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完結編 21話


 俺の宣言を境に、色彩を奪い尽くしたかのように、全ては灰色に沈黙した。 そこに動きの気配はなく、まるで時間が凍結したかのような静寂が支配していた。


 (間違いない…例の、特別なクラスチェンジに起きる現象だ)


 痛みに耐えながらも、確かめるように、ルールブックのページをめくる。ページを一枚ずつ捲るたびに、運命の歯車が軋む音が聞こえる気がした。


 (見つけた…)


 そこには、存在しないはずの、アイリスのページが新たに加わっていた。


 ゆっくりと息を吐き出すと、張り詰めていた糸がほどけるように、緊張が解けていく。自分の生命力を使った危ない橋は、渡りきることができたようだ。


 (どうやら、命を使った賭けは、俺の勝ちってことでいいみたいだな)


 きっとダイスが転がされていたら、クリティカル判定だったに違いない。確かめる術などないのだが、俺の身体が丈夫な方向に強化され続けたことも功を奏したのだろうか。何かひとつ違えば死んでいたかもと考えると、運が良かったとしか。


 (彼女のクラスは……)


 アイリスのキャラクターシートは、ルールブックへと新たに綴られた。彼女のクラスを参照すると『ファイター』という名称が浮かび上がる。


 (ファイターか…やっぱり戦闘クラス持ちだったんだね)


 この世界では、全ての人が戦闘用のクラスを所持しているということはない。大抵はある一定の才覚と、たゆまぬ努力を以って覚醒するのだ。既にクラスを持っている彼女の戦闘能力は、言うまでもなく高く、完成されていると言ってもいい。


 だがそれは、一般的な範疇での尺度だ。如何に彼女が優れたクラス持ちであっても、このような数を前にした戦いでは不利と言わざるを得ない。


 アイリス自身の手で、状況を打破できる手を考える必要がある。


 灰色に染まった世界で、カルミアを一瞥する。彼女は両腕を組んで、行く末を見守っている姿で止まっている。刀を抜く素振りは一切ないことが分かる。


 どういう訳か『アイリス自身の戦い』においては、カルミアは手を出すつもりがないらしい。彼女が手を貸してくれれば、解決できたかもしれないし、命令すれば従ってくれたかもしれないが……


 当人のアイリスすらも手出し無用と釘をさした。だが、相手から破った誓いに、少しばかり手助けしたって罰は当たらないはず。俺は、彼女自身が状況を打開する機会を与えているだけなのだ。


 今更怒られそうな気配を感じ取ったが、後の祭り。クラスチェンジができるってことは、彼女と俺の気持ちは同じ方向を向いているはずだから。


 「さて、クラスはどうあるべきか…?」


 (ファイター……一般的な前衛職で、特にこれといった尖った特徴がない代わり、自力が最も高いクラスだ。彼女が領主になる前の傭兵生活を考えると、当然のことかもしれないが…)


 自力が高いということは、弱点がない良さを持つが、不利的な状況を覆すために切れる札が少ない。その部分をマルチクラスで補ってあげれば、アイリスはきっと、更なる高みへと駆け上がっていくはずだ。


 「アイリスさんが可能なクラスを示してくれ」


 *かしこまりました*


 脳内へ言葉が反響する


 ・グラディエーター

 ・スレイヤー

 ・インクィジター

 ・センティネル

 ・テンプル ナイト

 ・パラディン

 ・ハンター

 ・ブローラー

 ・タイラント………


 数多のリストと可能性が凡そ、前衛クラスの傾向を示していた。彼女は近接戦闘において天賦の才があると見える。


 俺がクラスチェンジを実行した場合、どれも大きな補正がかかるため、結果的にはファイターより強力な戦闘能力向上が見込めるのだが……


 「うーん…」


 ふと彼女に目をやると


 彼女はボロボロになった剣を最後まで離さずに握っていることが分かる。自分と自分の道を貫き通すように。


 傷だらけの剣は、そのまま彼女の生き様を映し出しているかのようだった。相手の武器を奪えば多少は簡単だっただろう。だが彼女はただ真っすぐに正々堂々と、己が武器で対峙し戦うことを示し続けた。自分はカベルネとは同じ土俵に立ってやらないと。それが彼女のアイデンティティであり、誇りとも思える。軽々しく別の道を示すことは……


 「……」


 思考の海に沈んでいく。時間は止まったままだが、こうしていても埒が明かないだろう。


 「彼女を、ファイターのまま強くしてあげたい。他に道はないだろうか」


 *アイリスの適正を照合…*


 *彼女の適正の高さであれば、サブクラスを付与することでファイターの潜在能力を引き上げることが可能です*


 「サブクラス?」


 *サブクラスは、本クラスに付随するクラス特化強化に該当します*


 「サブクラスを付与してあげれば、彼女が、ファイターのまま強くなれるってことでいいのかな」


 *……*


 沈黙は肯定のサイン。としていいのかはわからないが、それは自分次第だと言うことだろう。


 (サブクラス付与……従来のクラスに別の特徴を加える仕組みのことだ。今までは、特別なクラスチェンジはマルチクラス化して、弱点を補い、統合し、オリジナルクラスへと派生、強化していた。今回の方法では、ファイターに付随する能力をつけてあげることで、結果的にはファイターというクラス形式や特徴は継承したまま、クラスチェンジに匹敵する能力向上が見込めるってことだな)


 「よし、やってやろう。ファイターのサブクラスリストを出してくれ」


 *適正のあるサブクラスを照合…*


 ・ソードロード… こちらは剣術と攻撃力に特化した能力とスキルセットです

 ・ガードロイヤル… こちらは盾と防御に特化したスキルや技能が獲得できます

 ・スペルサヴェージ… こちらは魔法剣を主に扱うスキルセットです

 ・ウォースピリット… 闘気から精霊を具現化し、多対一で戦うスキルセットです


 どれもファイターとして戦う上で、プラスアルファの能力を付与するものだ。


 「魅力的な選択肢が多すぎて迷う……」


 ガードロイヤルは、選択肢としてやや消極的だがファイターとしてのポテンシャルに加え、より長時間の戦闘を可能にするだろう。スペルサヴェージは、魔法に適正がない彼女の弱点を補えるかもしれない。カルミアのメイガスに近い戦い方になるだろうが、魔法そのものに対する適正は低いはずだ。ウォースピリットは、戦略的に見れば一番の正解に思える。自分も戦いながら、精霊とも連携する。それは基本的な戦術として正しい。多対一という状況有利は、格上相手や不利を『最小限のリスクと労力』で覆すうえでは絶対に必須なのだ。…だが彼女の思想や美学には反しているとも思える。


 (俺の考えはまとまった)


 最適解は多対一ができるウォースピリット、安全策はガードロイヤル。スペルサヴェージは適正からみて分が悪いギャンブルだ。


 彼女らしさを考えれば、ソードロードがピッタリだ。彼女が最後まで握りしめていたのは、盾ではなく、ボロボロの剣だったから。


 「アイリスのファイターに、サブクラスのソードロードを追加する!」


 *アイリスのクラスチェンジを実行…リソースはサトルの生命力を使用……成功*


 *クラスチェンジの恩恵として、全ての能力が向上し閾値の限界を突破。サトルの能力により更に限界を突破。リソースの使用により更に限界を突破*


 *体力の回復とスキルを継承*


 *アイリスが スキル『ブレード・エクスヒビジョン』を獲得*


 *クラスチェンジを完了させます*


 「いくぞ……」


 ありったけの願いを込めて、アイリスへ希望をぶつける


 「さぁ、君の可能性を魅せてくれ!!」


 閃光が走った瞬間、灰の世界は脆いガラス細工のように砕け散り、光と色彩が解き放たれる様は、まるで新たな道の幕開けを祝う紙吹雪のようだ。


 静寂の淵に沈んでいた世界は、不条理と共に覆されて、再び鼓動を始めたのだ。




****

TIPS

****

名前:アイリス

クラス:ファイター(ソードロード)

レベル:4→8

ヒットポイント:50→170

筋力:14→22

敏捷力:16→26

耐久力:17→20

知力:12

判断力:15

魅力:15


スキル:ブレード・エクスヒビジョン

説明:もしアイリスを標的とする対象が攻撃を試みて、アイリスにダメージを与えることができなかった場合、強制的に武装解除される。また、同様に敵対している相手も距離に関係なく、その戦闘中、相手は同類の武器を使用することができない。まさに舞台は一瞬にして武装の展示会となる。


獲得技能→戦闘特化のため無し


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