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征伐編 25話

 リンドウ視点


 * *


 第二部隊を迎撃するはリンドウ率いる竜人を中心としたメンバーだ。


 野営規模はこじんまりとしたレベルだが、機能性に優れたもので、突然降り出した雨にも負けずにしっかりとした天幕が主を守っている。内装がやや和風っぽく改良が施されているものの、出撃に必要な装備が木板で立てられており、天幕の主が用意周到であることが伺えた。


 ずぶ濡れになった竜人の一人が大きな声で天幕に入り、その主に報告を入れる


 「リンドウ様、ご報告いたします!リンドウ様の使役する精霊の魔法によって、敵陣に大きな打撃を与えられました。しかしながら先ほどから降り始めた雨で火球の威力が弱まり、敵が攻勢に出ました。急激に距離を詰めてきています。負傷者は多数出ておりますが、サトル様による兵たちのクラスチェンジなるものの兵力強化とサリー様から頂いたポーションで現状、戦線の維持はできています。……しかし、このままだと数で押し切られてしまいます」


 リンドウは正座した姿勢のまま目をつむっていたが、報告を耳に入れると目を開く。同時に、地面に展開されていた大きな魔方陣が消えた。


 「そのようですわね。フォティアの視点から、わたくしも状況は確認しておりましたの。彼女の炎を操っていたのは、他ならないわたくしですから。ねぇ…フォティア」


 何もない空間を見つめるリンドウの視線の先から、突然炎の球体が出現し、炎の精霊が現れた。彼女の声と共に部屋の温度が急激に上昇する。これは炎の精霊が及ぼす影響のひとつだ。大精霊ともなれば、本人の意思は関係なく存在するだけで気温を変えてしまう。


 ぐっしょりと濡れた兵の肌から徐々に水分が消えていくのが分かる。


 「なんじゃ?兵なら100人ほど焼いたぞ。そろそろ自分の力でどうにかせんか」


 フォティアが不機嫌そうにリンドウへ目配せだけを渡す。雨や雪は彼女が最も嫌う天気だ。天幕の中でなければ姿すら見せなかったかもしれない。


 「……兵力差は未だ歴然で、このままぶつかれば負けは見えています。外はあいにくの大雨。サトル様から戦場を預かる身として、この戦況を打開せねばなりませんの」


 フォティアが困り顔で腕を組んだ


 「しかしのう、お主。我にだって出来ぬことはある。助けてやりたい気もするが、雨の中敵を焼くなんぞ至難の業なのだ。一人ならともかく、数百人相手となると尚更じゃ」


 「ですが、他の者は既に戦場の流れを変えていると聞き及んでいます。わたくしたちだって、協力して状況を打開できるはずです」


 「他の者って誰じゃ?…ほほん、お主もしや…くふふ」


 フォティアがいたずらっ子な顔で笑う


 「それは…」


 リンドウの思考の裏には、カルミアの姿がちらついていた。彼女はたった一人で敵本隊とぶつかっていると聞く。通常であれば自殺行為でしかないそれも、彼女でやればやってのけると思えてしまう。それが羨望とは、もっと別の感情が内で疼くのだ。


 「くふふ、それならまぁ、協力してやらんこともないがの。サトルのために勝利をプレゼントしたいのであろう?」


 「…ん」


 リンドウが俯いたまま、コクリと頷く


 「しかし、問題はこの雨じゃの」


 「そうですわね…せめて、フォティアが雨に守れた状態で、敵にひとっとびで飛んでいき、その場でありったけの炎魔法を打ち込める方法があれば……」


 「飛んでいくのは造作もないが、如何せん雨に当たれば我は弱体化してしまうからの。魔法の行使もうまくはいかん。物に宿ることはできるが、我と親和性のない物に憑依しては、我自身がその場から動けなくなるしのう」


 リンドウも苦い表情を見せ、フォティアが賛同するように頷く。


 すると伝令が余計な一言を発した


 「投石器なら1基、こちらにも配備されているのですが、この雨ですからね。フォティア様を乗せたとしても濡れてしまいます。雨に晒された状態で魔法を行使するのは難しいです」


 リンドウがハっとした顔をして伝令に顔を向ける


 「それよ…!それを使いましょう!」


 「は?はい…?」


 「フォティアを投石器に乗せて飛ばすのよ」


 フォティアがやれやれと肩をすくめる


 「お主、そこな兵の話を聞いておったか、我は雨に濡れると―」


 「それなら、フォティアを樽の中でも詰めて飛ばせばいいわ」


 「なんですと!?我を箱に詰めると!?大精霊である我を―」


 リンドウはフォティアのぼやきを無視し、伝令に伝える


 「皆に伝えて、投石器の用意を。前線を維持している部隊には、合図で前線を下げさせて」


 「っは!」


 リンドウも準備を進めるため、天幕から出る。残されたフォティアは拗ねたようにぼやく


 「我が弾扱いとは、我は大精霊…のはずなんじゃが!?」


 精霊使いの荒い主人であった



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