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51話


「…サトル、私の剣が壊れちゃった」


カルミアが大切に使ってきた剣は、先の激しい戦いによって完全に刃が潰れて使い物にならなくなっていた。カルミアの力であれば鈍器として使えなくもないが…。


「長く使ってきたから、仕方がないけど残念だったね…町に帰ったら新しく作ってもらおう」


「…良いけど、あの奇抜な髪型のドワーフのは嫌よ」


ダンジョンアタックする前に寄った店のことだろうか。カルミアは装備に対する妥協が無く、性能を重視している。あの店は装飾過多なので気に入らないのだろう。…個人的には好きな部類なのは内緒である。


すると、ドワーフ自警団の一人が声をかけてきてくれた。


「あらまぁ!武器壊れちまっただか!?それなら竜魔吸石から作って貰えるように、町長にお願いしてみるんだなー!」


ブルーノーが賛成の声をあげる。


「うむ、これだけのこと成し遂げたんじゃ。少しは融通も効くじゃろ」


「んだんだ」


うちの最大戦力のカルミアが良い武器を持てば、それだけクエストの達成率を上げることが出来るし、蛮族王討伐への目標にも近づいていくはずだ。


「うん…それは良い考えですね。鉱脈はこの奥ですか?」


「んだんだ」


俺たちはこの場を後にして、鉱脈の奥まで向かった。景色を見る暇なんて無かったが、奥に行けば行くほど自然に青白く発光した鉱石が光源になっていて神秘的な雰囲気を作り上げている。この光源一つ一つが小さな竜魔吸石なのだろう。


自然の神秘を楽しみつつ、暫く歩き続けるとまた開けた場所にたどり着いた。ほとんど人の手が入っていないが、ドーム状で天井が高い空間になっている。上からは氷柱のように石が垂れ下がっており、所々から水が滴って、地面を穿っている。…ここは、気の遠くなるような時間をかけて作り上げられた空間なんだ。


「ついただ。掘り進めるとこんな空間に出ただ。ここにあの魔物が住んでただ」


「…きれい」


ドーム状になった空間の壁一面には、青白く輝く鉱石が見え隠れしている。量が多いのか、空間自体何も照らさずともハッキリと目視できる。その中から手で採れそうな鉱石をいくつか持ち帰っていくことにした。竜魔吸石を手にとってよく観察してみる。見た目は鉄鉱石とよく似ているが全体的に青白く発光しているのが最大の特徴だ。この鉱石自体に魔力があって、武器や防具…その他の用途にも需要がある貴重品だ。ミスリル鉱石が魔力をよく通す素材ならば、これは魔力をよく含む素材といったところか。どちらも魔法装備にうってつけの鉱石だ。もちろん、鉱石にも個体差はあるかもしれないが。


洞窟というものは絶景とは言い難いものだという先入観があったが、こんなにも綺麗な場所が存在するんだなぁ。まさか洞窟で長居したいという気持ちになるなんて思わなかった。


「よし、これでカルミアさんとサリーさんの装備が新調出来るな!」


「えェ!?」


するとサリーが手に持っていたクォータースタッフを大事そうに抱きしめる。スタッフの尖端部分に、モヒカンドワーフの所で買った前衛的デザインのお土産品がいっぱいくっついてる。…それ、絶対邪魔だよね……?というか何時つけたんだよ、増えてるし。よくそんなジャラジャラさせて魔法唱えられるな。逆にすごいよ。


「サリーさんの杖もだいぶガタがきているから、交換しようよ」


「えェ~……はぁ、分かったよォ~。気に入ってたんだけドこレ~…」


サリーは未練たらたらに、杖の尖端部分にくっついてるドラゴンがまきついた剣の装飾品を指さす。装飾品は頑丈に魔法か何かで溶接されてて、壊さないと取れそうにない。絶対につけたいというサリーの強い意思を感じる。


「…む、それは!」


すると、カルミアがその装飾品を力ずくで引っ張って杖の焦点具ごと引きちぎってしまった!なんというパワー!カルミアは何故かモヒカンドワーフが作った物がすこぶる気に入らないようだ。親の敵のように見つけ次第排除しようとする。謎である。


「ぎゃあああ!カルミアちゃん!なんてことするの!」


「…それは、いけない」


「もォ~!気に入ってたのに!まいっか!また買おっト」


「無駄使いは…やめなさい」


「無駄じゃないも~ン」


二人が言い合いしている中、十分な量の鉱石を回収したブルーノーがやってきた。


「ガハハ!大型モンスターを討伐しても、サトルの仲間は相変わらずじゃな!…さ~て皆、帰るぞ~」


採取もそこそこに帰還することにする。帰還中はずっとカルミアとサリーがしょうもない言い合いを続けていた。


* * *


「誰もいなくなりましたね…ウヒョヒョ」


頭の無くなった変異種グリックのボスが倒れる場所に、怪しい影がひとつ。小柄な体を精一杯使って、グリックの体によじ登る姿があった。そう、タルッコである。ちなみによじ登る意味は特に無い。何となく登ってみただけである。


「フゥ!洞窟でどさくさ紛れにサトルを倒して本を奪おう大作戦は失敗に終わりましたか」


タルッコはグリックの体をペシペシ叩きながら独り言を続ける。


「サトルに与えられた軍資金を上手いこと奪って、闇ギルドからモンスターを買い、襲わせる所までは上手くいったのですが、思った以上に戦闘能力が高いようですねぇ…ふぅ~む。これは作戦を練り直さねばなりません…ウヒョヒョヒョ…覚えていろ。あの本は、絶対に手に入れてやるからな…アイリス様のお心にはわたくし一人で十分なんだよ。ウヒョヒョヒョ~~!!」


タルッコは不気味な笑みを浮かべながら、グリックを使ってテンポよく叩く速度が上がっていく。ドラマー顔負けのビートが刻まれ、静かな空間にシュールな音が響き渡る。ちなみにグリックを叩いている意味は特に無い。


「さて、そろそろ追いかけますか。まだまだ、諦めませんよ…奪ったお金は山ほどあるのですから。ウヒョヒョヒョヒョ」



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