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52話


「本当に、本当によくやってくれた」


町長の執務室は夕日に照り映えている。俺たちは無事帰還し、町長へボスの討伐を報告しているところだった。町長へグリックの首を見せると、感極まったように頭を下げてきた。


「腕を疑っていた訳では無いが、まさか犠牲無しでここまでやり遂げるとは思わなかった。この町を代表してお礼を言わせてくれ」


「手強い相手でしたが、町に貢献出来て嬉しいです」


「ガハハハ!気に入った。そうだな…報酬だろう。何が欲しい?何でも言ってみろ」


常に険しい顔だった町長は、すっかり笑顔だ。


「ありがとうございます…実は、先の戦闘でうちの剣士が使っていた剣がダメになってしまったのです」


俺が申し出たタイミングでカルミアが剣を見せる。刃は潰れて全体的にボロボロになっているのは一目見ただけで分かる。


「おぉ…それは、申し訳ない。うちの町を救ってくれた英雄だ。町一番の鍛冶打ちに、すぐに直すように伝えておこう」


「実は、そこで相談なのですが…武器を新しく作って欲しいのです。……この竜魔吸石で」


「ホレ、こいつじゃ」


ブルーノーが背負子を下ろしてカゴの中身を見せる。カゴいっぱいの竜魔吸石が輝いており、町長の顔を青く照らした。


「…む。ま、まぁそこの…カルミアと言ったか?英雄一人分であれば、特に問題もないだろう」


渋々承知してくれたようだ。少量でもとんでもない価値を生み出す鉱石なのだから、仕方がないといえばそうなのだが。


「カルミアと、そこの魔法使いのサリーさん、そしてバックアップをしてくれた代表として、ブルーノーさんの斧も、この鉱石で作ってほしいのです」


町長は机を強く叩き、反論した。先程までの笑顔は何処へやら…ドワーフ怒ったら死ぬほど怖い。


「なんだと!?さすがにそれはイカン。この鉱石は町の行く末を左右する貴重品だ。少量でも融通できるというだけでも譲歩しているのだぞ!?…三人分は無理だな」


「そこを何とかお願いします。バックアップの方と皆で成し遂げたことです。私達のパーティーだけでは成し得なかったと思います」


ブルーノーは驚きのあまり声が出ないようだ。俺がこんなことを言い出すとは思っていなかったようだ。俺が頭を下げると、カルミアとサリーも続き、オロオロしていたブルーノーも表情を引き締め直して頭を下げた。


「……弱ったな。町を救った英雄にこんなことをされては断れないじゃないか。全く…そうだな。それじゃあ一つ条件をつけるのはどうだ?」


「条件ですか?」


「あぁ、知っているかと思うが、お前たちのおかげで予定通り、鍛冶大会をこの町で開くことになる。鍛冶大会とは、ドワーフの町の者が一箇所の町に集まって作品を出し合い、最も優秀な武具とそれを作成したドワーフを称える由緒正しい祭りなのだ。祭りには町長を纏める…お前たちにわかりやすく説明するなら王と言った方が良いかな?とてもお偉い方がいらっしゃるのだ」


「その祭りを手伝えば良いということですね?」


「端的に言えばそうだ。しかし、設営を手伝えと言っている訳では無い……。鍛冶大会で提出される武具の優劣は、何も見た目の精査だけではない。戦える者同士が実際に模擬戦を行ってみて、使いやすさや耐久性などを総合的に判断する。これは祭りとしての見世物の役割も兼ねているがな」


「なるほど…見えてきました」


「ふむ。話が早くて助かるな…決勝まで勝ち上がった武具による模擬戦のデモンストレーションに、グリックのボスを討伐した腕を見込んで、カルミア君を推薦したい。いつもなら、ドワーフの自警団同士でやっているが、町の英雄とあらば皆が喜んでくれるだろう。当たり前だが、うちの町からは竜魔吸石を使った武具を作成する。無論、決勝まで勝ち進むつもりだ」


「分かりました。そもそも、決勝まで勝ち上がれなかったり、決勝で負けちゃった場合は?」


「そこの少女が負けるとは思えぬが…まぁ良い。結果がどうであれ、先の約束をしてくれるのであれば、三人分の武具を竜魔吸石で作ろう。それでどうだ?」


「ずいぶんこちらが有利なお話ですね?」


「町を救ってくれたのだ。英雄に武具を提供することに問題は無い。ただし、バックアップの人員まで貴重な鉱石を使って武具を作るのは、道理が通らぬ。ドワーフ共は強き者に武具を作ってこそだと思っているからな!」


「腕の立つカルミアさんが竜魔吸石を使った武具をアピールすれば、町の利益にもなる…そうですね?」


「その通りだ。広告分として活用するのであれば、少しばかり過分に貴重な鉱石を使うこと自体、吝かではない」


落とし所としてはこんなものだろう。正直、命をはってくれたブルーノーさんたちを称えない姿勢は、気に食わないが、それほどのお金が動くというのであれば、町長の立場も分かってあげるべきなのかもしれない。


「カルミアさん、それでいいかい?」


「…うん、サトルがそうしたいなら別にいい」


カルミアなら提供された武具を…まぁ、剣であれば上手く使いこなせるはずだ。予め作るものを町長と相談しておかなくてはな。これから忙しくなるぞ!


「分かりました。よろしくお願いします」



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