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完結編 31話


 カルミアのトドメでピクリとも動かなくなったシャンブリング・マウンド。胞子を出す器官は体内にあったようで、活動を停止すると、それらも噴出しなくなるようだ。これを機に念入りに調査を進めるが、分かったのは胞子を出す仕組み程度で、魔物の死骸からは特にこれといって問題を解決に導けるようなものはなかった。


 「時間をかけででも、絶対にあの病の痕跡を見つけてやるぞ」


 自分に言い聞かせるように気合を入れ、魔物の特徴をルールブックに記していく。


 俺が調査を進める間、周囲を警戒してくれていたカルミアたち。三人はほぼ同時に、空中から魔力の淀みを感じ取って警笛を鳴らす。


 「サトル、何か来る!」


 カルミアの合図でイミスは俺を庇うように立ってくれた。俺が振り返った時点でフォノスは既に潜伏したのか、こちらから姿が見えない。


 禍々しい魔力の渦が空中に留まると、量子状だった魔力は一点にまとまっていき、ゆっくりと人の姿をとった何かに変化していく。


 「き、君は……!」


 思わず声に出さずにはいられない。その姿は、何度も夢の堺に表れては消えていった謎のドライアドそのものだったから。カルミアが武器の先端をドライアドへと向けた。


 だが、ドライアドは慌てる様子すら一切なく、丁重にお辞儀をしてみせる。


 「ごきげんよう、サトル様。そして、護衛の方たち……積る話がたくさんあるのです。どこから話していいのか分かりませんが、ひとまず、お仲間の方に武器を収めるように言って下さいませんか」


 俺は少しだけ時間をかけて考え、まだ相手が敵対行動をとっていないという理由で頷いた。


 「う~ん……カルミアさん、いいかい?」


 カルミアは珍しく首を縦に振らない。


 「この魔物は何度もサトルの寝室に姿を現した。目的は分からないけど、接触にそんな方法を取るのが気に入らないの。植物型の魔物が現れたあとにこれよ。今回の件に関わっていてもおかしくない。私は信用できない」


 「君の言い分は最もだよ。でも相手はまだ何もしていないし、対話を望んでいるんだ。一度話を聞いてみよう」


 「……ん」


 俺の問いかけで、納得はいっていないようだが渋々と、ゆっくり刀を下して納刀する。だが、いつでも刃を抜けるように手の位置は変わらず得物にある。カルミアはキっとドライアドを睨みつけたままだ。


 ドライアドもこれ以上、譲歩を望めないと分かると対話に移る。


 「……良いでしょう。お仲間の方からあまり歓迎されてはいないようですから、私が接触した目的からお伝えします。まず、単刀直入に申し上げますと、あなた方には、これ以上、この森の奥に立ち入ってほしくないと考えています」


 「…それは何故?」


 俺の問いかけに対して、用意していたような回答をすらすらと述べる。


 「この森は危険でいっぱいなんですよ。夜には恐ろしい魔物が徘徊しますし、毒を持った植物もたくさん生えています。悪いと思いながらも、先ほどの戦闘は木々を介して見ていました。気に入った相手が、傷ついてしまうのは、見ていられないというは、極々自然な考えだと思いませんか」


 (ドライアドに気に入られるようなことをは、覚えがないが……魔物の感性とは独特なものなのか。だが引くわけにもいかない。そもそも調査も途中なんだ)


 「ドライアドさん、お気遣い感謝するよ。でも、先ほどの戦闘を木々を介して見ていたのであれば、俺たちの戦闘能力が高いことはわかってもらえたはずだよ。用が済めばすぐ帰るから、調査を続行させてはもらえないかい?」


 「調査……とは、その魔物に由来するものですか?」


 ドライアドの悲しい感情のこもった視線が、シャンブリング・マウンドの死骸へ向けられた。そして、戦闘の影響でなぎ倒された木々に視線が移っていく。


 カルミアが横から「これは、ドライアドが差し向けたのではないの?」と言うが、ドライアドは否定した。


 「いいえ。その魔物は自らの意思で戦ったのでしょう。森には意思があり、また自衛のために魔物を生み出すことだってあります。一歩間違えれば、自然の怒りに触れ、生きては帰れなくなってしまうでしょう。私が全ての動植物を監視し、意図的に向かわせるのは困難ですよ」


 (魔物の動きは森の意思ねぇ……)


 「ドライアドさん、その魔物は君の言った通り敵意をもって俺たちに対峙した。だから倒す必要があったんだ。この魔物が出す胞子が実は問題になっていて。まさに今、俺たちの町で猛威を振るっているものと関連性が高いと判断したんだ。これを見過ごすわけにはいかないんだよ。どうか、わかってくれるかい?」


 「まさに、人間らしい本位的な考えです……あなたのことは気に入っています。どうか、そのような発言は控えてほしいのです。敵意を感じたら、逃げればよかったのではないですか。わかりますか?森は、私の家であり、そこに住まう魔物や草木に至るまで、すべては私の家族です。どのような理由があったとしても、傷つけられるのは悲しいものです。魔物だって、家に踏み入られれば良い気持ちにはならないでしょう。汲み取ってはいただけませんか?」


 (胞子への言及を避けたな……)


 「そうか。でも、蝕緑症の原因につながっている可能性がある以上は、放置できないよ。この地に住まう人の命に関わってくる問題だ」


 ドライアドが首を傾げる


 「蝕緑症……?」


 (あぁ…そっか。俺たちが勝手に名付けた病名だから知らないのは当然だった)


 俺はこの病気の特徴、そしてこれまでの経緯を伝える。そのうえで森へ調査に向かったことも踏まえて、なるべく刺激しないように伝えた。


 ドライアドは暫く沈黙を貫いていたが、やがて言葉を慎重に選び取るようにゆっくりと話した。


 「森に入ることは、許可できません」



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