完結編 40話 決戦
「断る…!」
俺の言葉を受け取ったネヴァー・イーターは、己が肉塊を震わせ、怒りを生み出す。
「現世への領域の干渉は、限度こそあれ微々たるものの、塵埃を排することは、些細な労力に等しく地に伏す者、深淵に叶うことなし。犠牲は慈悲であることを知れ。」
肉塊から黒いオーラがビリビリと放たれる。周囲の草木は瞬く間に枯れ、俺たちも動くので精一杯なほどの圧力だ。
(こんなに身の危険を感じたのは、最初にカルミアと出会って以来だよ…全く)
答えは変わらない。
「断る。お前を許せば、彼女を差し出せば、俺は一生後悔する。彼女がどうとかじゃない。お前はこの世界の悪意を煽り、自らの餌とするんだろう。デオスフィアを作り出す能力がそれを示している。それに……俺はこの世界が好きだ。お前に言っても全然伝わらないだろうけど、俺はこの世界に目覚めた時、正直楽しいって思ったんだ。この世界で、生きていきたいって心から思ったんだ。素敵な人たちにも出会った。そんなこの地を、お前なんかに汚されたくない!あと、俺の名前はチリとかゴミなんかじゃない。サトルだ!いつか国中を笑顔にしてみせる男の名前だ!覚えておけ!」
肉塊に指さすと、触手を激しく動かし、ネヴァー・イーターは攻撃態勢に移った。
「愚かな。俗世の塵埃、定命に、個別の識別を付与するなど時間を浪費する行為に等しい。この世界に一片の価値をもたらさないことを証明してみせよう……」
ネヴァー・イーターは触手をひとまとめにすると、認識することが不可能な複雑な言語を使い、辛うじて名称のみ聞き取れる魔法を放った。
「;;*;;++;;*::;;+**[メソペラジック・ゾーン]……」
ゴゴゴゴゴ……
不気味な音と共に空間が捻じ曲がる
・・
意識が一瞬飛び、俺たちが立っている場は真っ白な空間となった。
もはや森とは思えない、ただの白い無の空間
そこにポツンと肉の塊が浮遊しているだけだ
**存在の消滅を防止しました**
(脳内にアナウンスが…。存在の消滅って何だ?…もしや、俺たちは相手の魔法で一度死にかけた…?だが、それを阻止できたのか。一体なぜだ…。それにこの場所は明らかに俺たちが居た場所とは違う…!)
「ひゃあ!これどうなってるノ!?」
サリーは驚き、俺の腕にしがみついた。
「わからない。どこかに飛ばされたようだけど、空間魔法か何かだろうか」
俺たちが困惑している最中、肉の塊はブツブツと音を発する。
「…個体の消滅に失敗。愚かしい……これは正しく神の介入。まさか、この者に神性があるとでも。だが所詮は人。干渉範囲で限界を放てば滅するにはこれで事足りる」
ネヴァー・イーターがこちらに触手を向け、呪文を唱え始めた。
(何がどうなっているかは分からない。だが奴の攻撃であることは確かだ。地に足はついている。手足も正常に動く、それなら攻撃できるってことだ)
「みんな、動揺するのは後だ。体が動くなら攻撃できるってことだ。あいつは今、呪文を唱えたから、させないように動けばいい!ここは相手のフィールドかもしれないが、俺たちが何もしなければ、ただ倒されるのを待つだけだ!」
「…それもそうね」「わ、わかっタ!」「う、ウチは動揺してないよ!」「お兄さんの言う通りだ」「そうだな…早く終わらせて酒を飲みに行こう」
俺の言葉で皆、一旦の落ち着きを取り戻して攻撃態勢に移る。
だが、その段階で既に奴の魔法は完成していた。
「*;;+**[メソペラジック・クボーゾア]……」
黒くおぞましい球体が放たれた。球体から手が無数に浮かんでは消え、こちらを掴もうとしてくるうえ、うめき声まで聞こえてくる。老人の姿で撃ってきたものとはもはや別物だろう。
「あれを防ぐのはまずい気がする。全員、回避!」
着弾付近が黒く染まり、爆発し、黒いシミから人の声のような絶叫が生まれる。魔法ひとつとって見ても生きているみたいだった。
(あれをヴァーミリオンに対抗させるわけにはいかない…。あまりにも不気味で不可解だ…)
「*;;+**!!」「*;;+**!!」
こちらの態勢が整うのを待つ前に、怒涛の攻撃が繰り出される。
俺は回避で精一杯だったが、仲間たちは隙を見ては反撃を繰り出す。
「…!これならっ…![天雷斬]!!」
おぞましい攻撃が続き、どうにかチャンスを拾ってカルミアが一撃加えた。当然ながら全力の[天雷斬]である。
天候が存在しない空間において、その力は弱まっているようだが、それでも彼女の全力を容易に止めることは難しい。ネヴァー・イーターの体が真っ二つにズレ落ちるが、時間が巻き戻ったかのように体の変化が元に戻っていた。
「っ…!」「カルミアさん!一旦距離をとって!」
ネヴァー・イーターはすぐさま触手で反撃を図るが、彼女は紙一重で避けていく。
「それなら!これでどウ!」
カルミアの回避を支援するため、サリーが全力の魔法で妨害する。膨大なる魔力が業火となり、肉塊を焼き尽くし、悪魔の体であろうと例外なく灰塵と化す。だが、灰になると同時に、そこから時間を戻すように元に戻ってしまった。
(こちらの攻撃自体は効いているが、何らかの魔法で元に戻しているのか…?)
「うっそ、反則だよ~そレ!」
ネヴァー・イーターは自らダメージを受けることがないと判断すると攻撃を止め、カルミアたちの攻撃を受け続ける態勢に入った。その無数の眼は、まるで絶望するのを待っているかのように見える。
「/**;+*……どうした…?それで終わりか…?待ってやろう。…全力で来るといい…」
「舐められたものだな」とアイリスが呟き、触手を切り裂く。一撃一発に魔力の蝶が周囲を舞い、ネヴァー・イーターの攻撃手段を奪おうとする。
(武装解除か…それなら!)
だが、こちらの希望空しく、彼女の剣を受けても触手はしばらくの硬直の後、何事もなかったかのように動き始めた。
(くそ…だめか!)
「[ヒドゥン・ブレード]!!」
ふんわり浮かんだ肉の塊に近接攻撃をあてること自体は難しくない。
フォノスの必殺の一撃を受けたネヴァー・イーターは一度溶けるように消えたが、瞬きの間で元に戻ってしまった。
まるでなかったことにされているみたいだ。
(ヒドゥンブレードさえ…ダメなのか…!)
全員の攻撃が通用せず、睨み合いが続く。ドライアドは気絶したままで、衰弱具合から戦力になりそうにない。
やがてネヴァー・イーターが声を発した。
「滅びの淵に立つ定命よ。全てを試し、全てを尽くし、絶望するがいい」
(だめだ…!あまりにも不可解な攻撃、不確定要素が多すぎる。俺の知識も全く役に立たないうえに未知の防衛で攻撃が効かない。……一体どうすれば)
そう思考した途端、悪魔に意識を刈り取られたように、俺の中に負の感情が渦巻く。思わず、膝をついてしまう。
(頭が…割れそうだ…!)
「これは…うぅ!」「サトル!」
一番近くにいたカルミアが俺の肩を支えてくれる。
意識がぼんやりして、思考がまとまらない。
額から大粒の汗が落ちる。仲間たちは俺に命を預けてくれている。
俺を信じて、次の指示を待ってくれている。
「/**;+*…だが…お前に打てる手はない……」
ネヴァー・イーターの声が頭に響く。
「うう……」
「/**;+*…見てみろ…現実を…今も貴様の仲間は、我が肉体を裂き、焼き尽くし、溶かし、至る方法で殺そうと試みるが、我を討伐に至らせることはできていない…これが、どういうことか、わかるか」
「う…くそ…頭から出ていけ…!」「サトル…!どうしたの…!サトル!」
(あぁ…その通りかもしれない…この悪魔が言う通りだ)
今まで戦ってきたどんな生命体も弱点が存在した。だが、こいつは存在自体が異質で、常識が通用しない。
「/**;+*…恐怖に屈せよ。定命が無限に叶う道理は無いと知れ」
「うぅ…俺は……間違えたのか…?」「…!サトル!」
そんな相手に取れる手なんてあるのだろうか。
「**;+*…攻撃の手を止め、絶望を捧げよ。崇拝し、こうべを垂れよ。さすれば仲間の命だけは、救ってやれるやも…しれぬ」
「仲間が……救われる…??」
「**;+*…そうだ…お前の愚かな選択が……すべて許される……なかったことに…なる」
「なかったことに……」
カルミアの揺さぶりが弱くなった気がした。俺の意識が深い海、深い闇に沈んでいくような。
「**;+*…どうした…?定命の者…その程度の絶望では、全く足りない」
こんな相手
もうどうしようもない。
手を出したこと自体が間違っていたのかもしれない。
俺の判断が間違っていた。それで仲間全員を危険に晒したんだ。このネヴァー・イーター様の言う通りだ。
判断を誤った俺が死ぬだけならまだ我慢できる。
だが仲間も巻き添えにするのはどうしても嫌だ。
手が震える
足が竦む
視界が霞む……
思い浮かぶことは何もない。
絶望……絶望 絶望……絶望
そんな考えが過ると同時
ふと、カルミアが俺の手を取った。そして、俺の頬を思い切り殴り飛ばす。
「…っ!」
「あなたは、リーダーでしょ!!」
意識が強制的に戻された気がした。
彼女の目は、真っ直ぐ俺を見つめている。
「サトル、私はあなたを信じる。そして、あなたの信じた道を信じる。それがどんな結果になっても。私はあなたの横にいる。そう何時も言っているわ。でもそれは、あなたの愚かな選択すべてを許容するって意味ではないのよ。……ねぇ、誰にでも過ちだって、階段を踏み外すことだってあるわ。でもそれは、目標に挑戦し続けている限り、避けられない失敗よ。あなたがそれを一番知っているはずでしょう!!」
「カルミアさん…」
今までにないほど、彼女の真剣な声が、脳を支配していた闇を払っていく。
「挑戦の中で失敗しない人間なんて存在しない。大切なことは、失敗に支配されることでもなければ、あきらめることでもない。犯した大きさなんて関係ない。希望を失わない、それがあなたの一番の強さで、私があなたに惹かれた一番の理由なの!…私は、命を落とすことなんていとわない。それは貴方が描いた理想を、一緒に作りたいって思ったからなのよ。絶望に屈して、あきらめて生きているだけなんて、嫌。それはただ死んでいないだけ!!だから立って…!サトル!」
(そうだ……俺は何を…なんて馬鹿なことを…考えていたんだ。仲間が頑張っている中…諦める理由ばかり探して…そして、聞こえのいい言葉ばかり選んで……目の前の絶望に屈していた)
いつの間にか、戦闘の音は止んでいた。俺の周りには、仲間が集まっていた。
(みんな……?)
サリーは空いている方の俺の手をとって、優しく笑ってみせる
「アタシ、サトルの笑顔が好キ。初めて出会ったときに、そう思っタ。だから、それからアタシもよく笑うようになっタ。サトルは楽しいことを作り続ける大切さを教えてくれタ。……へへ、アタシ、ばかだから、難しいことはよくわかんないケド、でも人助けをしたくてジロスキエントを飛び出して、サトルがアタシの夢を手伝ってくれたんだってことくらいは、わかっているつもリ。サトルがこれからもたくさんの人をアタシと同じように救ってくれることが、どれほど重要かってことくらい、そんなアタシでもわかル。サトルが皆の、まだ見ぬ未来の人たちへ希望を届ける手伝いができるなら、この命はここで使い果たしてもイイ。親父もきっとアタシを立派だったって言ってくれるかラ。アタシの命、アタシの運命、あなたに託ス」
「サリーさん…」
(彼女がここまで真剣に話してくれたことなんて、あっただろうか。今、本当に命を預けてくれている。俺はその強い意志を軽んじてはいけないんだ。それこそ、軽んじたら冒涜だ。俺は……)
イミスがこぶしを作って胸の前に持っていく。
「ウチが村で酒場の売り子やってるときから、サトルはずっとウチの光だった。きっとおばあちゃんも、スカーレットも、そう言ってくれる。ウチが立派なゴーレム使いになって、たくさんの人と出会って、かけがえのない時間をくれたのは、サトル、あなたが力を分け与えてくれたから。そうじゃなきゃ、今だってあのさびれた村で、ゴーレムもどきを作って、おばあちゃんが作り出した栄光にすがっていただろうね。でも、それじゃ何も変わらない。行動しなきゃ、変化は起きない。あなたはそう行動で示してみせた。だから私の自慢の人だって胸を張って言える。今だって目標の人だって言える、たとえ、そこの悪魔に世界全てが洗脳されても、ウチらだけは、あなたの傍で戦い続けられる。難しいこともみんなで分担して、助け合えば、絶対に乗り越えられる。それを教えてくれたのは、あなたよ、サトル。困ったときは、絶対に守ってあげる。だからこんなところで、あんな奴の魔法で、挫けないで」
「イミスさん…」
(彼女は俺の背中を見てくれている。そんな俺が、こんな調子じゃ、努力しようも……ない……か。ふふ、彼女らしい前向きな考えだ。だけど、そうだな。俺に足りていないのは……)
フォノスはちょっと照れくさそうに言った。
「お兄さんは僕にとって特別だ。お兄さんもそう思ってくれているから、戦いで傷つかないか、心配してくれているんだと思う。でも心配は無用だよ。兄と呼んだその時から、僕はそのために命をかけるって誓ったんだ。でも、あいつは必ず倒そうよ。帰って、孤児院のみんなに自慢するんだ。僕の兄は、大陸を統べる悪意を討伐したって。クリュだって待っているはずだ。僕たちの帰りを。僕たちの命はひとつだけど、僕たちが支える命はひとつじゃない。だから僕は、非情な選択だってできる。この力は、その決意なんだ。どうか、僕の決意を無駄にしないでほしい。悪意なんかに負けないでほしい。どんなどん底でも、チャンスはある。無一文だった僕に、お兄さんが教えてくれたことだ」
「フォノス…」
(彼が人生に絶望していたとき、俺は手を差し伸べることができただろうか。彼の痛みの一端を理解してあげられただろうか。答えは真の意味では否だろう。だが、それでも彼は付き従ってくれた。俺なんかを兄と呼んでくれた。お兄ちゃんが、下向いてちゃ、わけないか……)
アイリスは腕を組み、強い眼差しで見据える。
「お前は無名の時代から数々の困難に真向から立ち向かい、そして成し遂げてきた。自らを信じて前に進む強さを、私はお前から受け取ったんだ。こんなところでフヌけている暇があれば、やつの目玉ひとつくらい抉ってやれ。私の想い人は、気持ちで絶対に負けない男だ。お前に一番最初に死ぬほどの試練を課したのは他ならない私だが、お前はそれを乗り越え、チャンスを探り続け、這い上がった。どんなにかっこ悪くても、どんなに周囲からみじめに見えたとしても、それは努力を知らない悪魔から見た視点に過ぎない。お前は今も、この時でさえも、試練と努力によって乗り越えられる。私を探し出してくれたときから、もう腹は決まっている。お前に、この命を託す」
「アイリスさん…」
(彼女は俺なんかよりもずっと過酷な傭兵生活を続け、紅一点で成り上がってきた本物の強者だ。時には情を捨てるべき判断も必要だっただろう。そんな彼女からしてみれば、俺はさぞかしもどかしく映っただろう。だが、それでも信じて、ここまで歩んでくれた。この意味が分からないほど、俺は馬鹿なんかじゃないって思いたい)
・・・そうだ。
絶望している暇なんてない。まだ終わっていない。
俺には大切な仲間がいる。
一人なんかじゃない。挑戦は何度だってできる。
病院で天井を見つめるだけの、死にゆく人が何の因果かこの世界に降り立った。
最初は生き抜くだけで精一杯だったが、仲間と出会い、切磋琢磨できた。
だが、それは恩恵のおかげだと思っていた。ルールブックがあったから成り立った。ルールブックこそが俺が生き残れる…そして、成り上がれる唯一の方法だと思っていた。
天からの恵みと思える能力で、俺が人に与えられるのはこれだけだと思った。
故にそれは、人に才能を与え、育てる恩恵と思っていた。
だがやっと今分かった。それは違う。俺は与える存在なんて大それたものじゃなかった。実際には、仲間が与えてくれることばかりだった。
恩恵を与えても、付き従ってくれるかどうかは彼女たち次第だった。
俺が本当に恵まれていたのは恩恵を授かれたことではなく、この仲間たちに出会えたことだった。
カルミアはそばにいてくれると言ってくれた。サリーは楽しさをくれたって言ってくれた。イミスは何があっても守ってくれると。フォノスはちょっと変わってるけど、俺を兄と呼んでくれる。俺も弟だと心から思える。アイリスは俺という存在を想ってくれている。
本当に、本当に……本当に、本当に…もらってばかりだ。
だからこそ……
俺が得た、生涯で最もかけがえのない存在を、助けたい。今そう強く思える。
今、生死を分かつ分水嶺なのは分かっている。だからこそ
大切な仲間を失いたくはない。どんな手を使ってでも、この戦いで勝利し、ふざけた悪意の肉塊による不の連鎖を終わらせる。
俺だってみんな大好きだ
命を預けてくれているからこそ、みんなが大好きで大好きで仕方がないからこそ
(全員生還で、やり遂げる!!それが今一番、俺がやりたいことだ!!)
*悪意 を封殺しました*
無意識だった。
ルールブックを開き、アナウンスさんに向けて問う
「きっと、君はこの本を介してずっと見守ってくれていたんだね。答えてくれるかどうかは分からない。でもこれは俺の存在を左右する大切なことなんだ。だから、もし『君』がいるなら、答えてくれ。俺の声に、答えてくれるかい」
* … *
回答は沈黙であった。だからこそ、感情のこもった、明確な答えを感じとった。
「やっぱりね……君が、未知の攻撃を未然に防いでくれたときから…いや、もっと前からから、そうなんじゃないかって思っていた。ここからは、心で語り掛けるね」
俺は本に呟き、仲間が見守る中、目を閉じて集中する。
(どんな手を使ってもいい。ルールブック。もうわかっている。俺がここにいる意味も、君がここにいる理由も…俺がこの地に降り立ったのも……。俺は決心した。必ずあの悪意を断ち切る。だから、奴を打ち倒す力を分けてくれ。これを介して、見ているんだろう。お願いだよ。応えてくれ)
きっと数えきれないほどの『試行回数』をダイスの如く決め、見守ってくれていたんだろう。
暫くの沈黙の後……
「俺は、諦めないよ。君があきらめるまで。ルールブック。応えてくれ」
この願いを皮切りに、ルールブックは白い空間で異質に黄金に輝き、俺の声に応えた。きっと俺だけに聞こえる声だ。そして、俺に能力を与えた張本人でもあるだろう。
(応えた!!)
* この代償は 危険です*
(代償……?そんなもの、構わないよ。仲間全員を生還させ、あの悪意を断ち切るんだ。きっと君は、そのために俺を呼んでくれたんだろう。今まで、助けてくれていたんだろう)
* あなただけでも生きて再起を図るべきです *
(縦に首を振ると思っているのかい。そんな方法があっても御免だね)
* 神の力には神の力で対抗せねば勝ち目はありません。しかしながら、私の力を介入させるため、あなたの生命力を使用する必要があります。そのアーティファクトは、度重なる使用によって、すでに限界を迎えています *
(アイリスとのときと同じだろう。君が誰であろうと、関係ない。アーティファクトが使えないなら、俺の生命力でもなんでも使えばいい。俺の決意は変わらない)
* 比べ物にならないほどのもので、命の保証はできません *
(大丈夫、俺には仲間がいる。ここで潰えても、俺は絶対に後悔なんてしない。やるべきことをやって、本懐を遂げるだけだ!!お願いだ。最後のチャンスなんだ。力を…分けてくれ!)
* ……サトルの希望を承認 ……エンシェント・レイドモードを介入させます *
(……ありがとう。)
絶望に染まった白き空間が、希望で上書きするように 黄金に染まっていく