完結編 6話
ソード・ノヴァエラ内で行われた会議は無事?に終了し、スターリムの重鎮とフォマティクスの代表のエルをお見送りした。帰りはもちろんドーツクさんの商会で手配した魔物便と自警団の精鋭を護衛につけたから道中の安全は保障できる。すぐに手を貸してくれた彼には改めてお礼を伝えなくては…。ともかく、ようやく一息ついた。
「ふぅ…会議、やっと終わった」
もう50年くらいは会議したくない程度の疲れを全面に押し出した、ため息交じりの愚痴もどこ吹く風。カルミアはとてもご機嫌な様子だった
「サトル、かっこよかった」
議題が議題のため、ある程度の諍いは覚悟していた。一番の懸念材料であった衝突は案の定、というより必然的に起こってしまったものの、カルミアの機転によって戦の続行という最悪のスパイラルだけは回避できた。だがその代償が重すぎて気が気じゃあない!
「サトル、今日から王さまだね。国の名前は『エスペランサ・ヴォルタール』…貴方なら必ず良い場所にできるって信じてる」
カルミアのキラキラした視線が刺さる!
「あーあー聞きたくない」
今更耳を塞いでもカルミアの言う現実は変わらない。流れで俺が建国するということになってしまったのだから。
エスペランサ・ヴォルタール
希望へと帰る場所……という意味だ。
元居た世界の言葉が元になっている。これは、ディープ・フォルスやムシアナス、蛮族王たちのような者を二度と生み出さないという決意、誰もが平等に「ただいま」って言える場所を創るという決意、そして、この『帰る場所』こそが希望を心に灯して生きられる場所にしたいという想いを込めて名付けた。
もちろん、首都はここ ソード・ノヴァエラになる。
というのも、返上予定であったソード・ノヴァエラまでウィリアムから譲渡され、結果的には何も失うことなく建国するに至ったのだ。しかも、今まで町の発展に寄与していた、ドワーフのガルダイン・アイアンフォージ始め、オーパスに管理してもらっている冒険者ギルドまでそのまま移管するという至れり尽くせりな状態で譲渡という、良い意味での想定外が起きた。口頭上の約束も多いため、詳細はウィリアムと詰めていく必要はあるものの、俺の感情と胃へのダメージを抜きにすれば、現状打てる最善の一手で、最良の結果になったと言えよう。
「これからどうするの?」とカルミアが笑顔で問いかける
「そうだよなぁ……どうすっかなぁ…」
抑止力として動く以上、独自の勢力である必要性はある。そのため形式上は建国という形になるが、首都ひとつであっても国である以上は、決めなくてはならないことが出てくるだろう。
ひとまず、主要メンバーを集めて事情を話すべきだ。
「カルミアさん、俺と手分けして主要メンバーを集めてほしい。場所は俺の家の一階ホールでいいかな」
「もちろん、いいよ」
カルミアはコクンとひとつ頷いて、フォノスに迫る速度で駆けて行った。
* *
主要メンバーを全員集め、俺の家でプレゼンじみた経緯発表を行う。場にはオーパスはもちろん、リンドウ、ドーツクにも参加してもらっている。
「―という訳で、建国に至りました。国名は『エスペランサ・ヴォルタール』です。一応、俺が初代エスペランサ・ヴォルタール国王……ということになります。国号の形式上は王権帝国になると思います」
一通りの説明を終えて、みんなの反応を伺う。サラっと行われる重大発表に驚き半分、納得半分といった具合の模様だが、意外にもそこまで大きな混乱は見られなかった。
「まさかサトルの兄貴が王になるなんてなぁ……領主の器に留まらねぇと思っていたが、こんなに早くとはさすがに予想外だったぜ。まっ冒険者ギルドマスターとして、兄貴を支えることに変わりはねぇんだが」
オーパスの感想に、フォノスが口を挟む
「僕は当然の流れだと思ったね。むしろ今まで領主でいたのが不思議なぐらいに思っていた。お兄さんは、いつだって僕たちに道を示してくれる」
サリーが欲望めいた目を光らせた
「サトル、偉くなるの?王様ってすごーイ!ねぇねぇ、それなラ、お金持ちになるってことよネ!なら、今までは予算の都合で出来なかった素材を使って、贅沢に調合させてもらえるのかナ!」
イミスが首をふって「いや、サリーちゃん……それじゃあ税を無駄に喰らうあくじきの王だよ…」と突っ込みを入れる。ヴァーミリオンもそれに乗じて「回収する税は私的に使用してはいけません。特にサリーさん、貴方に金を持たせてはダメです!」と答えを示した。
サリーとイミスがわちゃわちゃし出したが、ドーツクが発言のタイミングを見て口を開いた。
「サトルさん、我々としては今までのように接して良いのでしょうか。それと、ひとつお伺いしたいことが…」
「もちろんいいよ。公の場でなければ今まで通り呼び捨てにしてほしいくらいですよ。国王になったからって、距離を置かれちゃ正直、寂しさが募ります。……で、お願いとはなんです?」
俺は承諾して続きを促す。ドーツクは安堵したように話を続けた
「ありがとうございます。商家としては、これからもサトルさんの元で贔屓にさせていただきたいと考えています。そこで提案なのですが、国旗があれば何処の商会だと身分を明かしやすくなるので、商売の都合上ですがお手すきの際に着手していただきたい、と考えております。併せて、国のモニュメントとなる、建国記念碑の建造も提案いたします」
ドーツクのご意見はごもっとも。
(国旗のない国なんて不便だよな……それに、決意表明をするうえで、指針となるモニュメントがあれば、どういう立ち位置なんだと、足踏みをしたときに初心へ立ち返ることもできそうだ)
「とてもいい案です。国旗はこの場で決めてしまいたいと思いますが、みんな、どうですか?」
自警団を率いる竜族のリンドウが両手を合わせて喜びを示した
「ステキです。サトル様の権威を称えるものを作りましょう!」
「そ、それはちょっと……いや、だいぶ嫌かな…」
彼女のことだ、俺の顔にしようなんて本気で言い出しそうだから困るんだ