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征伐編 38話


 ディープフォルスが持つ剣の柄には、デオスフィアらしき石が装着されている。その影響か、その剣身は黒いオーラをまとっていた。彼が侍女に声をかけると、その女はひとつ返事で能力を行使した。


 「ポート」「はい」


 ディープフォルスの身体が消えた


 (例の転移能力か…!)


 いつの間にか俺の真上で剣を振り下ろす姿勢で迫っている


 「…!サトル、上よ!」「お兄さん、上だ!」カルミアとフォノスの警告はほぼ同時だった。反射的にルールブックで防御して払う。すかさず追撃がくるが、これは俺の前に立ったカルミアが刀で薙ぎ払った


彼は転移で次々と立ち位置を変え、絶え間ない剣戟を繰り出す。主に狙いは俺だが、フォノスが素早く反応し、彼の追撃を防ぐ。初撃以降は全てフォノスが反応して剣の応報を繰り出していた。


 「…っ!なんでもアリだな」


 剣と剣の応報の最中、ディープフォルスの愚痴にフォノスが「お互い様だよ」と短く返す。


 以前打ち合った時よりもずっと早い。立ち位置を転移させている以上、アドバンテージは彼にあるが、フォノスの自力としての速さがそれを上回っている


 「よそ見してんなよ!」と控えていた少年がカルミアに剣を向けるが、少年が斬りかかる瞬間、カルミアは軽やかに身をかわし、平然とした表情で反撃する。その動きは捉え難く、刀の刃は閃光のように少年の防御を容易く切り裂いた。


 「くっ…!」と少年は息を詰める。カルミアの一撃は致命傷には至らないものの、彼の動きを鈍らせるには十分なほど深く傷を残す。それが彼女の計算だったことは明らかだ。傷を負いながらも、少年は再び立ち上がる準備をする。


 一方、ディープフォルスは再び転移し、今度は背後からカルミアに迫る。しかしフォノスは冷静で、ディープフォルスの意図を先読みしていた。フォノスはできるだけ体を低くして身体を加速させると、ディープフォルスの剣がカルミアの背に届く前に、反撃の一撃を返した


 「お前のそのトリック、もう見飽きたよ」


 フォノスが冷ややかに言う。ディープフォルスは苛立ちを隠せないでいるが、その表情にはまだ余裕が残っている。


 「ふん…ならば、こういうのはどうだ? [シンク・エンハンス] 」


 その時、周囲の風が変わった。彼の腕がメキメキと音を立てて肥大化。みるみる内に獣のような腕と成り果てた


 (これは…!ムシアナスのポリモーフ…!?。いや、少し違うか…?やはり奴の能力は配下の力を模倣している…!)


 「さあ、お前たちも楽しんでいくといい」とディープフォルスが高らかに宣言し、地を踏みしめると同時に俺に向けて剣気を放つ。


 「はぁああああああ!」


 ディープフォルスが放った強大な剣気は城内の派手な装飾を消し飛ばしながら俺へと迫る


 (ただの剣気が指向性と破壊魔法並みの威力を持っている…!?)


 「させないよ!ヴァーミリオン![シンティクシィ・ディフェンシブフォームチェンジ]!」「わかっているわよ!」


 これをイミスと彼女の相棒であるゴーレムのヴァーミリオンが防御形態で正面から防ぐ構えをみせた。人形態のヴァーミリオンは大盾のように変化し、本来のイミスの戦闘スタイルに近い形になった。


 「それではこちらで如何でしょうか」


 そこでポートが動く。指を鳴らすと転移の術が発動し、ディープフォルスの『剣気ごと』転移させ、イミスの防御を避けた。間も置かず、直線的に向かっていた剣気が俺の背後から突然現れた。このままでは俺は背中から剣気でやられる!


 (人に言えないけど、本当にチートだな!?)


 「[コミュナル・プロテクション・フロム・アビス] !」


 サリーが俺の後ろに立ち、範囲型の防御魔法を展開して剣気の軌道を逸らす。明後日の方へ飛んで行った気はそのまま城の天を派手に破壊し、空を映した。


 お互いの配下は主を守るポジションに移動し、睨み合いが続く


 「ッチ…有効打がない。手数を増やすか…カッツ。お前、まだ立てるか」「この傷ではそう長くは持ちません…」


 ディープフォルスがカッツと呼んだ少年兵は覚悟を決めたように短く呟く。カルミアに深く斬られた傷口から絶え間なく血が流れている。もう助からない。致命傷なのはディープフォルスにも理解できた。


 「カッツ…あれをやれ。対象はアレックスだ」「…はっ。全ては主様のため」


 カッツが短く呟くと術が発動される。彼の胸から小さな光が出現し、ディープフォルスがそれを手中に収めた。


 カッツと呼ばれた少年兵は、そのまま意識を手放すように力なく横たわる


 「ふむ…成功だ… [シンク・エンハンス] 」


 まるで少年の心配をしている素振りがない短い言葉の後、ディープフォルスは両腕を広げ、更に魔術を行使した。


 彼の周りに浮かぶ数多の剣が規則正しく旋回している


 (これは…!リビングソード…!?だがこれは…)


 「これは蛮族王の…」


 ディープフォルスは笑みを浮かべる


 「そうだ…サトル。気が付いただろう。かつてお前が殺した我が同胞の…アレックスの技だ……あぁ、お前たちにとっては不当に地を汚す『蛮族王』と呼んだほうが通りが良いだろうか?」


 (蛮族王…俺が身を立てるために討伐した賊の頭だ。状況から察するに、カッツという少年の術は、自らを代償に技を顕現させるもの…)


 そして、顕現したものは紛れもなく『蛮族王』のリビングソードの召喚術と、それを用いた格闘術の融合。マルチクラスの戦い方だ。彼の場合、配下全ての技を自らのものとする、トリプルクラスと言うべきものだ。


 「サトル、下がって」と言ってカルミアが迎撃の構えをとった。彼女の身体に雷電が迸る


 (想像以上だ…ディープフォルス…!)


 本来TRPGにおいて、クラスの取得数に制限はない作品は多い(GMが禁止しない限り)が、クラスにレベルを割り当てる都合上、クラスを欲張って取りすぎると返って弱くなってしまうという事象が発生する。そのため、GMがわざわざ制限することもないケースが殆どだ。効率重視で考えるのであれば、クラスは目的をはっきりさせ、役割に特化させたうえで、ひとつかふたつに絞るべきなのだ。


だが、ディープフォルスは能力の特性上、配下の能力を使うという能力のメインクラスを持ち、配下もそれぞれに卓越した能力を持つ。疑似的に、全てのクラスを底上げした戦い方ができるということだ。TRPGの土俵で考えれば、全てのクラスのレベルが均等に上がっているようなもの。


俺のクラスと似ているが、根本的に違うのは俺が配下の能力を伸ばす方に振り切っているのに対し、奴は配下の能力を使うことに特化している。俺と違い『戦いにおいては』欠点らしい欠点が見当たらない。単騎では無類の強さを持つだろう。


 「……反則もいいところだ」


 俺の言葉にククっと短く笑い「あがけ 苦しめ」と憎しみを込めた言葉と共に手をかざす。浮遊していた無数の剣はピタっと止まり、その切っ先をこちらに向けた。


 「そして…同胞の技で死ね!人間のサトル!」


 ありったけの剣を飛ばし、自らも後を追うように追撃する


 カルミアとフォノスが無数のリビングソードを弾き飛ばすが、手数が足りない。イミスが取りこぼしをガードしているが、ポートの転移で軌道を逸らされてしまう。カルミアの気術が徐々に練り上がると、ギアを一段上げる。


 彼女の纏う空気が、変わった


 「フォノス…下がって、サトルをお願い」「あぁ、任せる!」


 「はぁぁぁあぁあっ!!」


 カルミアの練り上がった気迫がリビングソードを吹き飛ばし、ディープフォルスの突撃を躊躇させる。ポートが叫んだ


 「主様!危険です!下がって!」「黙れ…!」


 ポートは突撃を止めないディープフォルスの元へ走り出す。そして、この判断は正解だった。


 フォノスは俺を抱えてカルミアから距離を取ると、イミスの後ろまで退避した。イミスは状況を察し、全てのリソースを防御に割く


 「ヴァーミリオン!」「うん!」


 更にサリーの結界で防御を強固にした。


 やがて、天井から覗く空の空気が淀む…


 雷鳴が近づいてくる…


 それに応えるように、カルミアは刀を抜刀した


 「天雷斬…!」


 一瞬の、それも大規模な爆発が俺たちの前方で巻き起こる。


 ディープフォルスは思わず転移で距離を取ったが距離が足りない。そこでポートが追いつくと、すぐに主の手を掴んで更に遠くへ転移した。


 遠巻きに見ても分かる


 城内の構造物の一切を消し飛ばす、紫電の華がバトルフィールドを支配していたのだ。


 「な…なんだ…これは…」


 ディープフォルスからこぼれた言葉も無理はない。スターリム城は一瞬にして内側から吹き飛んだのだ。『城内』はもはや戦場は城と呼べるものではない。とてもマイルドに言って『空き地』になっている。斬撃の亀裂をなぞるように雷の花が咲いていた。


 この異常な現象は、他ならない、彼女の力によって引き起こされたものだ。


 カルミアは深く息を吐いて腰を落とし、正眼の構えを取った。よく見れば、桃色の髪は神々しい銀に変色していた。彼女を包む気迫が、それだけで物理的な障壁を生み出しているようにすら見えるほど圧倒的な力だった


 「逃げられないから……」


 カルミアは刀の先を遠方に転移したディープフォルスへ向けた。彼女の目には、はっきりと姿が見えているようだ。


 *カルミアがレイドモードに移行*


 (またこのアナウンス……そしてレイドという異常な事象……この状況は…俺の能力が影響しているのか…。間近で見ればこそ分かる、超越した力。だがなんだ…この胸騒ぎ)


 この名称と、彼女の変わりよう。不穏さから、俺はこの能力が忌諱されるべきものだと感じていた。だが、状況を打開するには頼るしかなさそうだ



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