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征伐編 31話


 敵将を討ち取ってから本陣に戻ると、フォノスが既に到着していた。サリーを抱えた俺の姿を認めると、一瞬すごく心配そうな表情を見せる。だが…どちらも無事と分かると安堵したように溜息をついた。


 「はぁ…お兄さんはいつも無茶ばかりするね。二人で敵本陣に乗り込むなんてどうかしているよ。……サリー姉さんも同罪だよ?寝たふりしていてもバレているからね?…僕の変わりにお兄さんを守って、将を討ち取ったのは評価できるけど」


 矢継ぎ早に繰り出されるフォノスのお説教に返す言葉もない。抱えられたまま意識を失ったフリをしていたサリーは「なぜバレた!?」というような驚愕した表情を見せ


 「で、でも、アタシの活躍でサトルは無事だったかラ……」


 と言い訳するが、フォノスは目くじら立てて


 「お兄さんが無茶な行動を取ったら、止めるのも僕たちの役割でしょう。今回はうまくいったから良いものの……姉さんも無茶してその有様なのは、言わなくても分かっているよ。遠方からドラゴンが派手に暴れる姿は見えていたし……」


 と、お怒りの様子。…どうやら心配させてしまったようだ。早々に話題を切り替えなくては……


 「す、すまない。フォノス。俺が先行して、サリーさんには付き合ってもらった形だったんだ。気をつけるよ。と、ところで、君に頼んだ敵の後方部隊の相手はどうなった?敗残兵が弔い合戦を始めると、双方に無視できない被害が出るからね」


 フォノスは頷いて自信満々に言った


 「あぁ、兵糧も目に入ったものも全て壊したよ。敵兵はこれ以上の継続戦闘は困難だと思う。ついでに……いや、やっぱり、なんでもないよ。お兄さんの為になることをいくつかしておいた」


 何かを誤魔化すように笑みを浮かべるフォノス。少し気になるが、まぁ言いたくないなら仕方がない。


 「そうか。助かったよ。危険な任務を単独で押し付けてしまってすまなかった。ありがとう」


 俺は天幕に入り、サリーをベッドに優しく寝かせる


 「あ、ありがト……」


 「俺の独断専行が原因だよ。本当にごめん」


 彼女は首をふって、いいよ。といつもの笑顔を見せてくれた。屈託のない、いつもの明るい笑顔だ


 顔を合わせ続けるのが照れくさかったので、すぐに机に向かって地図を確認する。


 (さて…現在の状況を整理しよう。……フォマティクスとの闘いは勝利で疑いはない。あとはムシアナスの首を敵兵に見せるだけで士気は完全に落とせるだろう。要所もカルミアたち抑えられている状況での反撃は難しい、相手は撤退後の兵糧もない。フォマティクスの将校は戦死。うん……これ以上ないほどの成果だ)


 「フォノス、すまないが君の足を見込んであとひとつ頼みたい。ムシアナスの首を持って、討ち取ったと宣言して回って欲しい。敵兵の敗戦処理は味方の被害状況の確認が終わってからする」


 「それくらい任せてよ。じゃ、行ってくる」


 フォノスを見送り、考えをまとめる。地図上に置いたソード・ノヴァエラに進軍する敵兵フィギュアを横に寝かせ、自分の領土に旗を立てる。隣の領土であるシールド・ウェストが心配だ。


 (フォマティクスは文字通りの全面戦争をしている。彼らの将の中で転移能力を持つ者がいる。そいつがスターリムの各領土付近に兵を転移させている状況だ。俺の地方へ送られた兵力は他の地域より明らかに多かった。まるで城攻めに割くほどの割り当てだ。これは俺たちをこの地域に足止めすることが考慮されているはず)


 少し嫌な予感が過る…


 伝令が天幕に入り、報告を入れる


 「サ、サトル様。その…報告が二つあります。ひとつは少し、心の準備が必要やもしれません」


 兵の様子から、よくない報告であることは察しがつく。あぁ、嫌な予感ってのはどうしてこうベストタイミングだけを見計らって来るのだろう。


 「……できれば、良い報告から聞かせてほしいな。あればだけど…」


 「はい。ございます。シールド・ウェスト兵の伝令がここまで早馬でやってきております。その、アイリス様もご一緒のようで。報告によると、『我らがアイリス様率いる軍は甚大な被害を出しつつ辛くも勝利を収めた。ついては負傷兵と負傷されたアイリス様の保護をお願いしたい』とのことです。シールドウェストの町は大破しているようで、まともな医療を行えないらしく」


 (え、アイリスがここに!?…)


 少し戸惑うが、負傷しているなら受け入れないわけにはいかないだろう。


 「わ、わかった。シールドウェストの領主と兵を本陣に入れていい。医療班には、サリーのポーションを優先的に使うように指示してほしい」


 サリーのポーションがあればアイリスはすぐに元気になるはずだ。…カルミアが不機嫌になりそうだが。


 「で…もう一つの報告ってのは、なんだい?」


 伝令の息を吞む音が聞こえる。暫く躊躇したのち、口を開いた。


 「ソード・ノヴァエラ防衛戦を行っている間に……王都、スターリムが陥落しました」


 「…は?」


 舎本逐末…いや、仕方なし。


 思わず天を仰いだ。



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