冒険者たちが賭け事をして賑わっているのが分かる。
「お、やってるなぁ~」
俺はサリーと二人で鍛冶大会の模擬戦を観戦しに来ている。カルミアは決勝のデモンストレーションのため、一時離脱中だ。ブルーノーたちはパーティー内で観光を楽しむらしく、別行動をとっている。
「そこの兄さん、姉さん。ブローンアンヴィルの美味しいドワーフ焼きはいかがっすかー?今ならヒゲがよく生えてくる効果がついてるぞ~」
売り子さんが食べ物を勧めてきたが、いらない効果がついている。いや…ドワーフには有り難いのか……??ヒゲは創作の次に大事な種族なのだろうか。勧めてきた食べ物は、手が汚れないように配慮してあるのか、見たこともない葉で包まれた穀物だった。出来立てで地味に美味しそうなのが腹立つ。
「エェ!ちょっと欲しいかモ!」
サリー、それでいいのか…。いや、俺が嫌だ。
「いや…い、いらないです。美味しそうですが…他には無いのですか?ヒゲが生えないものでお願いします」
「ん~?そうなの??オススメなのになぁ…じゃ、無難に串焼きはどうかな?」
串焼きはジュージューと美味しそうな音をたてて俺の胃袋を誘惑してくる。
「それじゃ、二人分お願いします」
「はい、どうぞ。まいど~」
俺はサリーに串焼きを渡して、自分も模擬戦を観戦しながら頬張る。不思議な味付けだが甘みがあって素晴らしい。珍味というかクセになる味だった。
「う~ん、旨い。コレで良いんだ。これで」
「美味しいネ!サトルありがト~」
模擬戦会場では自警団のドワーフ同士が剣や槍を打ち合わせて、激しい攻防を繰り広げている。どの武器が良いのか分からないが、こうして戦う様子を見ているとカルミアやサリーがいかに規格外に育っているかが良く分かる。…攻撃が目で追えるのだから。
皆が賭け事に熱くなっているので、俺もその辺の冒険者に混ざって仕切り屋に銀貨を何枚か渡す。どちらが優勢か判断がつかなかったので、剣を使っているドワーフを応援することにした。剣を使ったドワーフは槍ドワの強烈な突き攻撃を必死でさばいている。槍ドワが棒術のように牽制をかけ、剣ドワに圧力をかけた。
「頑張れ!剣のドワーフさん!」
剣ドワは必死に剣で応戦するが、槍ドワの変則的な動きによって惑わされてしまい、その隙をつかれて剣を弾かれてしまった。弾かれた剣は地面に刺さる。武器が手から離れて使用不可になったため、槍ドワの勝利だ。勝負の決着がつくたびに賭け狂いたちが大声で叫んだり、項垂れたりしている。…う~ん、負けてしまったか。
「売り子さん、もう一つ串焼き下さい」
「あい、まいど~」
売り子は俺の近くで観戦しつつ、売って周ってたのでもう一つ注文。やはりクセになる味だ。ランスフィッシュには敵わないが…。
「う~ん、うまい。ちなみに、これは何の肉ですか?」
「はっはっは!君は冗談が上手だね!このタイミングで売る肉なんてグリックに決まっているじゃないか~。アッハッハ」
売り子さんが笑いながら何処かへ去っていく。……うん、聞かなかったことにしよう。本当に聞かないほうが良かったかもしれない。
ドワーフたちが熱き戦いを続け、審査も一通り完了することができた。今年も例年通り、ミスリル鉱石が採れるドワーフの町が勝ち上がった。この町は毎度優勝をしているらしく、ドワーフの王からの覚えもめでたいらしい。ミスリル鉱石が採れる町は王からも莫大な投資を受けていて、金に物を言わせて今回も勝ち上がってきたという訳だ。素材のスペック差を覆すのは中々に難しく、ある程度は技量でどうにでも出来るが、実力が拮抗している状況で、鉄鉱石産の剣とミスリル鉱石産の剣で戦えば結果は見えている。
決勝のデモンストレーションは、竜魔吸石を使った刀と、ミスリル鉱石をふんだんに使った剣を使用して模擬戦を行う。もちろんカルミアは竜魔吸石を使った刀を使って戦うが、相手がまだ知らされていないのだ。
決勝のステージは数多くの松明で明るく照らされており、雰囲気が出ている。古代の決闘場みたいだ。夜が更け、決闘の準備が整ったころ、大勢の野次馬と賭けが大好きマン共に見守られながら、カルミアが登場したのだ。…いよいよメインイベントのデモンストレーションだ…!