47話
「カルミアさん、サリーさん、準備は良いですか?」
町長のポケットマネーという粋な計らいで、結構良い値がしそうな宿にタダで泊まることができた俺たち。たっぷりと気合を充電した俺らは、変異種が出るという鉱脈入り口でダンジョンアタックの準備を整えていた。
「えぇ…必ず討伐してみせる」
「うん!アタシも精一杯お手伝いしちゃうヨ!」
カルミアは予備の剣を一本佩いて、サリーは町のモヒカンドワーフから買ったお土産品のミニチュア剣を身に着けている。二人共準備はバッチリ?のようだ。
鉱脈にダンジョンアタックをするという町のおふれは既に出回っていて、入り口は既に封鎖されている。その様子を見に来た町の人たちが集まっており、ちょっとしたお祭りのような人だかりが出来ていた。そこにサポート、補給組が加わる。今更だが、自分たちがこんなに大掛かりなクエストの中心となっていることへの自覚が湧いてきた。
今回は俺、カルミア、サリーが討伐部隊。ブルーノーパーティーは俺たちが取り漏らしたザコ狩りと帰路ルートの確保。地元のドワーフ自警団が俺たちが倒した魔物の素材回収を請け負う。
「町長、それでは行ってきます…」
「うむ…町の行方も、今回のアタック次第だ。絶対に成功させてくれ」
鉱脈は洞窟状になっており、それ自体がダンジョンのように入り組んだ作りになっている。
洞窟に入ってすぐにゴブリン共とエンカウントした。 …どうやら想定以上に魔物が入り込んでいる可能性も考えたほうが良さそうだ。
「お出ましだよ~!」
「あい分かった。お主たち、油断するなよ」
俺たちは温存するため、ブルーノーのパーティーがザコ狩りを務める。みんなをまとめるリーダーの目にはもう油断は無い。ブルーノーとキュルルが同時に飛び出し、ゴブリンの前衛を切り伏せる。後衛にも一人残していて、この間のような隙がない。特に苦戦することもなくゴブリンの部隊を沈めた。
「…どんなもんじゃい!」
「キュルル!」
ブルーノーは斧で盾を打ち鳴らし、キュルルは尻尾を地面に叩きつけてお決まりの勝どきをあげた。たった数日だが、見違えるようにパーティーとして成長したようだ。すぐにドワーフの自警団がゴブリンの死体と戦利品を運んでいく。
「俺たちも負けてられないね」
その後もブルーノーたちのおかげで余計な消耗をせず、順調に魔物を討伐していく。
「リック!スケルトンの射手がおるぞ!」
ブルーノーがジャイアントバットを斬り伏せ怒声を上げた次の瞬間、リックに向けてスケルトンの射手が弓矢を放つ。
「オデ、守る。そして、センチピードを相手する」
それをグレッグが腕に着けたシールドで弾く。このシールドはドワーフの町について新調したものだ。
「ブルーノーさん!あと数匹です…! 引き続きジャイアントバットの相手を頼みます!」
リックもこの町で新調したクロスボウを使って残りのジャイアントバットへ牽制
「キュルルル…!」
キュルルがスケルトンの射手の背後をとり、バックスタブで見事に魔石を砕いて仕留めてみせた。
バリエーション豊かな魔物を柔軟な対応で次々に屠って行くブルーノーたち。カルミアたちが出ればすぐに終わるが、温存しなければならないのがもどかしいな。何度も手伝うかと言うが、その度に仕事を取るなと笑われてしまう。
しかし、ここまで多種多様の魔物が洞窟に集結するものなのだろうか。変異種などの強力な魔物が出現すると、その魔物をリーダーとして建物や洞窟を占拠する話は知っているが、ここまで様々な種類の魔物が出てくると、違和感のようなものを感じる。
丁度、スケルトンの骨を撤去しているドワーフの自警団がいたので聞いてみる。地元の方なら何か知っているかもしれない。
「あの、鉱脈にスケルトンやセンチピードなどの魔物が出るのはよくあることなのでしょうか?」
「いんや~、スケルトンだけだったり、センチピードだけだったりはたま~にあるがねぇ。ここまで色々な種類が出るのは今までなかっただなぁ。出たとしても一匹や二匹程度だなぁ」
う~ん。竜魔吸石の鉱脈を守る青白いグランド・グリック。魔法も扱うという変異種だが、討伐対象兼、ボスはこいつで間違いないだろう。ただ、グリック自体は芋虫のような魔物なので、魔物の種類としてはアンデッドには属さない。スケルトンも通常の魔物もごっちゃになっているので違和感は拭えない。
「例の鉱脈までは、あとどれくらいで到着しますか?」
「いんや~、この調子だと明日には到着するでなぁ」
「そうですか…ありがとうございます」
ドワーフ自警団はせっせとスケルトンの骨を集める作業を再開する。
一回は野宿する必要があるが、食料も素材回収も連携して進めているのでその点の問題は無い。警戒が必要なのは夜の野営だ。グリック自体が身を隠すのが上手いらしく、岩棚に登ったり鍾乳石にワーム状の体を巻き付けて、ここぞというタイミングで上から落ちてきては獲物を捉える機会を伺う。洞窟の中の野営も油断ができないぞ。