53話
「…素晴らしいわ」
あれから二週間は経過しただろうか。町長から三人分の武具を竜魔吸石で作っても良いという許可をもらった俺たちは、各々で武具の制作を町のドワーフに頼んでいるところだ。町は祭りの日が近くなるにつれて、飾り付けや屋台が完成していき、賑やかになっている。
鍛冶は一手に引き受けることが出来ないため、ブルーノーは町長がおすすめする腕利の鍛冶屋へ、サリーは何故かモヒカンドワーフの所へ、カルミアはわざわざシールドウェストのガルダイン・アイアンフォージをここまで呼んで作ってもらっている。ガルダインはシールドウェストを拠点にカルミアの武具を担当しているドワーフの鍛冶屋で、腕は確かなのだが、剣士や戦士のようなタイプの人としか仲良くしない変わり者である。
ガルダインはこの町の氏族ではないが、この町で最も実力ある鍛冶屋と共同作業を行うという条件の元、制作に関わることが出来たのだ。もちろん勝ってもガルダインの名は明かされない。あくまでサポートを行うという名目で携わっているからだ。カルミアは経験者であるガルダインに頼むと言って聞かなかったからな。
「素晴らしい…さすがガルダイン。よくわかっている」
町の一画で広々とした鍛冶スペース。実力ある鍛冶屋は良い土地で店を出すことができるが、今回はこの町で最も実力ある鍛冶屋の店を貸し切りにして、ドワーフ二人でカルミアの装備制作を行っている。
カルミアは出来上がった剣を手にとってじっくりと眺めている…いや、これは最早、剣というより刀と言った方が良いだろう。刀は美しくも怪しい刃文をなびかせて光を吸い尽くすような魔力を感じる。青白く輝く刀身からは、一度見たら目を離せない。
「あぁ…良い仕事をしたな」
ガルダインは汗を拭って、一息ついた。炉は決して休まないと言うが、刀の制作に入ってから殆ど休んだ姿を見ていない。何処からそんな体力が湧いて出ているのか不思議である。しかも、急いで来て貰った上にたいした見返りもなくこんな仕事を請け負っているのだから感謝しかない。
「ガルダインさん、本当に良かったのですか?鍛冶大会での名前も出せず、報酬もなし。シールドウェストの仕事まで休んでカルミアさんに協力していただいて…」
「あぁ?まぁ、構わんよ。ワシは認めた者にしか打たん。カルミア嬢ちゃんが大物を討伐したってんだから、お祝いみたいなもんじゃ。貴重な石を打てる経験も出来た…こっちが感謝したいくらいじゃな」
そう言うと、ガルダインはハンマーを丁寧に置いて、水を飲みに行った。その様子を、町一番の腕利きドワーフが申し訳無さそうな表情で眺めている。
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ…。実は、私達の町でもガルダインさんは腕利きで有名なんですよ。私はこれでも町一番で、鍛冶なら負けない自信がありましたが、一緒に仕事を進めていく内に、それは思い違いだと知らされましたよ…本当に良い勉強になりました」
「そうだったのですか…まぁ、この業物を見れば、素人からみても何となく凄いのは分かります」
「えぇ…本当に」
俺たちが喋っている間も、カルミアはまだ刀を見つめ続けている。…いつまでそうしているんだろうか?
「…強度と靭性面も、申し分ない…あぁ、私の―」
「ほう、カルミア嬢ちゃんは良くわかっておるな。それを高めるために、合金にしたのじゃ。そのままじゃあ脆いからな…ただ、まだ完全に完成しとらんから、預かるぞ!」
そこへガルダインが戻ってきて、カルミアから刀を取り上げる。カルミアは名残惜しそうに刀へ手を伸ばすが、ガルダインに静止されて阻止されている。
その後も完成するまでカルミアは、まるで恋する乙女のように熱い視線を刀へ送り続けた。
俺にも少しはかまってほしいと思ったのは内緒。
カルミアは梃子でも動かない様子だったので、放っておいてサリーの様子を見に行った。サリーは貴重な鉱石をあのモヒカンドワーフの所に持ち込んでいたが、本当に良かったのだろうか?
「お~い、サリーさ~ん?武具の制作は順調かい?」
店まで出向いた所にサリーがいた。何やらモヒカンドワーフとお話をしていたようだ。
「ん~?あ、サトル~!見て見て!ほとんど完成したよォ~」
サリーが自慢気に見せてきた杖は…なんというか、まぁ、アレだった。…まず、杖らしく集束点に大型の魔石が埋め込まれているまでは良い。この魔石は恐らく討伐したグリックのものだろう…
問題は、デザインが独特なのだ。集束点の真逆に位置する尖端部分に竜の置物がとぐろをまいて、杖にくっついてる。これじゃあどう見ても……いや、やめておこう。
「これは何か意味があるのかい?」
「エ?格好良いじゃン。それだけだよォ?でもそれが大切なことなんダ」「あぁ…イカすだろう?」
モヒカンドワーフが髪をセットしながら合いの手を入れてきた。
「この、とぐろ具合に三日三晩、そこのサリーちゃんと話し合いを重ね、こだわりぬいて作ったんだ。ちなみに、そこには竜魔吸石をたっぷりと使ってあるから安心しろ。ほら、兄ちゃん…持ってみな」
「大切に扱ってネ!」
サリーから杖を手渡された。三日三晩デザインを考え抜いて作ったらしい杖は、竜のとぐろの装飾品が重すぎて持っているだけで疲れるし、相手に集束点を向けると竜の置物が自分の顔のところに来るので、控えめに言って最高に邪魔だった。
「うん、まぁ………良かったね」
「ホント!?ありがト~!サトル~」
変な杖を俺から奪い取ったサリーは満面の笑みでモヒカンドワーフと防具の制作に取り掛かり始めた。
町長…すみません。