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完結編 7話


 「ふふん……国旗のデザインですが、サトルさんが描くイメージはどういったものなのですか?私としては、オウルベアをあしらったデザインだと嬉しいのですが」


 ドーツクが紙とペンを取り出して、にこやかに答えるがイミスがすかさず「いや、それアンタの願望でしょうが…」とツッコミを入れていた。


 「オウルベアのデザインを入れるつもりはなかったけど…そうだなぁ」


 顎をさすりながら思案を巡らせる。


 ソード・ノヴァエラから始まる建国、首都から遠いのもあるが、皆の努力あって既に多種多様な種族が共存し生活する基盤が整ってきている。俺が入れたいイメージは「公正」ひとつだけだ。ひとつのキャンバスにあまりにもたくさんの意味合いを込めると、作った人以外には、聞くか調べるかしない限りは真意が汲み取りづらいものとなってしまう。であれば「一番」重要にしている部分をフォーカスしておきたい。


 「そうなると……やっぱり、天秤……かな」


 「天秤、ですか?」


 天秤という道具は、物質の重量差を調べるためのものだ。前の世界でも、こちらの世界でもよく使用されている。この世界でも商売で使用する用途が主であり、金の重さを計測したり、偽物かどうかを判断するときにも使用されている。偏りがない判断を抽象的に表すならこれが分かりやすいだろう。


 だがドーツクから見れば天秤から得られるイメージは違っていたようだ。


 「サトルさんは、商売を重んじる国としたいのですね!ふふん…」


 「いや、公正を重んじる文化を作りたいと思っている……けど、伝わらないか……」


 「なんですと!?これは失敬……いやはや、天秤と言えば商売道具なものですから」


 申し訳なさそうに頭を下げるドーツク


 (身近に使っているものから連想するのは当然だよな…ふむ、もう一工夫必要か)


 「それじゃあ、もう少し要素を入れようかな。二つの円が交わるようなパターンをバックグラウンドに、背景は平和と誠実、そして清廉をイメージした青。天秤を置くとか」


 だがイミスが「青はミラージュ武具店が喜びそうな配色ね」と言って、俺の頭を抱えさせた。


 うちの経済を支える1柱である3つの武具店はそれぞれに企業のイメージカラーのようなものを持っており、各ブランドで作られた武具にも、嫌に目立たない程度のアクセントにイメージカラーとマークがそれぞれついている。ラグナ重工は赤、ミラージュは青、オーメルテクノロジーは黄色。これに配慮しだすとゴテゴテしい色となってしまう。


 (あぁ、結局こうして当初のイメージからは程遠い形になっていくのだろうか…)


 サリーが期待の眼差しで「ゴブリンの顔を国旗に入れてほしイ」とお願いしていたが聞かなかったことにした。外交で真っ先に信頼を失う気がしたからな。これに便乗してフォノスが「ならば、やはりお兄さんの顔であるべき」という主張に流れてしばらく二人で不毛な言い争いをしていた。当然無視である。


 「良かったらみんなも一緒に考えてくれ」


 そう言うと、それぞれが自分なりの最良なイメージを提案するため、白紙に描き始めた。


 リンドウは格好いい龍のマークを描いていた。「お、龍か。定番だけど格好いいじゃん」と感想を呟こうとしたが、やめた。何故なら細長い龍が俺によく似た人物の顔に巻き付いているからだ。


 「リンドウさん、それは?」


 「はい!サトル様の顔に巻き付く龍です!我ら竜人が称える要素が国旗に相応しいと言えるでしょう!」


 (なんでだよ!?龍だけにしておけよ!どうして俺の顔に巻き付いた!?せっかく格好いい龍が台無しだよ!俺の要素が余計だよ!)


 と、一生懸命に描いている少女に言えようか。言えまい。


 「そ、そうなんだ……」


 (というか、お前たちは何故に人の顔を国旗に入れたがるんだ。絶対に格好悪いだろう!独裁政権っぽくて嫌すぎるよ!俺の顔から一旦離れてほしいなぁ……!)


 という心の愚痴を締め出し、皆のデザインを拝見。


 カルミアは黙々と剣のイメージを描いている。二つの剣が交差している様子から、武を重んじる彼女の価値観が伝わってくる。これもひとつの答えだが…


 イミスがヴァーミリオンと一緒に描いた象徴は歯車。ドワーフたちと一からソード・ノヴァエラの基盤を作り上げた彼女たちにとって、技術は生活を支える基盤であり、価値である。これも彼女らしい考えだ。


 オーパスが描いた絵は男同士が白い歯を見せて握手を交わしている。背景は夕焼け、男は暑苦しく互いの何かを称えるように良い笑顔だ。ムキムキしていてムダに汗まで再現されている。この絵を一言で表すなら「男の友情」だろうか。いまいちよく分からないシチュエーションであり、よく分からない方向にクオリティが高いし絵が上手だった。


 (国旗というか…ただの絵だろう……)


 サリーは緑色の生き物を必死に描いていたが、もう何なのか分かったので見に行かなかった。


 「う、うん。皆のイメージは伝わったかな。……まぁ、その、なんだ。……今回は俺のイメージを優先させてもらおうと思う。俺のイメージはやっぱり天秤だな。公正のイメージが伝わりやすい。若干商業都市なイメージっぽくなってしまうけど、誰にでもチャンスがあるって商売のイメージと近いし」


 基本的なイメージが固まったら、あとはひたすら候補を描き上げるだけだ。


 オーパスが実は絵が上手いという特技を披露してくれたので、専門職のドワーフに依頼する前にいくつかの候補を作ってもらった。


 最終的には俺が最初に掲げた、青の背景、二つの円が交差しているパターンに、天秤のレイヤーが一番前にくるようなイメージ画が出来上がった。


 ちなみに円を入れたのは、円の特性が「平等」であるからだ。円は始まりも終わりもなく、すべての点が中心から等しく離れていることを示している。二つの円が交わっているのは俺が想う二つの国が手を取り合ってくれるよう願った、未来への希望なのだ。


 皆と推考を重ね、どうにか国旗らしいものが出来上がったと思う。


 

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