完結編 1話
「はぁ~。どうしてこうなるかな~~」
「…サトル、その溜息、31回目」
「はぁ~」「32回目」
あの戦いから2か月程の月日が流れた。
フォマティクスとの戦に勝利した俺たちは、多数の犠牲を出しながらもディープ・フォルスに勝利。ウィリアム王子を無事に救出し、町を守り抜くことに成功した。
この戦いで、王都スターリムの現国王、デズモンド・インペリアス・スターリムは、ディープ・フォルスの手で討ち取られた。そのため(表向きでは)一人息子であるウィリアムが王位を継承し、ウィリアム・インペリアス・スターリムへと成る。つまるところ、彼が実質の王となるのは当然の流れだった。
ウィリアムは戦後、スターリムの事実上の勝利を宣言、布告を行い、敵の残戦力に対して停戦を要求。ディープ・フォルスが敗北した事実を知るフォマティクスもこれに応じる。戦後処理として、両国の話し合いの場が設けられることになった。
こんな状況でも、いや、こんなときだからこそ、色々と顔を突き合わせて決めなければならないことがある。
勝者には美酒を、敗者には手枷を。
ここまでは分かる。
ここからが分からない。
話し合いの場は『ソード・ノヴァエラ』
俺の領地だった……。
いやいやいやいや……なぜ?
いや、頭では分かっているんだ。王都の城は今や(俺たちの戦い方がまずかった所為で)瓦礫の山になってしまったし、他の領土も被害が大きい。唯一、と言っていいかは分からないが、被害がほぼなかった俺たちの町に矛先が向かうのは、まぁ自然な流れだったのかもしれない。
だがしかし、それを言えば、フォマティクスの首都、ハイド・コンバティアも無傷だし、他の領土だって候補にあがってもいいじゃないかと思わずにはいられない。
書面でウィリアムに抗議したところ、帰ってきた内容は『この戦は、君のパーティーメンバーが戦争を終結させたのと同義であったし、スターリムの貴族ほぼ全員の認識も、強さを重んじるフォマティクスの諸侯の認識すらもそれに準じるものであった。諦めろ。私を生かしておいて正解だったな?はははは。』だった。
おいおい、いくらなんでもお返事が適当アンド淡泊すぎゃありませんか。
「はぁ~」「33回目」
それからだ。
町に戻った俺たちは、サリーの父君であるサリヴォルらエルフの支援やドワーフの集落、ブローン・アンヴィルの民の手を借りて、町の拡充を行いつつも、戦火を逃れた民たちへ居場所と暖かい食事を用意した。
純粋な、他意のない手助け100%のつもりでやったことだったが、これが結果的に町の発展に寄与してしまい、戦前と比べても王都を超える規模にまで町が大きくなってしまったのだ。
最早、ソード・ノヴァエラは新王都と言っても差し支えない規模にまで大きくなってしまった。
両国の今後を決める会合を拒否するうえで最も効果的な『この町は、重要な会議をするにはいささか小さすぎるんじゃないですか大作戦』も使えなくなった。端的に言えば、拒否する言い訳ができなくなった。
シールド・ウェストの町民や衛兵の保護から始まった慈善活動だが、今更彼らを追い出す訳にもいかないだろう。やったね!働き手が増えて大都市の足掛かりになったよ!このタイミングでね!こんちくしょう!
ここで、俺の溜息大魔王の誕生秘話につながるという訳さ。
「はぁ~~~」「……」
俺の横で、溜息カウンターと化したカルミアも、数えるのが面倒になったのか何も言わなくなってしまった。さすがにこれ以上続けると彼女に怒られそうな気がしたので、目の前の現実を受け入れることにした。
文字通り、目の前には大きな建造物がある。
ソード・ノヴァエラの中心地に鎮座するそれは、道行く人の注目を集めるには十分すぎる理由だった。通り過ぎる冒険者たちが、指さし、好き勝手に何の建物であるかを予想したり雑談のネタにしたりしている。
「立派な建物だね…その、必要以上に。」「サトルの功績を称えるには丁度いい」
「そうだろうか……と言うよりそんなもの必要ないよね」
カルミアはコクリと頷く。
「そう。必要」
彼女は何の疑いも持っていない、二言だけの返事だが、心からそう言っているようだった。
俺たちの前に圧倒的な存在感を放つ建築物。白を基調とした横長の建物で、入り口には水が園芸用のガーデンアーチを形作るように流れる装飾が施されており、来賓を目で楽しませるような工夫も拵えてあった。門前には、スターリムと、フォマティクスの領土を示す旗が誇らしげに風になびいている。この建物は、国家間での話し合いと、行政を担う目的で新設したものだ。
俺の頭痛の種の、原因とも言える。自領にこんなものを置きたくはなかったのだが、そんなわがままを言っても、会合が開催されるという事実が覆ることはないだろう。
「サトル、そろそろ時間。もう行かないと。皆待ってる」
「分かってるよぉ……あぁ~どうしてこうなった」
その会合が今日、新設されたばかりのこの建物で、しかも今から始まるとならば沈んだ気持ちも加速されるというもの。一領主に過ぎない俺が呼ばれていること自体、嫌な予感のオンパレードなんだ。
「…皆、サトルを認めている。私はそれが嬉しいの」
カルミアが笑顔で俺の背中を押して、無理やり入り口から歩を進ませる。
「いやぁ~~!」
必死の抵抗も彼女相手ならば無駄だろう。腹をくくるしかあるまい。
前途多難であった。
サトルの成り上がり、という点を考えると、ひとつの区切りに入る章となります。
章の題名は何日も悩みましたが、「成り上がり」の一旦の区切りとあればこの言葉が一番適切かなと思いました。
一応の完結編の開始となりますが、もしよろしければ、もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです!いつも本当にありがとうございます。




