征伐編 23話
フォマティクス軍第二部隊の将校視点
* *
「前方、竜人を中心に構成された部隊を確認しました!数は100程度の少数です!」
第二部隊を任された将校は、前方に狭く展開している竜人たちを視野に入れると頷く
「うむ、確認した。ソード・ノヴァエラの部隊で間違いないだろう。数は少ないが油断するなよ。遠距離攻撃の部隊から一斉攻撃で容赦なく叩くぞ」
「っは…!」
「うむ…それにしても、少数民族の竜人か……」
「なにか懸念点でも?」
将校はヒゲを触りながら語る
「いや…なぁに、竜人という亜種の実物を見るのは初めてだったのだ。なんせ奴らはドラゴンを信仰する変わった集団だ。その他のことには一切興味を持たず、外部との接触も避けてきたとか。そんな浮世離れした連中が、まさか表立って国同士の戦に出るとはと思ってね。向こうの領主はどうやって味方に引き込んだのか」
将校が魔道具を使って遠方の竜人たちを改めて確認する。
筋骨隆々な竜人たちの先頭に立っているのは、戦場に似つかわしくないほどの華奢な女性だ。遠方からでは詳細には見えないが、女性は僧侶が好んで使用する錫杖を持って、精神統一しているように見える。周囲の竜人たちは整然としており一糸乱れず、女性の精神統一を守るように立っている。
その姿を見て、心がざわつくのを感じた。嫌な予感というものだろうか。
「…まぁ、いい。魔法部隊が前線に出次第、攻撃を始めろ」
「っは!」
儀式か何かは知らないが、法撃距離からはだいぶ離れている。障害物が多いとはいえ、数は100程度だ。一瞬でカタがつくだろう。
嫌な予感を理屈で飲み込んで部隊の編制を待っていると、伝令からありえない言葉が飛んできた
「お待ちください、敵竜人族からの攻撃です!」
「…は?」
前線とはいっても、標的が点に見えるほどの距離がまだある。仮に魔法が届いたとしても威力は減退している上、ここから正確に相手を狙うことなんてできないはずだ。
「どういうことだ!」
怒鳴り散らすと伝令はバツが悪そうに報告を続けた。
「は、はい…神官のような風貌の女の魔術の類かと思われます。人の丈ほどある大火球が我々の魔法部隊を強襲しています!その……」
「なんだ、早く言え」
「ええっと……まるで炎自体に意思が宿っているかのように、逃げても避けても正確に追尾して攻撃を加えているようです…」
「そんな馬鹿なことがあるか!」
怒気を含ませた声を放つが、兵たちに嘘をついている様子は見られない
「ほ、本当です!!…し、信じられないことですが……今こうしている間にも、前線に出している兵たちが、抵抗できずに焼かれています!被害状況不明、負傷者が増え続けています!」
「ッチ……」
頭の中は何故で一杯だ。竜人の持っている固有の魔法だろうか。だが遠方から正確に相手を追尾する火球など、そんな魔法は聞いたことがない。こうなっては遠距離同士の潰し合いは、こちらに一切の分がなくなる。数は圧倒的に勝っているが、一方的に遠方からやられるのだけは避けたい。ならば取れる手はひとつしかあるまい。
「いかがいたしましょうか……その、そろそろ動かなければ魔法部隊は全滅して――」
「えぇい、うるさい!!くそ……数は圧倒的にこちらが上だ。前線に出した魔法部隊は捨てる。標的にされている部隊を盾に、歩兵で距離を詰めて、あの竜人の女の魔法を止めるぞ」
「魔法部隊を盾に…って本気ですか!?」
「伝令ごときが口を出すな。これが戦争だ。勝つための犠牲だ。さっさとしろ!」
「…っは。承知いたしました」
将校は魔道具を地面に叩きつけて怒りのやり場を探す
「くそが…!」
竜人だかなんだか知らないが、数100如きで小隊をひとつ潰した借りは返させてもらう
しかし……
強い怒気で意気込む将校は、これが誘い出しの一手だとも知らずに悪手を重ねていくことになる。
大火球の正体は、リンドウが使役する精霊フォティアでした。彼女も活躍しています。