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征伐編 33話


 「王になるって…どういうことですか」


 アイリスが突然、領主とは思えない発言をした。相変わらず何を考えているのか、いや、ぶっ飛んでいるオトナな女性である。もちろん良い意味でだが。


 「どういうことだと?そのままの意味だが?フォマティクスの傘下として生きるくらいならば、戦う。正当性という大儀が必要であれば旗を上げる。それだけだ」


 アイリスはさも当然と言わんばかりな表情だ。だが、まだ王子が生きて囚われているかもしれないという状況を理解しているのだろうか。


 「いやいや……確かに、伝令の言うことが事実で、我らが王が討ち取られたとしましょう。ですが、その血筋を持つ、ウィリアム王子がおられるではないですか。他にも親族の方もいるはずですよね」


 (そもそも、なんで俺なんだよっていうツッコミは置いておくとしても、王子が継ぐのが順当だろう)


 だが、アイリスの解釈は異なっていた


 「わざわざ王子や親族を生かしておくメリットがフォマティクス側にないだろう。フォマティクスは、サトルとの戦闘に負け、対スターリムという規模戦闘に勝利したのだ。囚われているというのは、生きて捕まっているとは限らない。スターリムを手中に収め、場が整った状況でお前をおびき寄せ排する策だとしても、私は全く驚かんがな。それよりは、お前が旗を上げて革命軍を指揮する方が相手としてはやりづらいはずだ。サトル、お前にはそれができる力があるだろう」


 彼女の言うことは最もだ。いくら力があっても国中を相手にして勝てるとは思っていない。罠だったと言われた方がしっくりくる。対抗しようにも持っている兵力がたった数百で盤上の惨憺を覆すのは難しい。だが、王子を見捨てて軍門に下るというのは……


 あのいけ好かないジジイには少なからず感謝している。敢えてどうしようもない土地を渡してくるようなやり口はひどいもんだったが、俺が爵位を持てたのも、今があるのも、ジジイのおかげだ。それに、ムシアナスに頼まれてしまったしな。誰が支配するにしても、種族間の差別という悪い文化を変えるにしても、まずはデオスフィアを使った戦いを止めないといけない。それが、俺の今やりたいことなんだ。


 「いや……俺は新たな旗をあげるつもりはありません。案を出して頂いたアイリス様には悪いのですが、ウィリアム王子は助けます。決して見捨てない。せめて無事かどうかを確認します。万が一、革命以外に選択がなくなったとしても、スターリム家の血筋が途絶えてしまった事実をこの目で見て、初めて検討することだと思います」


 (なぜ、フォマティクスが王都を陥落させたあと、俺たちを集中的に攻撃しないのか。それだけが引っかかっているんだけどね)


 アイリスは肩をすくめ、溜息をついた


 「やれやれ……はぁ。それが罠だって言っているのだ。…私としては、お前が危険な目にあうのは避けてほしい所なんだがな……。仮に攻めるとしても、実際問題としてお前が持つ兵力が足りないだろう。最早、近隣の諸侯はフォマティクス側だと思った方が良いぞ。シールド・ウェストの動ける人員を割いて、せいぜい動かせる戦力が200程度だ。けが人もいる。そんな状況でどうするのだ?……私としては、時間をかけて町を大きくして、反旗を伺うべきだと思うのだがな」


 「それは問題ありません。私には彼女たちがついてます」


 カルミアたちが一様に頷き、賛同の意を示す


 「おいおい……まさかとは思うが、1パーティーだけで向かう…つもりなのか?」


 (アイリスの驚愕した表情を見れただけでも、この提案をしてよかった。彼女のこんな顔は貴重だぞ。何時もの仕返しだ)


 「はい。そのまさかです」


 アイリスは机を叩き、声を強める


 「ばか者!死に行くようなものだぞ!私の言うことを聞いていたのか!?」


 だが、俺も引けない


 「この期を逃せば、フォマティクスは盤石となり今後攻め入るスキは生まれないでしょう。まだ抵抗している勢力がいる内に本陣へと乗り込み、決着をつけます。リスクは承知していますが、フォマティクスの現王が敷いたルールでは、あまりにも人が死にすぎる。人を文字通り道具と化し、最期には悪魔と成り果ててしまう。そんな不条理に抗う術もなく、従うだけ。そうなれば、これから先も、無数の悲劇が生まれます。奴は、それをこれからも続けるでしょう。俺は、その前に彼を止めなければなりません。そして今、それができるのはこの国で、俺たちだけだと思うのです。可能であれば、俺だって領土でみんなと仲良く過ごしていたかった。でも、こうなってしまった以上は見過ごせないのです」


 それを聞いたアイリスはゆっくりと息を吐いて椅子に力なく腰掛ける。そして頬杖をついて、やがて目に手をあてて深く考え込んでしまった。綺麗な顔も少しやつれ気味に見える。


 (口は悪いし、普段は怖いけど、俺のことを本気で心配してくれているんだよね。このお姉さんは……)


 俺はできるだけ優しく声をかけた


 「アイリス様には、ほんの少しだけ、この地を預かっていてほしいと思っています。ソード・ノヴァエラは無傷ですが、けが人が多くいますし、難民を受け入れる必要もあります。領土を開ける間、民を頼めますか。貴女の指揮が必要なのです」


 アイリスは黙っているが、否定しない。肯定と受け取っておこう。


 (さあて、ドラゴン退治よりは簡単だといいが。これまでたくさんの無茶をしてきた。それがひとつ、追加されるだけだ。城で助けを待っている王子を救いに行こう)


 「俺たちならできる。俺たちがやるんだ」


 困難じゃない挑戦なんて、何一つ存在しない。



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