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46話


「ブローンアンヴィルへようこそ、客人よ。そして、同胞からの呼びかけに応えてくれて感謝いたす」


俺たちは、竜魔吸石の採掘場に出た魔物の話をするために、町長のいる家にお邪魔している。ブルーノーが紹介してくれたおかげで、ギルドでの出来事とここに来た理由をスムーズに伝えることができた。そして、目の前にいるのが町の長である。


町長は他のドワーフと違って一回り体つきが大きく、体のアチコチに古傷がついている。闇の組織のボスと言われても疑わないほど顔つきが鋭く、オールバックと短く整えられたヒゲがその怖さを一層演出している。


「ギルドで、赤毛のドワーフから聞きました。その、犠牲も辞さない覚悟で魔物を制圧するおつもりだったと」


「うむ…」


町長は鋭い目つきで俺をじっくり見定めると、席を立ち上がって窓辺に立つ。


「君は、竜魔吸石の価値を知っているかね」


「い、いえ」


「うむ…竜魔吸石とは、端的に言えば魔力を帯びた鉱石だ。この鉱石を使った武器や防具は非情に優れた性能を発揮するのは既に知っているだろう。その価値は鉄鉱石なんぞ石ころ同然と言えるほどの物だ。この町は、昔から鉱石に恵まれてはいたが、良くも悪くも良質な鉄鉱石ばかりだった」


退屈だったのか、サリーが椅子から立ち上がって調度品を見物し始めた。どれも綺麗で見たことがない鉱石ばかり飾られている。何を思ったのか、飾られている鉱石の一つを手にとって魔法を唱え、黄色いアヒル型の魔物のオモチャに変えてしまった。 …おい~!サリー!何してんだ!!元に戻せ!


「鍛冶大会は、ドワーフである我らの町の価値を決める大切な行事だ。毎年、鉄鉱石で作った武具で出場しているが、結果は芳しくない。長い間、うちの町のライバルであるミスリルが採れる採掘町に煮え湯を飲まされ続けてきた。今回の大会はこの町で執り行う関係上、絶対に失敗できないし、このチャンスを逃すつもりもない。 …ある程度の犠牲は覚悟のうえだ」


「今年は諦めて、来年挑戦するのはどうでしょうか?人の命には代えられないはずです」


「時間が経過するほど、魔物が鉱脈を含めて鉱石をダメにする可能性が高い。上質な鉱石であれば諦めるが、この鉱石が生み出す莫大な価値は我ら戦士達の命を賭けるに値する。」


「…」


シビアな人だ。大を活かすために小を殺す覚悟で運営している。ドワーフが鉱石と共に生きるとは決して比喩なんかでは無いようだ。


「町長さんのお気持ちは、分かりました。私達もできるだけ被害が出ないように戦うつもりです」


町長は、出会ってから初めて顔を緩める。優しいお爺さんの顔になった。 そうだよな…見捨てるという選択が辛くない訳がない。胸を痛めながらも、こういった決断が出来る人だから、上に立っているのだろう。俺には到底真似出来ない。


「サトルと言ったか…すまぬがよろしく頼む。ドワーフの戦士共は皆強いが、本格的な戦いが出来るほどの練度は無い。どうか鉱脈に住まう魔物の討伐を重ねてお願いする」


町長は窓辺から振り返って深くお辞儀をすると、俺の目を見て大きく頷いた。握手を交わしたあと、今後の段取りと挨拶も程々に済ませて町長の家を後にする。


一通り町も見て回り、町長への挨拶も終わった頃には日が傾き始めていたので、一日泊まってからダンジョンアタックを開始する手筈になった。今は町長からオススメされた宿屋でチェックインを済ませつつ、入口前でブルーノーたちと今後について話をする。


「ブルーノーさん。ここまでの案内、ありがとうございました」


「…何、別に構わんよ。…それとな、サトル。ワシらのパーティーは今回の討伐任務は降りようと思っている」


「…何故ですか?」


「何、単純な話じゃよ。ゴブリン程度に遅れをとっているようでは、大型の魔物はまだ早いと、リーダーとして判断したまでじゃ」


「今回は不覚をとられたせいで、ブルーノーさんたちならそう簡単に遅れは取らないと思います」


「ふん…世辞はいらんよ。たとえ不覚を取られていたとしても、お主たちのように鍛えていれば、重症まではいかなかった。すぐに熱くなってしまって、また足引っ張るのはごめんじゃ」


「何でもチャレンジするブルーノーさんの熱血精神は、俺が見習うべき所ですよ」


「ガハハ!ああ言えばこう言う…ま、悪い気はしないのぅ。サトルよ…決して無理はするな」


「はい…」


「そうじゃ…勘違いが無いように言っておく。討伐からは外れるが、後方でお主たちのサポートは続けるつもりじゃ。ザコはワシたちに任せておけ」


「よろしくお願いします」


俺たちはそれぞれで握手を交わし、互いの健闘を祈る。この町まで案内してもらったブルーノーパーティーたちとは、ここで別行動になるが討伐メインの俺たちチームの後方で、ザコ狩りや物資運びを手伝ってくれることになった。これも討伐任務のサポートになるから、実績としては問題ないようだ。


今までブルーノーは、ガンガンいこうを地で行くスタイルだったから、こういった舵切りをすること自体、ブルーノーのパーティーメンバー達は驚いていたようだ。


「今回のクエストも…絶対に失敗できないな!全員で成功させるぞ……」


* * *


町長はサトルたちを見送った後、執務室の椅子に深く腰掛ける。


「ふぅ…死んだ同胞の為にも、絶対に形にせねばなるまい。ここで実力ある冒険者が来てくれたのは、まさに天の采配。勝手に動きおった奴には感謝しなくてはな…あとは人事を尽くして……む?」


ふと見た机の先には、サリーが変性魔法で遊んで変化させたままになった、鉱石で出来たアヒルのおもちゃが置かれていた。


「む…!貴重な鉱石が…!!」


急いで駆け寄って、アヒルの置物と化した鉱石を確かめる。ちなみに高額なミスリル鉱石である。


元は鉱石なので、木彫りの熊のように何の塗装もないシンプルなアヒル型魔物に仕上がっていた。水に浮かべることも出来ないし、何の役にも立たないオブジェである。しかし、ハンマーなどで叩いた形跡がなく、ツルリとした表面は見事で、目にこだわりがあったのだろうか、つぶらな瞳が輝いているように感じる。見れば見るほど精巧にできていることが分かり、味わい深いアヒルになっていた。


「…」


「かわいい…っは!」


町長は顔に似合わないセリフを呟いた自覚があったのか、キョロキョロと周りを見渡すが、当然誰も居ない。


町長は大切そうに持ったアヒルを、頑丈な鍵付きのキャビネットへしまった。


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