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44話


 早朝。水辺の近くで野営したためか、朝の静けさと澄み切った空気も相まって周りの気温が低く感じる。水場まで行って顔を洗う。顔には自分の眠そうな表情が映っていた。


そうか、そう言えば俺…こんな顔だったな。転生した俺は、正体も分からないこの男の体になっていたんだ。この男がどんな人だったのか、どんな気持ちで蛮族王討伐のため、領主の邸宅にいたのかは知らない。むしろ、出生に係わる情報が全く無いこの男は存在していたのかすら怪しい。謎だらけであるが、俺は今、ここにいることだけは確かだ。もう少し才能溢れるイケメンだったら何も文句は無かったのだが。身長は高めで筋肉質なのに、転生前の顔に近いのがやたらと腹立つ。顔も変えろ


顔を洗い終わり、聞いたことがない鳥の囀りを楽しんでいると、急に飛んでいってしまった。少しして、剣を振るような音が聞こえてくる。もしかしたら、近くでカルミアが稽古しているのかもしれない。


水辺から少し歩いて音を頼りに向かうと、開けた場所に出た。そこでは防具を付けずに身軽になって稽古をしているカルミアがいた。邪魔したら悪いので、終わるまで見学させてもらうことにする。


カルミアは俺がいることに気がついているのだろうが、集中を切らすことなく剣を振り続ける。レベルが4になった彼女が操る剣は、殆ど太刀筋が見えず、剣から発生しているとは思えないほどの風切り音が聞こえる。4でこれは化け物かな?どうみてもレベル20はある


TRPGではレベルは20が最大と言われているが、このスターフィールドによく似た世界のレベル上限は一体どれほどなのだろうか。存在しないはずのクラスによって超人的な力を身に着けた彼女は、レベル相応の強さを逸脱しているだろう。レベルの上限もこの限りではないだろうが、これからどれほど強くなるのか、怖さ半分楽しみ半分といったところだ。


「…サトル、おはよう」


爽やかな汗で、桃色の髪が朝日に反射して輝いて見える。目はキリっとしているのに優しい顔をするのだからそのギャップからくる破壊力は凄まじい。


「お、おはよう…朝から偉いね」


「うん、もっと強くならなきゃと思って」


うん。これ以上必要ないと思うけど!でも、それを言ったら小突かれそうだからやめておこう。カルミアの小突きは俺にとって致命傷となりうるのだ。


「強くなることにこだわりを持っているよね?何故なの?」


「私は…サトルには少し話をしたと思うけど、一族から見放されたような存在だったから。【メイガス】にもなれず、力も足りず、戦士としてのフィジカルすら足りなかった。追い出されるのも、仕方がない。すごく悔しかった…見返したいと思っていた。少し前まではね」


「今のカルミアなら、十分に一族でも頂点を張り合えると思うよ」


「そう…でも、もう良いの。今はもっと重要なことがある」


見学するために座っていた切り株の横に、カルミアが優しく座る。あぁ…どうして美女という生き物は近くにいるだけで良い香りが漂うのだろうか。世界七不思議の一つに数えても良い議題だ。


特に何かをするわけではないし、二人共黙って朝の静けさを楽しむだけだ。それでもこの時間は幸せな気持ちにさせてくれる。


「ところで、カルミアのいた一族って、この近くに集落があるんだよね?」


ブルーノーによると、ドワーフの採掘町、ブローンアンヴィルの近くには武力を重んじる集落が幾つもあるらしい。これは採掘町で採れる鉱石から加工した武器が、優秀であることに関係するらしい。カルミアがいた一族もそのひとつだという。


「…そうよ。【メイガス】を至上主義とする一族で、皆魔力量が膨大にあるの。このクラスでも流派が幾つかあって、使う武器と流派によって覚えられるスキルは変わってくるの。その中でも私たちの流派は攻撃に特化していて、片刃剣を使いこなし、防御より攻撃と回避に重点を置く流派なの。魔法剣のスキルは殆どが回避と攻撃に関係するものを覚えるわ。」


「今のカルミアの戦闘スタイルは、そこから派生させたものだから、いうなればカルミア流というやつかな?」


「ふふっ…そうかもね。サトルは、私の夢だったクラス自体を昇華させてくれた。だから、今の私は最早【メイガス】ではないわ。サトルが与えてくれた、唯一無二になれたの。何となくわかるの…今の私に何が出来るか」


カルミアは、俺と話をして居ても立っても居られなくなったのか、切り株から立ち上がり、少し離れて剣の稽古を再開する。彼女にとって、強くなれることは特別なことなのだろう。ずっと、能力が至らない部分について悩んでいたのかもしれない。


俺がどんなクラスを与えたとしても、そこから努力を続けたのは彼女だし、今振っている剣の流派は彼女自身が積み上げたもので間違いはない。カルミア自身に強くなれる素養があったのだ。俺はそれを手助けしたにすぎない。と、思う。一人頑張る彼女の姿はとても魅力的に見えた。

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