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征伐編 40話


 俺の能力はルールブックを触媒に行うクラスチェンジだ。対象の範囲は幅広く、現状では人であろうと魔法生物であろうとクラスの変更ができる。"召喚した魔法生物"であっても、それは同じだ。だが、全てにおいて万能に行使可能という訳ではない。対象の合意が取れない限り、同格か格上の相手は高い確率でレジストされるうえ、強制的に実行した場合は、ペナルティがクラスチェンジを行った相手へ与えられてしまう。


更に、クラスチェンジは"キャラクターシートに掲載できるような対象"に限られるという制約がある。例えば、"酸素"を『戦士』に変えることは不可能。当然ながら"干し肉"を『シーフ』に変えることもできない。


クラスチェンジの制約は多く、ペナルティには特に気を配る必要があるのだ。だが、このペナルティ、味方には害であっても、使い方によっては敵に対して攻撃手段となりうるケースがある……今回はペナルティの仕様を逆手に取って、リビングソードのクラスチェンジを強制的に行使したのだ。


 今回のクラスチェンジの対象は、ディープフォルスが生み出したリビングソード。彼自身を対象とした変更はレジストされるが、彼が生み出したものであれば可能性があったということだ。リビングソードを『農奴』に変えることでリビングソードは自らの原動力である魔力を失い、動くことができなくなる。これは"ディープフォルスが生み出すリビングソード"に適用される。……蛮族王にも使った手だ。


 「おのれ…サトル、お前の仕業か!」


 ディープフォルスは、こちらの猛撃を転移で回避しつつ既に召喚していた剣を破棄し、新たにリビングソードを生み出そうと試みる。しかし、召喚されたリビングソードはすぐに自らをコントロールする術を失い、地へ落下。リビングソードと地面が激しくぶつかり合って、虚しい金属音が響き渡るだけだった。ディープフォルスの動きに動揺した様子が見られる。


 「カルミアさん、流れを変えよう」「ん…」


 混乱している今が攻め時だ。カルミアを目配せすると、彼女も同じことを考えていたようで、俺とアイコンタクトを交わすと短い返事で俺の側を離れて攻撃に転じる


 カルミアの一太刀は不可視に近い。瞬時に彼の懐まで迫ると、刀を振り下ろす。ディープフォルスは、彼女の腕の位置、そして彼女の姿勢から、太刀筋と刀が迫る軌道を読んで、刃が降りる前であろう場所に自らの剣の刃を立てた。ディープフォルスの目測通り、剣と刀が交差する。


 「…[雷閃拳]!」


 だがこれもカルミアは想定の内だったのか、すぐに追撃を加えた。空いた手で彼の腹に強烈な拳を繰り出したのだ。ディープフォルスは両手で剣を持ってカルミアの一閃を防いでいたため、追撃を防御する手段がない。


 「うぐ…!」


 ディープフォルスの身体に雷蛇が走った。苦悶の表情を浮かべるが、ポリモーフとデオスフィアで超強化された強靭な体は攻撃に耐え抜き、転移で離れた。


 不利を悟り始めたディープフォルスの脳裏には、絶対に認めたくない 一つの言葉がちらつく


 "このままではサトルに負ける"


 カルミアとの接近戦闘の応報の中、至近距離で転移を繰り返しても、どういう訳かイミスの弓矢は正確にディープフォルスだけを捉え続けた。さすがに回避が間に合わず、ポリモーフした腕で受けるが、矢は途中まで貫通するほどの高い威力があった。このまま受け続ければ致命傷になるのは明白である。


 腕からの出血が止まらない


 「…ッチィ!」


 カルミアから逃れるような姿勢でイミスに接近しようとしたところ、フォノスが投げナイフで牽制し、接近攻撃を繰り出す。フォノスのナイフは"当たれば危険"であると、ディープフォルスは気がついている。だから回避するしかない。そしてまた背後からカルミアが刀を振り下ろす。


 "このままではサトルに負ける"


 全体に剣気を飛ばすが、ディープフォルスの攻撃はサリーの防壁に阻まれた。サリーは反撃に『風』魔法を叩きこんでくるため、これも転移で避けなければならない。


 "このままではサトルに負ける"


応援を呼んでもサトルの能力で無力化されて終わりだろう。ディープフォルスの脳内で、この先の戦闘を何度も何度もシミュレーションするが、思考すればするほど彼の勝ち筋が見えなくなっていく。


 "負ける負ける負ける負ける"


 もう数手先も見えない


 ディープフォルスの脳内では、勝ち筋を得るための考えを棄て始めていた。戦闘の合間、凝縮された時間の刹那で呪いのように脳内をよぎる『敗北』の二文字


 彼は、そこで思考を止め、捨て身の賭けに出た。


 「これほどとはな……ムシアナスが死んだのも納得だ。側近の手に負えなかった理由が今分かった。私たちは、お前たちの能力を軽視していた!これほどまでに苦戦を強いられるとは思ってもみなかった。……だが……それも終わりだ!私には、これがある。側近が使っていた"贋作"じゃない。オリジナルの力だ」


 ディープフォルスは、腕を高く掲げて叫んだ


 「……全てを寄こせ!! [ラスト・シンク・エンハンス]!」


 彼が叫ぶと、城内から撤退を始めていたフォマティクスの兵たちがバタバタと倒れ始める。その体から、光球が浮かび上がり、凄まじい勢いでディープフォルスの"手の甲の石"に集約され始めた


 (なんだ…これは…?もしやデオスフィアの力を集約させているのか…!?)


 俺の予想が半ば的中していたのか、彼を纏うオーラは次第に高まっていく


 「うう…があああああああ!!」


 だが、膨大な力を吸収した反動故か、ディープフォルス表情は次第に苦痛へと変化した


 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」


 ディープフォルスの綺麗な声は、太く醜いものとなり、彼の美しい顔は次第に悪魔のように憎悪へと染まり、彼の肉体は大きく筋肉質に肥大化し、肌は浅黒く変色し始めた。


 まるで、人の殻から這い出てくる悪魔そのものだった。


 悪意の具現化としか表現できないほどの憎悪だった。


 (これは、間違いなくデオスフィアの暴走現象……闘技場やフォマティクスの基地で見た現象と同じだ…!)


 もはや悪魔そのものと言っていい姿と成り果てたディープフォルスは、自我があるのかどうかも分からないほど狂乱に染まり、一頻り叫び続けて暴れると、憎悪の瞳をこちらへと向けた


 「う"う"う"う"う"!」


 彼は両手を腹の中心近くへ持っていくと、自らの莫大なエネルギーを込め始めた。何等かの攻撃の前触れであることは誰にとっても明らかだった。


 (……まずい。自爆か?それとも高威力の魔法か…?)


 いずれにしても、このまま受ければ町にまで影響を及ぼしそうな規模の攻撃。フォノスがナイフを投げて妨害を試みるが、転移で避けられてしまった。


 (あんな姿に成り果てても、能力は健在か…)


 奴を止めるには、高威力攻撃後の隙を狙って仕留めるしかないが、そのためには一度攻撃を凌ぎきるか、同じ規模の攻撃で奴の攻撃を相殺するしかない。


 「奴の暴走を止めて、みんなで帰るぞ」

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