完結編 43話
エクスタミネーターの瓦礫が派手に飛び散るが、さすがイミスといったところ。無傷で仲間と自身を守り切った。
お礼を伝えようと一歩踏み出すが、目の前が霞んで、とうとうみんなの目の前で吐血してしまった。
「イミスさ…ありが…と…ぐは……ごほ…ごほ」
自分の身がどうなっているのか、よく分からない。
「サトル!」「お兄さん!」「お前…!」「サトル!どうしたノ!」「さ、サトル…!ウチ…!」
だが、仲間の様子を見る限りだと、良い状況とは言えないようだ。
「だいじょぶ…イミスの盾は正常に作動していた。これは……そう、奴が、何か未知の力で反撃したに違いない」
ネヴァー・イーターが埋まっていると思われる、がれきの山を力なく指すが、だれもそれを信じているようには見えない。だが、これ以上を口に出すこともない。きっと、俺の力が代償なく発揮されるものだとは思っていないだろう。
(それくらいは…想像、ついてしまうよね…。だけど、今はみんなの決意を揺るがせることをしてはいけない)
「みんな…それより、あいつの…警戒を! さすがに、死んだとは思うけど、今、油断してはいけない。きっちり確認をして、俺たちの勝利を確かめたい。それに、まだこの空間が維持されていることが、気がかりなんだ。この空間は……奴が作り出した、そうだろ」
納得がいっていないようだが、それぞれがゆっくりと頷いた。
イミスが確認に向かい、バックアップとしてみんなが彼女の後ろについた。
カルミアだけは俺の傍から動かない。肩を支え、強い信念を持った目は潤んでいる
(君のそんな表情…初めてみたよ…)
何も言わないが、彼女の悲しそうな表情が、それ以上に全てを物語っていた。
「カルミアさん、大丈夫。俺を信じて」
「………」
俺はどうにか立ち上がって、ガッツポーズをして見せた。
どうみても空回りした元気アピールだが、しないよりはマシだと思ったから。
だが、彼女の表情はより一層険しく、涙を堪えたように歯を食いしばる。
(参ったな……)
「サトル!あいつ!潰れたままうごかないヨ!」
サリーが叫ぶと、がれきの山を指さした。
俺は助かったと思いつつ、カルミアの肩を借りながら、様子を見に行く。
ネヴァー・イーターだったものは、ひどい肉塊に変化していた。
だが、これで勝ったような気はしない。
なぜならば…
「みんな、油断しないで。悪意を感じる……後ろだ」
デオスフィアの……悪意を塗り固めたような、吐き気を催すソレが、少し距離を置いた背後から浮かび上がったから。
(まだ…生きている。だが、どう見ても弱っている)
ネヴァー・イーターが元の体を捨て、どのように復帰したのか。そのメカニズムはいまいち分からない。だが、今の奴は弱っている。少なくとも、そう見える。 俺たちの前に現れた時のような丸々とした魔力たぎる球体ではなく、乾燥梅干しのようにしわがれ、洗濯物が吊るされたような、力なく浮かび上がる物体と化しているからだ。
(であれば……俺たちのやり方は、間違っていない。少なくとも、効率的ではなくても、奴を追い詰める方法のひとつに、…正解にの類に、違いはないはずだ)
ネヴァー・イーターは震える触手を突き合わせ、こちらが攻撃を加える前に魔法を放った
「******[ヘイムダル・ゾーン]」
肉塊から魔力の渦が生まれ、空間を捻じ曲げる。
黒一辺倒だった空間は、ぽつぽつと、白い光を加えた空間に徐々に変化し
目視できる『白い点』はすぐに星だと、俺は理解した。
どういうわけか、黒一色の空缶は、宇宙を模したような空間に変化していく。
(呼吸は……できるな)
足元には、青い星が、頭上には赤い星が、そして360度、すべてが鮮明な星となり、宇宙空間のソレと見分けがつかなくなった。
手は動き、呼吸はできる。足も動く、重力も変わらない。浮いたりもしない。
ただ目で見える空間が宇宙としか表現できないものだった。
そして…目の前には、星のように強大で巨大な瞳が降臨した。
(おいおい……俺が知っているゲームのラスボスも2回の変化が限度だったぞ…!)
そんな心の愚痴も、ネヴァー・イーターには届かない。ソレは音を発し、俺たちの脳内に直接響いた。おぞましい声は黒板をひっかく音のように、不快極まりないものが混ざったものだった。
「*敬意を表する。定命の者。お前は定命でありながら、神の領域に触れた。この姿で顕現したことは、この星が誕生して以来、一度もない。そして、この姿で顕現できる時間も、時空間を引き延ばしたこの場においても、ほんのわずかだ*」
「それが、お前の本当の姿ってわけか」
「*肯定する。……我は、星から星へ移り、悪意を育て、育むもの。故に、名をつけるものはいない。すべて、絶滅するからだ。名もなきもの。すべてを、永遠に喰らう者。それが、我だ*」
「ネヴァー・イーター。この星にお前の居場所はない。決着をつけよう」
「*肯定……私に残された全ての力をもって、お前と対峙しよう。誇るがいい。お前は星と対等に渡り合うことができた。唯一の定命であったと*」
「おあいにくさま、過去形にするつもりは微塵もないんだよ」
俺はルールブックを広げ
ネヴァー・イーターは全ての触手をひとまとめにし、切っ先をこちらに向けた
「*全てを一撃に込める。定命の者よ、その賛美を受け、役目を終えるがいい*」
触手の先から徐々に黒い球体が渦巻き、無数の阿鼻叫喚が球体内で蠢く。
「そっちがそのつもりなら、こっちだってすべてをぶち込んでやるよ…みんな、今一度、最後の力を貸してくれ」
ルールブックが黄金に輝き、俺の目の前に浮かび上がる。対峙した悪意を跳ねのけるように。
* 力を貸しましょう *
(アナウンスさん……ありがとう)
ルールブックは、持ち手だけの『柄』と変化した。
「みんな、いくよ……!」
カルミアが頷き、俺の右手をつなぐ。
「私のすべてを、あなたに預ける」
**彼女の信念が、強き刃を作り出す**
サリーも同じ右手をカルミアの上に重ねた。
「アタシのやる気も 全部あげル!」
**彼女の希望が、刃を支える鍔を作り出す**
イミスは左手を繋いでくれる
「ウチの努力を 力に代えて!」
**彼女の血潮が 明日を創る刃を鍛え形と成す**
フォノスはイミスの手の上に重ねるように力を込めた
「僕の願いを お兄さんに託す」
**彼の決意が 刃の切っ先を作りだし、天罰を下す武器と成す**
アイリスは俺の背後から両肩を力強く支えた
「私の力は お前のためにある」
**彼女の意欲が 決して折れない芯と成す**
(みんなの力を……この一撃に込めて!!)
「さぁ、俺たちの……可能性を、魅せてやろう!!」
**あなたの力が 全てを成すでしょう**
「ツルギとなり、悪意を断つ希望と成れ!!」
ルールブックは神々しい剣となり、俺たちの目の前に浮かび上がった。その全長は、星のようなネヴァー・イーターをぶった切れるほどに大きい。宇宙を輝かす刃を携え、上段の構えで、そしてみんなで、ゆっくりと握りしめる。
「こっちの準備はいいよ、ネヴァー・イーター!!絶対に負けないけどね!!」
ネヴァー・イーターは体を震わせ、星のように大きな黒き魔術の球を掲げた。
「*浅知恵よ。三本の矢は、所詮、矢という領域を抜け出せないというのに*」
「そう思うなら、お前はその矢の材質が木か何かだと思っているんだろう。ネヴァー・イーター。お前の悪意はこれで潰える!」
「*死ぬがよい*」
「俺たちは勝つ!」
両者同時に攻撃を放つ!
「*[ヘイムダル・エンド・コントロール]*」
黒き悪意の球体は槍のように尖り、轟音を立てて俺たちを押しつぶさんと迫る
俺はみんなの顔を確かめるように見て頷く。みんなも力強く頷いてくれた。
もはや、言葉はいらないだろう。
この一撃に、すべてを乗せる。
「みんな……今までありがとう。…可能性の全てをここに…![ルールブック・アップスタート]!!!!」
質量を全く無視したとも思える速度で剣は振り下ろされ、悪意と重なる
空間がねじ曲がり、星が俺たちを中心に周り始めた。
「うおおおおおおおお!!!!」
「キシイイイイイイイ!!!!」
黄金と漆黒 希望と絶望
激しい力と力のぶつかり合い、一進一退の攻防が続く
「ごは…!!まだまだぁ…!!」
血反吐を散らしながらも、悪意を押し返す
「キシイイイイ!!*;:::+**;,!!」
ネヴァー・イーターの触手が無数にはじけ飛ぶが、それでも奴は攻撃の手を止めない
「ネヴァー・イーター…!!お前は負ける…!なぜだか、分かるか!!っく…!!ごはぁ…!」
「キシイイイ!!!キシイイイイイ!?!?!」
悪意が徐々に押され、希望で塗りつぶしていく。
理解が及ばぬ状況に、巨大な目玉は目線をさ迷わせる。
「お前は…一人で……俺たちは……一人なんかじゃ、ない、からだ!!」
俺に残された力も、もう僅かだろう。
出し惜しみはしない。
必殺の一撃を、すべてを、込める。
俺が柄を離しそうになると、仲間たちが支えてくれた。力強く暖かい手から、無限にも思えるパワーがあふれ出す。
「キシイイイイ!!!!」
触手は全て弾け飛ぶが、最後の力を振り絞って目玉から紫色の汁をまき散らしながらも、悪意の波動を放ち続ける。
(それも、もう終わりだ)
ネヴァー・イーターが放った悪意の球体は亀裂が入り、剣の侵入を許す。
その先には、奴本体だ。
「これで、本当に終わりだああああ~!! …[星断ちの一撃]!!」
仲間の信頼を力に変えて、剣を振り下ろす。
バァァァアアン!!
空間が弾け飛ぶ音と共に、ネヴァー・イーターの体は真っ二つに裂け散った。
剣は留まることを知らず、勢い余って空間をねじ切った。
「キシァアアアアア~~……!!!!アァアアァ……」
突如、悪意が止まる。
寒気、絶望が、少しづつ、浄化されていく。
奴の断末魔が空間に轟き、宇宙のようなバトルフィールドは、頭上から砂のように散り始めたのだ。
極光の太刀筋が入った、ネヴァー・イーター本体は、斬られた態勢のまま動かず、その体も空間同様に砂となって、消え始めた。
俺の持っていたルールブックは、役目を終えたのか、剣の姿から本の姿に戻り、光を途絶えさせながらも黄金の神性が失われていく。
(お疲れ様……俺の、ルールブック)
バキバキバキバキ……
空間が半分まで砂のように散った後、ネヴァー・イーターは遺言を残す暇もなくきれいさっぱりと消えた。
そして、空間が完全に散ると、元居た森に、戻ってきた。
「終わった……はは…ははは」
俺が腰を抜かすと、みんな手を取り合って喜んだ。
だが、それも一瞬の時だった。
「ごは……」
派手に吐血し、雰囲気を台無しにしてしまった。
「ご、ごめん…う…ごは…」
空間が凍り付いたように鎮まる。
至るところから出血し、止まらない。
俺の……時間が迫っていたのだ。