完結編 36話
シャンブリング・マウンドの群れが一斉に動き出す。俺たちを包囲するように動きつつも、ドライアドは単身跳躍すると、俺へと狙いを定めた。
「みんな!多対一はまずい!惜しまずに爆弾を使っていこう!」
俺の合図を皮切りに、全員でサリー製の爆弾を蠢く魔物向けて投擲する。
その効果は凄まじく、まともに被弾したシャンブリング・マウンドはひどい腐臭と胞子をまき散らしながら溶解していく。一匹討伐するのに割と大変だったのがウソのようだ。
「キシャアアアア!!?」「キシィイイイイ!!」
あれほどの生命力をもったシャンブリング・マウンドが蔓をのたうち回しながら絶命していく。巨体故にそれだけでも周囲への被害は大きい。易々と大木を薙ぎ払いながら最後までこちらを倒そうと動いている。だが、それがかえって他の魔物の動きの邪魔になっていた。
(さっすがサリー製!ポーションを作らせたら右に出るものはいないな!)
「へへ~ン!すごいっしょ~アタシ♪」
戦闘中にも関わらず、リアルタイムでポーションを作り出し、どんどん敵に投擲しまくるサリーが頼もしく見えた。何度か狙いを外すが、フォノスが空中で器用にキャッチし、敵に投げなおすことで効率的な攻撃が出来ている。イミスはすべての爆弾を投擲すると、ヴァーミリオンを弓形態にして距離をとって攻撃を続けた。
「小癪な手を…!」
跳躍したドライアドが俺の頭上から剣を振り下ろすが、その刃はカルミアによって阻止された。彼女とドライアドの剣が交差すると、激しい火花が咲き、空が震える
「あなたの破滅願望も、あなたの刃も、サトルに届くことはない!」
「…!アーティファクトに匹敵する剣を容易く受け止めますか…やはり、ここで殺しておくべきですね!」
力を込め、鍔迫り合いから距離を取ったドライアドは手をかざす。すると宿り木の大樹から、人の腕ほどの胴回りがある無数の蔓が奇跡の実りへ伸びた。そのまま実を取ると、その実は剣と形を変えた。
「一振りの剣で、百の剣は荷が重いでしょう?」
ドライアドがかざした手を振り下ろすと、剣を持った無数の蔓が一斉に伸びる!
「私に任せろ!」
アイリスが剣を構え、莫大な魔力は、あまたの蝶となって彼女の周囲に漂った。
(アイリスの必殺、超範囲の武装解除だ!)
「そのつるぎ、酒の棚にでも飾ってやろう!……[ブレード・エクスヒビジョン]!」
無数の剣の波の中、最初に到達した切っ先のひとつを薙ぐと、蝶が武具の周囲を周り、敵対的なすべての武装が弾かれる。断続的に金属を弾いたような音が続き、瞬く間に丸腰の蔓が出来上がる。
「…っ!」
ドライアドが驚愕したのも無理もない。一度の一閃で無数の武器のすべてが弾かれた。それだけではなく、地に落ちた武器を蔓が拾おうとすると、魔力の蝶が舞い、伸びた蔓が腐敗していく。アイリスの武装解除は、同種の武器の使用を封印する効果があるためだ。
残った蔓はそのままこちらに攻撃を加えるよう試みる。鋭い蔓はそれだけでも脅威だ。地面を突き刺すように繰り出されていく連撃をカルミアはバック宙やコークスクリューのようなアクロバットで体を捻り、回避と同時に刀で一閃。全ての蔓を無傷で斬り飛ばす。
「それならば…!」
ドライアドは更に奇跡の実りを大量に使い、剣だけではなく、槍や弓など、様々な武器を作り出した。剣だけが実から変化した途端に腐敗した。彼女は何かを察したようにそれを一瞥すると、口の端をつりあげる。
「なるほど……同じ武器を封じる能力ですか。本当に厄介な……ですが、この通り。私は数多の武具を作り出すことができる…奇跡の実りは、奇跡を起こす。人の身で対抗などできるはずもありません……死になさい!」
槍や弓など、ある程度の距離をとって戦える武器を作りだし、槍は投擲、同時に矢を無数に射ることでアイリスの技を封殺するように攻撃を繰り出す。
「ウチらがいるってことを忘れないでよね![シンティクシィ・ディフェンシブフォームチェンジ]!!」
空中機動でシャンブリング・マウンドを各個撃破していたヴァーミリオンはイミスの元に降り立ち、人形態から大盾に切り替わる。
「ついに姉さまと同じ技を使う決心がついたのね」とヴァーミリオンが盾形態のまま言った。
イミスは頷き、迫る矢と槍の雨を力強く見据える。一撃一撃がアーティファクト級の攻撃だ。これを耐えるのはとても難しい選択に思える。
「……スカーレット。おばあちゃん。私、ここまで来たよ。どうか力を貸して…。守りたいって気持ちから逃げることは、したくない。だから、もう…迷わない。『あなた』と、『今まで努力を続けた私自身』をウチは信じるよ!!」
イミスは大盾にありったけの魔力を込め叫ぶ
「[オプショナル・ディフェンスフェーズ[希望のオーラ]!みんなを守って!」
青白いオーラが盾に注がれると、大盾が一帯を覆うほど広がり、俺たちが立っていた場所までを覆う。
やがて武器の雨と接触し、激しい爆発を巻き起こした。