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完結編 8話


 国の名前と国旗が決まり、最低限の体裁は整った。あとは広く布告を行うことくらいで、早急に終わらせておくべきこともなくなった。現状は町ひとつの、まだまだ名ばかりの小さな国だが、現領土から西の未開拓方面に少しずつ範囲を広げ、支持者もたくさん集めたいところ。


 ひとまず、国として一番最初に行うプロジェクトを決める。と言っても大掛かりなものは想定していない。記念に何かを作りたい程度だ。


 「さて、エスペランサ・ヴォルタール王権帝国としての最初のプロジェクトだが…ここはドーツクさんの案を取り入れて、ここソード・ノヴァエラの町にモニュメントかシンボル…とにかく、国の立ち上げを記念する何かを作りたい。これを決めたら、今日の会議はひとまず解散ってことで」


 イミスが鼻の下を人差し指で擦り「ウチの出番ってわけね」っと手を腰に当てた。俺は頷いて同意を示し、彼女に軽く感謝の意を伝えて続ける。


 「何を作るかは皆で決めたい。さっきは俺が先行して決めちゃったから、できるだけ皆の案を採用できるようにしたいから、真剣に考えてみてほしい。イメージとしては、記念碑に近いけど、ある程度実用的であれば望ましいかな。皆の拠り所になれれば嬉しい」


 まずはカルミアが挙手し、皆の注目を集めると「…訓練場や馬車の待合いスペースがほしい」と言った。


 「記念碑か何かを設置して、周囲は自由に使える広場のようなイメージかな」


 「…そう、今のこの町は機能的だけど、広くて自由に使えるスペースが外しかない。冒険者ばかりだからそこまで大きな問題はないけど、待ち合わせや馬車の停留も外になりがちだから不便」


 (うんうん……かなり実用的な話だ。記念碑のイメージというよりは周囲の条件だが、とても良い案に思える)


 「とてもいいね。他にはある?」


 サリーがすかさず挙手し、俺の合図も待たずに「ハイハイ!アタシ、みんなの目を楽しませるオブジェを置きたイ!」と言った。


 「オブジェ?」


 「そウ、こんな感じノ!」


 サリーは指先に魔力を集めると、小さな球体をいくつも作り出してゆっくり回転させる。


 「これは?」「特に意味はないけド、キレイでしョ♪」


 「…ふむ」


 サリーの指先からいくつもの玉が浮かび、互いにぶつからないように規則性のある回転をしている。寝室なんかに置いてたらボーっと見てていられそうな不思議さがあった。


 (オブジェ自体に意味があるわけじゃないけど、サリーの言葉「みんなを楽しませる」ってのも立派な目的だ)


 「今サリーさんが作ってくれたような高度に魔力を維持させるものは難しいかもしれないけど、オブジェ自体に変化があれば、確かに面白いね」


 「でしょでしョ!サトルはわかっているネ!」


 次はイミスの案だ。


 「ウチは、シールド・ウェストにあった『時間を知らせる鐘』が欲しいな。建国日を掘ったプレートを大きな柱に埋め込めば、記念碑にもなるからね。できればゴーレムのロジックを加えたいけど、何百年か形を保って使えるものにしたいなら、メインは長期的にメンテナンス不要な仕組みがいいかな」


 実用可能な案はこれくらいで出そろった。あとはみんなの要望をまとめて、何を配置するかだ。


 「う~ん、やっぱり優先度としては実際に制作の主導を握るイミスの意見だけど、時間を知らせるだけだと、シールド・ウェストと代り映えしないものになるんだよなぁ」


 (記念碑だし、そんなものでいいのかもしれないが…サリーやカルミアの意見も取り入れたい。だが全てごちゃまぜにすれば、目まぐるしく動き回り時間を知らせる戦闘訓練が可能な鐘っていう悍ましいものになってしまう。実際それってどうなんだ?鐘に手足を生やせばいいのか…?)


 「う~む……」


 記念碑とは言い難い創造物を空想していると、オーパスが救いの一手を出してくれた


 「サトルの兄貴、それなら日時計はどうです?姉御らの要望通り、日時計であれば、まぁ…素材と魔力の量次第ですが、数百年と耐える設計はできるはずでさぁ。日時計の周囲を広場にして、馬車なんかが停留できれば、時間と移動を兼ねる場を記念碑という形で作り出せると思ってんだが……ってなぁ…」


 (なにそれ、めちゃくちゃいい案じゃん。日時計は陽光が正しく入るように、ある程度のスペースが必要になる。広場という空間を無駄にしない発想。さすが我らのギルマスだ!)


 「それいいね!日時計か…カルミアさんと、イミスさんの案を折衷できるし、素晴らしい考えだと思う。これにサリーさんの『目で楽しませる』というテーマ…を追加できれば完璧なんだけど……」


 また皆で唸り始める。


 暫くして、ドーツクが「サトルさん、ちょっといいですか?」と言いい、テーブルに小さな魔石をたくさん並べ始めた。


 「ドーツクさん、この小さな魔石たちは?」


 「……えぇ、この話で思い出したのですが、私の故郷では、時間を計る方法のひとつとして、小さく割った魔石を古いものから順番に円状に12個並べて、魔石の光度の強弱である程度の時間を示していたんです。ふふん……小さいころは、夜、円を描いて発光する魔石が美しく思えたものです。こういった仕組みを取り入れることはできないかと思いまして…」


 「なるほど…」


 魔石は魔物から得られる純粋なエネルギーの結晶で、それ自体に発光作用がある。ドーツクの提案は、この性質を利用した方法だろう。古い魔石をいくつか用意し、これを割って、古い順番から並べることで、ある程度の時間を計れるというものだ。だが、日時計より正確性に欠けるし、発光はエネルギーが枯渇するか経年劣化で薄れるため、メンテナンスフリーとは言い難いのが難点だが。


 (それにしてもキレイだな…)


 テーブルに配置された魔石は、サリーが見せてくれた不思議な球体ほどではないものの、十分に目を引くことができそうだ。


 魔石を均等に並べて人の目を引く方法は、ソード・ノヴァエラにおいてカジノでも使われている技術だ。流用できれば、日時計の周囲に配置して『目を楽しませる』目的を果たすことはできそうだ。


 ちょっとしたギミックがあれば、十分に使えるだろう


 「うん……ドーツクさんが見せてくれた方法で、案が浮かんだよ」


 「…お役に立てて何よりです。どういった案です?」


 「作るのは大規模な馬車の管理にも耐える広場兼、中央に巨大な日時計を配置する方向で良いと思う。皆の益になるし、ここに居るメンバーの案を汲み取ったものだからね。加えて、日時計のオブジェの足元に円状の枠を作って、そこへ12個、魔石で作られたクレートを均等に配置していくんだ。魔石には一部ゴーレムのギミックを使い、影が差したら『淡く』発光するようにする。円が全て影に覆われたとき…つまり夜だね。夜になったときに12個の魔石が『強く』発光するギミックを入れてみるのはどうだろう?夜にだけ必要な光を供給しつつ、目でも楽しめる。ね、サリーさん」


 サリーは、ここまで意見を受けれてもらえるとは思っていなかったようで、笑顔半分、ビックリ半分な様子で「サトル大好き!」と言って抱きついてきた。


 カルミアが「ちょっと…離れて」と言ってサリーの足を引っ張るが、俺も一緒に引っ張られてもみくちゃになった。


 ちょっと真面目なムードだったが、いつも通りな雰囲気で会議を終えたのであった。




 



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