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征伐編 41話


 「う”お”お”お”お”!! シネ!サトル! [ディープ・キネシス] !」


 悪魔化したディープフォルスが、雄叫びと共に凝縮した負のエネルギー波の球体を打ち出す。その波動は、デオスフィアの影響を受けたためか闇色で禍々しく、地面や瓦礫をすり潰しながら迫る弾の威力は計り知れない。彼の魔力を受け取り続けているのか、球体は放たれた後も肥大化を続けていた。


 「サトル、下がって!」


 カルミアが俺の前に庇い出ると一度太刀を鞘に戻し、抜刀の構えから気を練った。


 立て続けに奥義とも言える『天雷斬』を使っているためか、彼女の表情に何時もの余裕は無い。防衛戦から連戦続きで、疲労がピークに達しているのだ。例の、レイドモードとやらも発動していない。


 「はぁぁぁぁっ……『天雷斬』!」


 ―― その影響だろう


 太刀とエネルギー派の衝突で激しい雷撃が四方八方に飛び散り、彼女の一太刀では斬ること叶わず、押しとどめる程度に拮抗した。彼女の力が拮抗したのは、竜討伐以来だ。


カルミアがディープフォルスの放った球体を押し戻そうとするが、闇色の球体は徐々にこちらを飲み込もうと迫る


 (カルミアが…押されている…)


 踏ん張っている足元が勢いに負け、徐々に後退を始めた。彼女の表情も苦しそうで余裕がない。このままでは…


 「…っく!」


 状況を判断して一番最初に動いたのがサリーだった。最低限の詠唱で放った防壁魔法


 「 [コミュナル・プロテクション・フロム・ブレイド]!」


 ただし、その防壁はカルミアではなく、彼女が持つ太刀に付与された。この魔法は…元々はパーティーメンバー全体に防壁を張るものだが、サリーの機転によってアレンジが加えられたのだろう。彼女の意図までくみ取る暇は無かったが、結果的に見れば彼女の機転は功を奏すことになる。


 カルミアの太刀、石楠花一文字しゃくなげいちもんじに魔力が付与され、疑似的ではあるものの、魔法に対する"防御力"が備わった。カルミアが一歩踏み込み、身体より大きな闇の球体を押し戻し始める


 「…サリー、助かるわ」「あなた一人の戦いじゃないからネ♪」


 カルミアはサリーを一瞥すると短い返礼をした。それに対してサリーも緊張感を吹き飛ばす笑顔を見せて応える。


 「小癪な…!シネ!スベテ…ナニモカモ…コワス!!」「させない!ヴァーミリオン!いくよ」


 ディープフォルスの放った [ディープ・キネシス]は更に肥大化し、俺たちを飲み込もうと迫ったが、イミスがサリーに便乗する形で続いていた


 「[カロネード・ディストラクション]!」


 技発動に必須となるビーコンは激しい戦闘で既に剥がれ落ちている。だが、イミスはこれで問題ないと判断した。直接攻撃を捨てて、点ではなく面での攻撃を意識していたためだ。ある程度の座標さえ絞り込めれば問題がないと判断したのだ。


 「はぁ!」


 限界まで引き絞って解き放たれた矢はディープフォルスが立っていた”地面”付近に着弾し派手に爆発する。当然、軌道から外れた時点で直撃は無いと見ていたディープフォルスは、直撃でないのなら脅威ではないと判断し、転移で避けることを止め、魔力を込める方にリソースを割いた。それが仇となった。


 彼が立っていた付近が、爆発した影響で大きく陥没したのだ。


 「グ、オォォ!?」


 もちろん彼が立っていた場所も無事では済まない。ディープフォルスの姿勢が大きく崩れる程度の脅威だが、一進一退の状況では、些細な隙も致命的になる。


 カロネード・ディストラクションで視界が悪くなっていたことと、自信の体制に意識が向いてしまったことが災いした。この刹那、ディープフォルスは背後に迫っていた気配を、"この一瞬" を虎視眈々と狙っていたアサシネイトの気配を感じ取れなかった。


 「これがアサシンの戦い方だよ」


 「しまっ…――!?」


 フォノスが背後を取ったことに一泊遅れてしまったが、気がついたときにはもう遅い


 「…[ヒドゥンブレード]」


 フォノスの籠手から小型の刀が飛び出し、ディープフォルスの心臓を背中から正確に突き刺した


 「ゴハァ……!!」


 ディープフォルスは咄嗟に、膂力に身を任せて腕を振り払うが、この時点でフォノスは離脱している


 「チ、チカラが…ヌケテ…グウウウ」


 ヒドゥンブレードは性質上、ほぼゼロ距離まで接近しなければ攻撃を当てることすら叶わないという、圧倒的に攻撃側が不利なリスクを持つ特技。だが、リスクに伴ったリターンもまた破格である。攻撃を一度成功でもさせた場合、対象のユニーク能力を戦闘中使用不可にするという、協力なデバフ効果があるのだ。


これがデオスフィア"そのもの"の力にどこまで作用するかは不明だが、[シンク・エンハンス]という能力はデオスフィアを媒体に"素質"から無理やりに増長させて体得した、いわば借り物の魔法技術である。デオスフィア"そのもの"を防げない場合でもこれは有効な可能性が高いとフォノスは見ていた。ディープフォルスの反応を見る限り、それは正解だったようだ。


 「ヌアアアアア!!ギザマァアア!ヨクモオ"オ"オ"ォ!」


  [ディープ・キネシス]は主の制御を失い、急速に威力が落ち始めた!


 「カルミアさん、今だ!」


 力の余す限りを振り絞って『天雷斬』を放つ。サリーの魔力を上乗せした一太刀


 雷気と魔力を重ね合わせたエネルギー派は刀の波紋を通り、倍以上の剣の幅と丈を生み出した


 「はぁああああああ!」


 カルミアは [ディープ・キネシス]を押し戻し、身体を刀に預けて全力で振りぬく


 「[雷沢帰妹罪悪翻劔らいたくきまいざいあくひるがえしのつるぎ]……『弐の天雷斬』!」


 激しい雷撃と衝撃波で辺り一面が吹き飛ばす


 刀から放たれた一撃は容易く闇を斬り裂き、ディープフォルスへと――


 「ワタ、ワタシワァアアアアァアアア!!!!」


 迫る衝撃波と瓦礫の山


 俺の意識もそこで途切れたのだ。


 

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