45話
「お主ら、ついたぞ。ドワーフの採掘町、ブローンアンヴィルへようこそってな」
ブローンアンヴィルへ向けて旅立った俺たちは、ついに町まで到着した。道中思わぬアクシデントもあったが、サリーの迅速な対応によって、パーティーメンバーは無傷の状態で到着することができたのだ。
町の外観を見る限り、シールドウェストと違って、城門も無ければ大きな商店街等も存在しない。あくまで採掘を行うために発展したような場所と、まさに聞いた通りの町だ。しかし、殺風景という訳でもなく小さいながらも活気のある出店、生き生きとしたドワーフたちを見ていると俺まで元気を貰える気がする。
何よりも印象的なのが、各所に配置された鍛冶場だろう。剣に防具、生活用品などの様々な道具をサンプル品として通路側に設置しており、俺たち同様に旅をする者や冒険者相手に売り出しているのがわかる。これがこの町の主な収入源になるのだ。
「竜魔吸石が発掘されたという採掘現場は町の外れにある。その前に、お主らを町の長まで案内するからついて来なさい」
ブルーノーを先頭に町の中を歩いていく。あぁ、時間があれば隅々まで見たいところだが、やはり仕事が先だろうか?お土産品でも先に買っておきたい気分だ。
町の長がある家は中心街を抜けた先で、小さい商店街を抜ける必要がある。今は商店街を歩いている最中であるが、ドワーフたちの売り込みが激しい。やっぱり冒険者は金持ってるイメージなんだろうか。キョロキョロしながら歩いていると、一人のドワーフが手を掴んで売り込んできた。
「へいへい、そこのにーちゃん。その身なりからして冒険者だろう?ウチで作ったドワ印の剣買わないか~い?」
モヒカンでバッチリキメたドワーフだ。かなり気合が入ってるな!ガッチリ掴んだ俺の手を離す気がないようで、グイグイと店まで連れて行かれる。抵抗しても良かったのだが、面白そうなのでそのままついていく。
「ほ~ら、ここがウチの店さ!ここら一帯で一番質の良い剣だぜ?見ていきな~?」
出店に陳列されている武器は、たしかにシールドウェストの一般的な武具店よりは質が良い。
「確かに、質が良いですね…。髪型に気合が入っているだけあります」
モヒカンドワーフが目をキラリと光らせて両腕を組む。
「お客さん、分かるかい…?」
「えぇ…」
しかし、シールドウェストのドワーフがやってた鍛冶屋ほど高品質ではない。どの武具も一級品の素材を使っているのが分かるが、装飾が過多だったり掴みづらいゴツゴツした武器だったりと、あまり使用する人のことは意識した作りになっていない気がする。あくまでデザイン性重視という訳だな。ただ、それを言ったら面倒くさそうなので言わない。絶対に言わないぞ!
「これとか、デザインが気合入りまくってますよね」
剣にドクロマークがついた柄が特徴的だ。柄から伸びてるのはドラゴンだろうか?剣の真ん中には内容が読めない文字が刻まれている。転生前、修学旅行の時に買ったキーホルダーのデザインによく似ている。
「お土産品かよ」
とうとうツッコミが口に出てしまった。
「あぁ、そうだ!そして武器としても使える! いやぁ~このオレサマの目に狂いは無かった。お客さん何か買わないかい?」
店の人には本来の意味が伝わらなかったがそれで良い。他の武具も、デザインが面白くて店の中を見て回っていると、カルミアとサリーたちが俺を探しにやってきた。
「あ!カルミアちゃん、サトルがいたヨ~!」
「…もう、勝手にどこかに行かないで頂戴…っん?」
カルミアはそのまま店の中に入って、武具を吟味する。やはり剣士の性なのか、武器屋に来ると急に商品を手にとっては振ってみたり、剣の具合を確かめたりして唸り始めた。カルミアは人一倍武具にこだわりを持っているだろうから、余計なことを言わないか心配だ。
「ふん、ねーちゃんもウチの武具が気に入ったかい?にーちゃんの仲間なら安くしておくぜ~?」
カルミアは口をヘの字に曲げて、武具を置いて一言
「くだらん」
言ったー!!いらんこと言ったー!!俺が必死に我慢して店主の機嫌を取っていたのにも関わらず、一言でバッサリ切り捨てたー!そこの切れ味は磨かないで欲しかったー! あまりのバッサリとした切り捨てっぷりに、店主は得意になって整えていたモヒカンを撫でる手が止まる。
「い、いま何と…言ったんだい~?」
「くだらない…武器が可哀想。そのデザインには何のタクティカルアドバンテージもない」
カルミアが更にオーバーキルを決め込む。打ち込まれる毒舌に店主はひっくり返ってしまった。
「カルミアちゃんがこんなに感情的になるのも珍しいネ!」
サリーは、いつもの調子でニコニコ顔。ドラゴンが巻き付いた剣のミニチュアを何本か買おうとしている。君は買うんだね…
「き、き、君たち~…オレサマの武器を馬鹿にした恨みぃ~!忘れないからなぁ~!後悔するなよぉ~!?」
「これくださイ!」
「あ…はい、銀貨三枚になります。……毎度あり!」
モヒカンドワーフはどうにか立ち直り、サリーがお買い求めの土産品の会計をした。そこはキチンとやるんだな…。なんともチャッカリした奴である。